新しい家での生活から、もう3カ月が過ぎた。

茶の間の窓を開けると、すでに見慣れた高層ビル群が遠くに見えた。

その建物が見えることで少し息苦しくも思えていたが、この家からの眺めはとても良いということにこの3カ月で気がついた。

もともと坂の途中にあるこの家は、目の前の家より一段高い場所に建っており、風景をさえぎるものが何もないのだ。

一緒に家を選んでくれた友人は、この風景の良さをきっとわかってくれていたのだろう。

休日の今日、この見晴らしの良さを活かして布団を干そうか―…そう思っていた矢先、結衣子の家のチャイムが鳴り、予想外のものが届けられた。

この家と同じ間取りということで噂の、お向かいである家への宅配物だ。

宅配物の保管期間が今日で切れてしまうこと、依頼主に返品しても何回も送り返されてほとほと困り果てているということ。

まさに宅配業者からの泣き落とし状態で宅配物を任されてしまった結衣子は、手に持った封筒の宛先を見、まだ見ぬお向かいの人物の名前を知ることになる。



『島田 開』



名前からして男の人だろうか、と結衣子は頭をひねる。

この3カ月で、向かいにはたしかに人が住んでいるということはわかっていた。

結衣子がウナギ屋から帰ってくる夜9時過ぎ、毎日というわけではないが週に2,3回は電気が点いているのだ。

住み始めてから最初の一週間で挨拶にも行ってみたが、誰も出てきてくれずにズルズルと3カ月を過ごしてしまった。

そんな『いるのは分かっているのに会ったことのない人』は、どんな人なのだろう。

ちらりと壁に掛けられたカレンダーを見ると、今日は平日である。

ウナギ屋での修業期間3ヶ月を終え、今までは土日と決められていた休日を初めて平日にしてもらえるようになった。

つまり、店で使える者として認められたということだ。

実家がウナギ屋だったこともあってか、通常は一年と決められているらしい勤務先のウナギ屋修行も早く終わって安心したところで、まだ見ぬお向かいさんに会う。



「うん、いつかは会わなきゃいけないし」



自分に喝を入れるように立ち上がり、結衣子は宅配物を持って玄関へと向かう。

この出会いは、必然だったのだろうか。

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