10万回の“I love you” B
無情にも何の進展も見られなかったクリスマスから一週間。
迎えた大晦日の深夜、神社の境内に並ぶ一護と雨竜。
約束した『二年詣り』に訪れたのだ。
「こんな時間、初めて来たけど…結構混んでいるんだな」
「そうだな。まぁ俺は、お前と一緒に過ごせるなら何処だろうと幸せだけどな♪」
さらりと日常会話に紛れ込ませた口説き文句もすっかりと板に付いた一護である。
「まったく…いい加減飽きないか?」
「いんや全然?寧ろ日々お前の事が好きだって実感するな」
「―――あ、そうι」
当初雨竜は10万回などと云う無謀な数字を提示したのはクリアする前に諦めるであろうと踏んでであったのだが、あろうことか一護はあと一回でクリアしてしまう迄に切迫していた。
それを知るのは当人たちのみ…に非ず。
実は密かにヒトの恋路に興味津々なお年頃のクラスメイトにも把握されていたりする。
「なぁ…」
「…何?」
二年詣りの人混みの其処彼処に紛れ込んだクラスメイトと云う名の暇人たちがこっそり聞き耳立てる中、一護は真剣味を帯びた声で雨竜に呼び掛けた。
「俺、本気でお前が好きだから…出来ればまた来年も再来年も、この先ずっと何度でも…こうしてお前と初詣に来たいんだ」
「黒崎…―――」
「俺と、この先の人生ずっと一緒に居てくれないか?石田」
“10万回目、とうとう言ったぁぁぁあっ!!って云うかソレもうプロポーズだからな!?黒崎ィィィィイ!!”
盗み聞いていたクラスメイトが声を殺して色めき立つ。
果たして、当の雨竜の返答は。
「――――― 」
ご―――――…ん
まさかの除夜の鐘によって、見事に掻き消された。
「「「空気読め!除夜の鐘っ!!(怒)」」」
「Σぅえ!?何事っ!?」
「聞いてやがったな…アイツらι」
人混みに合わせて牛歩の歩みで辿り着いた本堂。
二人並んで賽銭投げ込み柏手打って、掛ける願は果たして。
「随分と真剣に、一体何をお願いしたんだ?」
「ん〜?そんなん決まってんだろ。
『これからも石田と一緒に居られますように』
って…。で?お前は?」
「…知ってるか?黒崎」
「?何だよ?」
「ヒトに喋ると、その願掛けは叶わないって云われてるんだよね…一般的に」
「Σマジでか!?」
そっと視線を外して告げられた定説に、思いっ切りショックを受ける一護。
その剰りにも真剣に悩む姿に、雨竜の頬は自然と弛む。
「ふふ…まぁ、来年また同じお願いすれば?その時には口を割らないように気を付けて、ね?」
ふわりと綻ぶ笑みに、一護の心臓がひとつ跳ねる。
新年早々縁起が良いと、先程までの憂鬱さも吹き飛ぶなんともお手軽な男であった。
「まぁ、来年もこうして初詣に来られるか否かは君次第だけど」
「Σえ!?お付き合い確定じゃねぇの!?この先ずっと一緒に居てくれんじゃねぇの!?」
「甘いな黒崎一護。僕はそんなに甘くはないよ」
なんて言いつつ雨竜はすっかり一護の一途さに絆されている自分と云うものを自覚していた。
“今更心変わりなんてしないだろうが…言うと付け上がるから、当分は秘密だな”
これからの一年、雨竜に好いように振り回される事だけは確定した一護である。
2010.12.08
10万hitおめでとうございます!
今後も恵子様にはマイペースを保ちつつ、イチウリを量産して戴ければと願いつつ捧げさせて頂きます。