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 かぴかぴのおもち(3)

兎は何がなんだか、もう分かりたくありませんでした。
分かりたくないけれど、月はもう自分には語り掛けてくれないことを悟りました。

ぽんろ、ほろほろ、ぽろり。

月の欠片がふわりと風に弾け、雪のように降り注ぎます。

橙色の雪でした。

それはそれは綺麗であたたかな灯りで、いつか月と見た螢なんかとは比べ物にならないくらい、月の涙と同様、美しかったのです。
ですが兎は、それが美しいと思えば思うほど異様に切なく胸を締め付けられ、とうとう声を上げて泣き出してしまいました。


月、月! 行ってしまうの?
まだ伝えたいことがたくさんあるんだ!


兎は何かに弾かれたように一生懸命に、地に落ちたそれをかき集め始めました。


お願い、帰ってきてよ。
また僕とお話しようよ。
天気なんかのくだらない話をしてさ、
一緒に変なお伽噺を作ってさ、
そして笑い合おうよ。
月はとても物知りだからまだまだ聞きたいことがたくさんあるんだ。
だから行かないでよ。行かないで。


兎は眼を真っ赤にしてぱらぱらと涙しながら、指先が悴んで感覚がなくなっても、月の欠片を拾い集めました。

行かないで。行かないでよ、と。

そうして後から、腕いっぱいに抱え込んだ月の欠片を、大きな大きなビイドロで出来た瓶にひとつずつ、丁寧に入れて、呆然としたまま突っ立っていました。
そうすると暫くして膝の力が抜け、がくんと膝を折って兎は畳に頭を押し付けて泣きました。


うわあああああああん、月、月! と。


ふわりと優しく橙色に輝く月の欠片を握りしめて、また泣きました。


うわあああああああん、月、月! と。


それから幾日経ったでしょうか。
兎は大きなビイドロの瓶に詰まった月の欠片をぼうと見詰めていました。
ひとつずつ、ひとつずつ詰めた月の欠片は、優しく橙色に輝きながら、兎の涙に共鳴しました。

兎の眼は蒼からすっかり赤くなり、涙は枯れ、ただ兎は、月の欠片が入った瓶を抱き締めていました。

小さな小さな月の欠片が詰まった、大きな大きなビイドロの瓶。
ただ抱き締めたまま、月の欠片を見つめていました。
見つめていると心が和らぐ、そんな気がしました。

月と過ごした日々を思い出しながら、ただ、虚空にたゆたう兎の気持ちを兎は必死にかき集めました。


月、忘れないよ。楽しかったよ。
けんかをしたね。でも、すぐ仲直りしたよね。
たくさんお話を聞いてくれたね。
たくさんお話をしてくれたね。


兎は最後に大粒の涙をぽつ、り、と畳に落として、こう言いました。

ありがとう。と。

そしてまた、兎はひとりぼっちで、ぺったん、ぺったん、餅米をつき、お餅を作ります。
冷めた、すこしかぴかぴになった、お餅を

ひとりで、




ゆきさまへ






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