short | ナノ

 夢だったとしても(2)


「シンジツノアイについて考えてた」
「はあ? ……シンジツノアイ?」
「そしたら頭いっぱいになっちゃって、ぐわんぐわんしてきた」
「暑かったからだろ?」
「違うの、それもあるけど違うの」
「じゃ何だ? 考えすぎちゃったか」


苦笑して彼女の話に付き合ってやる。
相変わらずくそ真面目で、ずれてる彼女がいとおしい。
彼女は布団に潜り込んだまま、シンジツノアイとやらについてぽつぽつと話し始めた。

ただの学生の恋愛が本当に始まりなのか、
それがいつまでも続くのか、
……その気持ちは愛ではなく、勘違いなのではないか、と。
小さな、か細い声で、彼女は言った。

シンジツノアイ、真実の愛。
彼女は言葉を慎重に選びながら、ゆっくり話を続けた。
僕は彼女の傍に寄り、静かにそれに耳を傾けた。

真実の愛。
それは昨日のことで、不意に、彼女の友人たちの間で、昼休みの話題になったことだった。
勿論彼女の友人たちは真剣に議論していた訳ではなかった。
一頻り面白おかしく哲学を語り、結局そんなもん私たちには早すぎる話題ねと言ったところで本鈴が鳴りお開きになったらしい。
それから友人たちは授業間の休み時間にはもうそのことには触れなかった。友人たちには、既に終わった話題だったのだ。
けれども、彼女は真剣に考え込んでしまった。
シンジツノアイってなに? と。

取り敢えずそこまで聞いた僕はと言えば、彼女の深すぎる思考に付いていけずにどこか蚊帳の外にいるような気分になり、困り果ててしまっていた。
確かに校長の自慢話は長ったらしいが、そこまで哲学的な方向に思考が曲がるほど退屈だったのだろうか。


「で、答えは出たのか?」


ふるふる、と布団の中で彼女が首を振ったのが分かった。
確かに、こんなに漠然とした疑問は、二十八分ごときでそう簡単に答えが出る問題でもないな、と思う。


「シンジツノアイって、なに?」


先程と同じ疑問を、彼女は言った。
僕にそれを問う。
僕は、シンジツノアイについて考えたことなど、ない。僕にはそんな議題を考える切っ掛けすらなかったからだ。
だが、彼女には訪れた。
シンジツノアイについて考える切っ掛けが。

僕は閉口した。


「シンジツノアイ、あなたは信じる?」
「だから、シンジツノアイって」
「私たち学生でしょ、ただの学生でしょ」


……成る程、そうか、と、僕は理解した。

真実の愛。シンジツノアイ。
彼女は、不安なだけなのだ。
僕が本当に彼女を愛し、そして想い続けてくれるのだろうか、と。

漠然と、彼女は気付いているのだ。
シンジツノアイの、答えになるものを。
ただそれが、うまく言葉に出来ないでもどかしいだけ。

僕は、それが僕たち二人にとって、大切な鍵になるように思えて、急に胸がざわついた。
僕たちは、軽い気持ちで互いを想っている訳ではない、はずだ。そう信じてたはずなのに、大きな不安の渦に巻かれている気分になった。
彼女もまた、僕と同じ気持ちで今。


「こわいよ」


彼女の切なそうに震う声が響いた。
涙。今は見えないけれど、きっと彼女は今涙している。切なくて、不安で。
そんな気持ちを心のどこに仕舞えばいいのか分からなくて。
自分が考えたシンジツノアイに惑わされて、先程の僕と同じように彼女もまた、胸がざわついたのだ。

僕だって一度は、このままでいいのか、これが正しいのかと考えたことがある。

彼女と過ごす一時が、本当はままごとなのではないか、と。
本当に彼女のことを好き、否、『愛している』のか、と。

学生の恋愛は拙い。
大抵が勘違いから始まり、すぐに別れたり、すぐに次の相手と付き合い始めたり。
物凄く不安定な、恋愛ままごと。
けれど僕が行き着いた答えはこうだ。
『僕たちは違う。』

僕と彼女は幼なじみだ。
だが、不思議と互いを幼なじみだと思ったことは無かった。家が隣で、幼い頃から仲が良かった。それなのに、互いを幼なじみだとは、思わなかったのだ。
何故かと問われれば、『僕たちは、すでに恋をしていた』と答える。
そう、その『幼なじみ』だった頃から。

お互い、根が真面目で、それでいて考え方が対極的だったのが、僕たちには刺激になった。
彼氏、彼女の肩書きはなかったし、キスやハグさえもしなかった。
そういった知識はあったと思う。
だが、僕たちはそうしなかった。
だって僕たちは恋をしていたのだから。

恋をしていたから恋人らしいこともしなかった、……これはかなり不自然な表現だと思われたかもしれないが、僕たちの恋は簡単に言葉で表せるものでは無かった。
強いて言うならば、神聖な領域で、愛し合っていたと言おうか。





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