霄さまへ / おもちパレエド
――こっち向いてよ。ぼくと遊ぼ。
なんて、その時ぼくには言えるはずもなかった。
ただ、彼女が嬉しそうに人形を抱いているのを眺めていた。
人形の髪を撫でたり、ドレスを整えたりしているのを、ぼんやりと。指先はぎこちなく、“もらったばかり”の人形はそれを幸せそうに受け入れている。そんな風に、ぼくには見える。
だからこそ、今は、ぼくと遊んではくれない。
彼女がぼくにかまってくれないのは、いやだ。だけど、彼女からそんな小さな笑顔を奪ってしまうのも、いやだ。……ぼくは、顔を俯ける。
どうしたらぼくを振り向いてくれるだろう、悔しい。悔しくて、いらない涙なんかが溢れてしまいそうで、それがまた、悔しい。
「……それ、名前ついてんの?」
涙声だったかも、と、はっとして咄嗟に顔を逸らした。悔しい次は、恥ずかしい? ぼくの心は大忙しだ。
「ええと……まだ。たくさん悩んでるの」
「じゃあ、ぼくが付けてあげるよ」
「えっ! いやよ、私が付けてあげるの」
「ヨモギモチでいいじゃん」
「よ、よくないよ。全然よくないよ、もっとかわいいのがいい」
「キナコモチ……あ、サクラモチは? ピンク好きでしょ」
「なんで全部おもちなの? おなか空いてるの? だめ! ぜんぶだめ!」
「なんだよー、人がせっかく名前を」
「そういうのじゃなくて、」
いい? 女の子はね、
得意気に人差し指を立てて、ぼくにお説教する彼女。背伸びしていて、ぼくを少しだけ抜かすから、あんまり好きじゃない彼女だ。
普段は、つらつらと長い話を聞くのはつまらない。それよりも駆け回りたいし、オンナノコの言い分は訳が分からないから。
……今は、違う。
人形を抱く手が緩んで、ぼくに向き直って、話してくれている。それだけ。本当にそれだけなのに、それがなんだか、すごく嬉しくて。
「うん、……うん」
「きらびやかだけど、おしとやかな感じの……、……うん?」
素直に頷いているぼくを不思議に思ったのか、彼女が首をことんと傾げる。それはそうだろう。だって、いつも『わかったわかった』で済ませるのだから。
「今日は、きいてくれるの?」
「きいてやってもいい気分なんだよ」
「ど、どうして上からものを言うのっ」
「きいてあげるから、ぼくと遊ぼ」
「えっ、あっ」
「……なに?」
「ふふ! そっかあ、」
彼女はぼくを見てへにゃりと笑い、人形をまた抱き締めた。ぼくはもちろん、それをあまり良く思わなくて、眉をひそめる。
また人形で遊ぶの?
不機嫌になって、もや、もやもや。
せっかくお話出来て、いっしょに遊べると思ったのに。急にふにゃふにゃ笑って、なんなんだろう。
そんなことを考えているうちに、また、ぴっと得意気な人差し指が立つ。
「お人形さんより先に、きみにお名前付けてあげるね」
「? ぼくはもう、名前あるよ。知ってるでしょ」
「あだな!」
「……きいてあげる」
彼女がまた笑う。
人形を差し出して、こう言った。
かしてあげる。ヤキモチくん!
(……誰か、代わりに言い返してよ。)
――おしまい
だ、だ、大遅刻でごめんなさい(;w;)!
相互リンク、ほんとにありがとうございます!
霄さまよりいただきました『恋敵人形』から、ちょっと展開させてみたり。
細々としたところは拾えませんでしたが……、すてきなSS、リンク共々、重ね重ねありがとうございます。
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[mokuji]
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