短編ログ | ナノ
昔の貴方を思い出せなくなってくる

私はあなたへと思わず腕を伸ばした。
少し伸ばすだけで、あなたへは触れられた。

だけど、遠くにあなたを感じてる。
身体だけはこんなにも近くにあるはずなのに。

心も、きっと…近くにある、はず?
だけど、それならばどうして


アナタヲ トオクニ カンジテル?


私はあなたと永くは生きられない身体になった。
きっと、そうだろうって覚悟はしていた。

ここはある病院のある一つの病室。
あなたは毎日欠かさず決まった時間に見舞いにくる。


「…ねぇ、なんで?」


あなたは私をこんなにも切なく見つめている。
私はあなたにはまだ何も伝えていないのに。

これは、彼の直感だろうか?
そんなのは私にはわからないけれど。


「…どうして、君なの?」


私はあなたに押し倒された状態で
ベッドに縫い付けられていた。

先ほどから、私の両手首を固定している
あなたの両手が震えている。


「…どうして、笑っていられるの?」


いつものあなたでは、考えられないくらい
小さい声で、弱い声で、呟いた。

なんで、どうしてって。
そう、私に向かって言ってきた。


ワタシダッテ ソノリユウヲ シリタイヨ、


神様は私を選んだんだ。
この地球上にごまんと居る人間の内から。

たった一人だけ、この私を。
神様はお選びになったんだ。

私とあなたの歪んだ愛。
あなたは、どうして私を選んだの?

私はあなたのその綺麗な目に惹かれたの。
自分以外を認めようとはしない、その孤高な瞳に。


「…生きてよ。…僕の為に生きて」


そのあなたの願いは、叶えられそうにはない。
ごめんね。ごめんね…恭弥。

そして私は目を見開いた。
上に居る彼から、ぽたりぽたりと雫が降ってくる。

あなたも泣くのね、って
震える手の拘束から抜け出した私の右手で

静かに涙を流すあなたの目、頬に触れた。
あなたはとても温かかった。


「…何言ってるの?

 君だって、泣いてるじゃないか」


私はあなたへと思わず腕を伸ばした。
少し伸ばすだけで、あなたへは触れられた。

私はあなたと永くは生きられない身体になった。
きっと、そうだろうって覚悟はしていた。

今、あなたは私の為だけに泣いてくれている。
美しい、愛おしい、狂おしい。

だけど、でも…
こんなにも狂おしく愛おしいあなたとも

そろそろお別れのようね。
私には、彼が…恭弥が全てだった。

もしも、あなたと出会っていなかったら
もしも、あなたと恋に落ちなければ
もしも、あなたと
もしも、
もしも、
もしも



あーあ。
運命は残酷だ。


ドウシテワタシナンダロウ。


弱々しい笑い方
昔の君を思い出せなくなってくる


end

20100909
20101204 修正
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強者の涙
title by 207β(http://nanos.jp/207b/)


あとがき
なんだか、私は雲雀さんでは狂愛系の夢しか書いてない気がします。
今回はあの恐れ多い天下の風紀委員長さまを泣かせてみました。
死ねたとか、暗い感じのお話が苦手と言っていたこの私が
このような内容の夢を完成させてるなんて、進歩だと思います。

それでは、最後に名前変換無くてすみませんでした。
これからも、どうぞ宜しくお願いしますね。

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