魔法薬学は苦手だった。
調合に使う材料や薬品も、気味の悪く薄暗いこの地下牢も全部苦手。それに細かい作業も性に合わないし、調合そのものが何より嫌いだった。
そして隣りの彼――――セブルス・スネイプが大の苦手だった。
どうしても上手くいかず、愚痴を零してしまいそうになるがここはグッと堪える。指示通りに作っている筈なのに、教科書の様に仕上がらなくても、挫けずに作る。当然ながら、この私、ナマエ・ミョウジの魔法薬学の成績は芳しくない。
魔法薬学というものにはじめて出会い、そのややこしさに顔をしかめ続ける事はや四年と三ヶ月。今までの一度も、完璧に作れたことがない。きっと今年も、進級ぎりぎりラインの合格点数なのだろう…そう考えると少し気分が憂鬱になった。
「うわぁ…(このイモムシ気持ち悪い…)」
大体、あんなにややこしいからいけないんだわ。右に何回掻き混ぜようが、左に何回掻き回そうが、どちらも同じことだと思うの。
それなのに、一回でも多く掻き混ぜるだけで色が変わったり、どろどろになったり…(そういえば、爆発なんてこともした事があった。)今ではいい思い出だ。
…そんなふうに、混ぜ方について大真面目に主張したこともあったが、その話を聞いた友達からは笑われるだけで終わってしまった。
「余所見など…随分余裕なようだな、ミョウジ。」
「…スネイプ」
今回の実験材料の一つであるイモムシと格闘していた私に声を掛けてきたのはセブルスだった。セブルスは自分のものはすでに煮てしまっていて、後はそれが冷めるのを待つばかりだった。
「何の用ですか、また何か言いにきたんですか。」
「…別に貴様のものがどうなろうと僕には関係ないが、また羽ペンが溶かされては困るのでね。」
「…っ!…そのことについてはもう詫びたと思いますが?(なんだよコイツ…ねちっこい性格して!)」
私の言葉にセブルスは小馬鹿にしたように(ってか小馬鹿にして?)鼻で笑った。それから、私はセブルスから視線を外すようにして、目の前の大鍋と向き合う。
ぐつぐつと先ほどのイモムシが大鍋の中で茹でられている図は見ていたくなかったが、隣にいるセブルスが、私のことを観察するような目で見ている気がしたので動けなかった。
「おい…」とセブルスが声をかけてきた。「何か?」私はちょっといらいらとしながら答える。
「そろそろ、入れた方が良いんじゃないか。」
「え?…あ!」
「全く…ほら。」
「あぁ、うん。ありがとう。」
セブルスがそう言った直後、ぐつぐつと茹でていたイモムシが藍色になって泡が吹き出してきた。これは危なかった。
セブルスがこのナントカって言う葉っぱを入れなければまた大鍋を爆破させるところだった。嫌味を言う癖に、ちゃんと分かり易く説明をしてくれたり、今日の様に指摘してくれたりするセブルスにちょっとだけ感謝したくなった。うん、ちょっとだけ。
それから作業は進み、(その間もセブルスは私を見ていた)やっと提出用のビンに入れることが出来た。
「えっと…今日はありがとう、セブルス。」
「…フン。」
授業が終ってから、私はセブルスに言った。彼はそっぽを向いて、すたすたと寮へと帰ってしまったが、なんとなく照れていた気がした。私は小さくなる彼の背中に大声で「ありがとうね!」と叫ぶ。
でも、セブルス…一つだけ分らないことがあるの。あなたはその答えを知ってるわよね?
敵対しているはずのグリフィンドールの私に親切なのは…。いつもいつも、魔法薬学のときは隣に座ってくれるのは…。今日みたいに私の面倒を見てくれるのは、私があなたの羽ペンを溶かしちゃったから?
空想マインド
ねぇ、セブルス…教えてよ。
どうして私だけにやさしくしてくれるの?
(期待、しちゃうでしょ!はっきりしてよ)
end
20100719
20130606 修正
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title by 水葬(http://knife.2.tool.ms/)
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