今日は丁度、近くの街で市場が催されるらしい。
ルッスーリアが私にそう言った。
「ザンザスー」
名前は買い物を頼まれた。
誰にかって?それはもちろん、ルッスーリアに。
『名前ちゃん、これを見て?』
『なあに、ルッスーリア?』
『これに書いてあるものを買って来て欲しいんだけど、いいかしら?』
『うん!分かった。ルッスーリアの為なら、何だってするわ!』
『ありがとう。そうだわ!一人じゃ危ないから誰かと一緒に行ってきてねん!』
『そうするーー!』
とまぁ、こんな具合で。
誰かと一緒に行くように、と言われた私が真っ先に向かったのはザンザスの部屋だった。
「なんだ」
返事が聞こえて、部屋に入ると彼は本を読んでいた。
そして、用件を話すとザンザスは読んでいた本にしおりを挟まずに閉じ、部屋を出ようとした。
「え?」
「…行かねぇのか」
「おつかい付いて来てくれるの?」
「仕方ねぇからな…(お前はまだ危なっかしくて目が離せねぇ)」
「え、でもでも…本当にいいの?」
「オレが付き添いじゃあ、不服か?あ?」
「いえいえ、とんでもないです。十分です」
「金は?」
「大丈夫だよ。ルッスーリアから貰ってる」
「行くぞ…」
「え、あ、うん。って待ってよ!」
今日はたまたま仕事の無かったザンザスは退屈しのぎくらいにはなるだろう、と思って
名前の買い物と言う名のおつかいに着いて行くことにした。
ヴァリアーの屋敷を出て、車に乗り込む。
しばらく車を走らせると人が溢れている街が見えて来た。
運転手を含めた三人を乗せた車はいよいよ市場へと着く。
「うわぁ…人がいっぱい」
「…さっさと済ますぞ」
いつもなら、さけて通るはずの賑わいを見せる市だが、今日は
ルッスーリアの頼みと言うこともあって、そちらの方へとザンザスと一緒に足を進める。
「おい」
「へ?」
ザンザスは名前と手を差し出していた。
そして続ける、お前は絶対迷子になるからな、と。
「そんなに子供じゃありませんー」
「ハン…そういう反応が子供なんだよ、お前は」
私は恥ずかしくなって、プイッと顔を逸らしたがザンザスは私の左手を掴んで歩き出した。
「ぅわっ!ちょっと、ザンザスっっ」
「うるせぇ、黙って買い物終らせるぞ…ほら、紙を貸せ」
「うーー……はい、これ」
「フン…ドカスが」
ルッスーリアの手書きによる買うもののリストの紙を受け取ったザンザスは、僅かに目を細める。
「どうしたの?」
「何でもねぇ…」
珍しく笑った彼に訊ねた私は、手を更に強く握った。
逸れないように、迷わないように、と。
end
20100610
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