短編ログ | ナノ
オー・ラ・ラ

「君のことが好きなんだ!だから僕と…」

気まずい場面に遭遇してしまった。僕は何と間の悪い男だ。それは数少ない僕の友人が、告白を受けているシーンだった。
授業のない午後。僕は大木の木陰で読書をしていたが、いつの間にか眠ってしまったようだ。そして、タイミング悪く、人の声に意識が浮上し目覚めてしまったというわけだ。

こんなに天気の良い日なのだ。
ここはホグワーツの中庭よりもずっと人通りは少ないし、湖も臨める穏やかな場所だ。読書をしたり、息抜きをしたり、そして、このように思い人に告白するのに最適な場所だった。

いつもなら、気にしないで本の続きでも読めば良い話だが、今回ばかりは無視して他人事にすることができなかった。膝の上に置いた本のページが、やわらかな風に吹かれてペラペラと捲られる。

男子生徒の方は、たしか上級生で、それなりに顔もいいし性格もいい奴だという噂だ。クィディッチのレイブンクローの代表選手も務めていると聞く。
さらに女子生徒の方は、僕の数少ない友人であり、僕の好い人である。学年は僕より一つ下。レギュラスと同窓のレイブンクローの少女だったのだ。

「……ごめんなさい、今は勉強がしたくて…」

僕はホッと息をついた。

「あなたのこと、考えられません」
「そ、そっか。うん…そうだよね?」

彼女は真面目な生徒で、恋愛事には興味がないらしいという噂は本当だった。「今日は呼び出しに応じてくれてありがとう、それじゃあ、」
上級生の男は、それだけを言うと校舎の方へ帰って行った。もう一つの足音は聞こえない。ということは、彼女はまだそこにいるのだろうか。

『一体、あの人はこんな私のどこが好きなのかしら?』

すると彼女の声は、聞き慣れない音を紡ぎ出した。

『誰もまだ、ほんとうの私を見たことがないくせに』

もっとよく聞こうとして移動した時に、膝の上から本が落ちた。ガサリ、という音は彼女の耳にも届いたらしい。草の上の本が恨めしい。
「誰かそこにいるの?」
彼女は、聞き慣れた言葉でそう尋ねてきた。仕方なく、僕は本を拾って立ち上がった。木の蔭から出てきた僕を見て、彼女は目を丸くする。

「先輩、いつからそこにいたんですか?」
「…君が告白されている時からだ」
「もしかしてはじめから?」

僕が頷けば、彼女はその色の白い頬を桃色に染めて「不行き届きで申し訳ありません」と頭を下げてきた。

「ご迷惑をおかけしました…お恥ずかしいところをお見せしてしまって…」
「何をそんなに謝る必要があるんだ」
「ですが、気まずかったんじゃありませんか?」

僕が何も言えないままでいると、彼女はきまり悪そうにウロウロと目を泳がせる。
「……やっぱり、すみませんでした」
もう一度頭を下げた彼女は、用事を思い出したとかと言ってパタパタと校舎の方へと駆けて行く。それを残念に思いながらも、追いかけてゆく気力もなくて、僕はもう一度大木の根元に腰を下ろした。

もう読書をする気分ではなかったが、ふと目に映った湖が、陽光を反射してやけにキラキラしている気がするのは何故であろうか。

あらどうしましょう きっと
聞かれてしまったわ

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20170415
20171027加筆修正
title by annetta(http://annetta.hanagasumi.net/)

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