短編ログ | ナノ
クレイジーガイ

こいつ、私の話なんて微塵も聞いちゃいねえ。さっきから拒絶反応を示しているはずなのに、松野家の次男に生まれし男云々、と訳分からぬ自己紹介を始めやがった。どうやらこいつの耳は、ただ顔の横に行儀良く付いてるだけの飾りのようだ。こういうやつには遠慮せずにズバッと言ってやるのがいいと聞いたことがある。私はNOと言える日本人だから!
「寝言なら寝てる時に聞いてやる、ただし起きてからは一切喋るな」

うわ、なんであいつがここにいるんだよ。玄関を開けて数歩先に松野カラ松。今日は休みだぞ。ただでさえ鬱陶しいし、最近エンカウント率が高いのに。とうとう家の位置まで知られてしまった。サッと青ざめる前にふつふつと真っ赤な怒りが湧いてくる。私の一存で引っ越しは決められないのが悔しい。あー、早くどっか行ってくんないかな、こいつ。
「どうぞお引き取りくださいっつってんだろ!」

こいつの目には、毎日がハッピーなホーリーデイに見えてるらしい。少し前にやつの耳は飾り物だと気付いたが、どうやらその目もただのビー玉らしい。キザったらしく私に声をかけてきたそいつは、一輪の真っ赤な薔薇を手渡してきた。いきなりの事で思わず受け取ってしまったが、あとで別の松に返却しておこう。その気のないやつに貰い物をするのは良くないってばっちゃんが言ってた。無視して歩くか、こいつと関わっていても良いことはない。
「こそこそ付いてくんな!」

お前はいつから私の影になったんだ松野カラ松。どうしてこいつに絡まれなければならないんだ。怖過ぎる。お前のそのクレイジーサイコパスなとこが当たり前になってきた自分が一番怖ぇよ。
その次の日も帰り道で松野カラ松と出くわした。だから、なんでお前が私の部屋の場所を知ってるんだ。しかもこの道が帰宅ルートだって知ってて待ってたとか、お前、それ立派なストーカーしてます宣言だって分かってるか。はぁ?いつも私のことを考えている?薄気味悪いこと抜かすなよ。
「お前のその執着心は鳥肌物だよ!」

待て、ちょっと落ち着いて考えてみるんだよ松野カラ松。そのメモ帳はなんだ。なぜ私の靴下のワンポイントをチェックしてるんだ。は、私のことはなんでも記録しておきたい?それはただの迷惑行為だよ!私にはなぜお前が私のことを付けねらうのかが全く分からない。いや、理由を説明しなくていい、理解するつもりはない。お前の目に見えている私はさぞかし良い女なのかもしれないがもうそろそろ現実を見ろ。
「お前のそれはどの病院へ行ったら診てもらえるんだ」

待て待てオイこら、カラ松くん?勝手に運ぶな仕分けるな。どうして夕飯の買い物にまでお前はいるんだよ。偶然装って付いてこようとすんな!そしてナチュラルに隣りを歩くな!立ち去れ立ち去れ!お前が去らねば私が発つ!もういい、走って帰ろ。
ったくなんでこんな日に限って、お母さんは牛乳とかお醤油とか味噌とか重たいもんを買い忘れるかねぇ。ちょっ、なんで追っかけて来るんだよ!腕を掴むな!は?お前の話を聞けって?…え、あ、そうなの。ほんとうにたまたまお使い頼まれたの?
「って言われても全く信用できないがな!」

はーい、どちら様。ってうわ、松野カラ松!はっ?なんで私が風邪引いたこと知ってんだよ。お前のとこの他の松とさえ同じクラスじゃないのに何で私が学校休んでること知ってんの。はぁ?自然がお前に教えてくれたって?嘘でしょ、どうせ下足箱確認したんでしょ。白状しなよ、図星かよ!看病なんざ頼んじゃいねえよ。逆に怖ぇよ、お前の第六感!
「クリアウォーターとかいらないんでお引き取りください」

こんなクレイジーサイコパスに好かれた私は、毎日が恐怖との戦いだよ。お前知ってるか?家に帰ると髑髏の革ジャンに痛シャツきたあいつが待ってんだよ。待たせたなとか言ってさ。いつも待ってるのはお前の方だろって言っても効果ないね。私のツッコミも聞いちゃいねぇよ。そういう申し訳なさそうな顔するくらいなら、お前んとこの次男に鎖でも付けてつないでおいてくれないか。
「ところであんたはなに松なんだ?」

いやいやいや、待ってよ!待つんだよ、カラ松!なんでお前が昨日の私の行動を知って…ああ、はいはい。君は私のストーカーだったね、いやみなまで言うな。もう気味悪がることにも慣れちゃったけどさ、お前ってほんとに私のことが好きなんだね。あのね、カラ松。私もそう鬼ではないよ。ただね、しつこくされるのは嫌なんだ。私に対しての執着心の一切を捨ててくれたらそういう風に見てやらんでもないよ、
「なんて言うと思ったか、このクレイジーサイコパス野郎!」

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20160304
ド天然にストーカーしてるクレイジーサイコパスなカラ松とお口の悪い女の子の話。

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