「日番谷、」
あいつはここに来るんだろうか。
夜、ひとりで眠れないあいつを部屋へと招いたのは俺。
あいつの不安を取り除いてやりたい一心で眠りにつくまでの間、手を握ってやったのも俺。
あいつはここに来るんだろうか。
また、来るんだろうか?
「日番谷。」
「日番谷ー?」
「日番谷サン…」
そういやぁ、昨日もこいつは来た気がするな。
気のせい…では無い。
こいつは俺の隊の新入りで第七席を務めている。
仕事の出来は、まあ悪く無い。
それに気が利くやつだから、他の隊員たちとも上手くやってるみたいだ。
「日番谷ちゃん?」
「シr…「隊長だ!」
「日番谷…隊長、今夜もよろしいでしょうか?」
こいつがうちの隊に入ってから、何日経ったんだ?
いや、何日も経ってねぇのか…記憶が曖昧だ。
山本総隊長から紹介されたのはつい先日の事だった。
そして次の日には既に、こいつは来てた。
「眠れないんだよねー、悪いね、日番谷ちゃん。」
「隊長だ……敬語はどこにいったんだ。」
「えーそんなのいいじゃないですか。」
「…わたしと日番谷ちゃんの仲じゃないですか?」
「何が、俺とお前の仲だ!お前と俺はそんな仲になった覚えはねぇぞっ!」
つい大声で怒鳴ってしまった。
あいつは目を大きく開いてビクリ、と肩を揺らす。
「…そうやって、わたしを追い返すんですね…日番谷ちゃんは…」
ひ、酷いです!そう言ったこいつの目は涙で潤んでいる。
…面倒な事になったな。
実のところ…こいつの涙を見るのはこれが二回目で、俺はこいつの涙に弱い。
「あぁーもう、分かったから泣くな!…っ勝手にしろ!」
「え…勝手にして良いんですか!ありがとう日番谷ちゃん!」
「…っちゃん付けやめろ!」
どうせこいつは明日も来るんだろ。
駄目だと俺が拒否したって、どうせこいつは構いやしねぇーんだ。
幾日か前、こいつに言われたことがある。
『わたし…日番谷の傍が一番落ち着く場所なんですよねー』
『はあ?』
『だから、ここで寝かしてもらえないと…明日からの執務に影響が…』
『あー、もう!分かった分かった…お前の好きにしろ!』
俺の目の前にある、俺の布団に先に入って寝る体勢を整えてるあいつを見る。
あいつは夜、夢魔に怯えてひとりじゃ寝れねぇし。
昼間は仕事が忙しくて、休息なんてしてる暇も無い。
一見、どこにでも居るような普通の女死神だが…。
あいつも、心に大きな闇を抱えて生きている。
そんなことを考えていると、あいつの声が聞こえた。
声のする方を見れば、布団からあいつの細くて白い腕が伸びている。
俺は差し出されたあいつの手を握り、同じ布団に入った。
***
今、俺の傍でやすらかに眠るおまえの横顔がいつの日も保たれますよう。
願わくば、この繋がれた手が、こいつの不安を少しでも…ほんの少しでも和らげますように。
end
20100429
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やさしい(∀`*)
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