短編ログ | ナノ
天使の前で赤面する僕ら

※学生松

「とっ…と、と…とととともっ…」
「一松くん、落ち着いて、ね?ほら、深呼吸。深呼吸」

放課後の二年生教室に、男子生徒と女子生徒というその条件がそろえば、もうそれは告白イベント以外の何物でもないはずだ。それが、このクラスの陰キャラ的ポジションで、その目付きのせいで周りに人を寄り付かせない松野家四男の松野一松と、クラス一の美少女と噂の天使苗字名前の二人だとしても。



松野家といえば、厄介な六つ子が有名だ。その中でも、自分と同じクラスである松野一松という男子生徒は、比較的真面目で勉強もでき、あの六つ子の中でも目立った悪戯や奇行が少ないので、他の兄弟の前に霞んでしまっている。そして二年生になった今、すっかり陰キャラとして鳴りを潜めてしまっていて、自分のクラスの中ではその視線から、周りに人を寄り付かずひとりでいることが多い。多いというか、むしろ常に一人であった。
しかし、最近になって、そんな彼にも変化があった。同じクラスのある女子生徒(しかもただの女子じゃない。苗字名前は、クラス一の美少女と噂されている天使なのだ)が、何故かは知らない。皆目見当もつかないが、あの松野一松のとなりにいるようになったのだ。
クラスの連中も、あの松野に寄り付く人間がいるのかという風に、野次馬精神で彼らを見守っている。どうして彼女が松野のそばにいるようになったのか、朝挨拶を交わすようになったのか、休み時間に話すようになったのか、昼は一緒に弁当を食べるようになったのか、放課後を彼女の部活が終わるまで教室で待つ帰宅部の松野とか、一緒に下校する二人とか。周囲の人間は、男子生徒はかなり気になっていたが、誰もそれを気軽に尋ねてみようとはしなかった。それは松野一松のまるで人を殺しそうな視線が恐ろしかったからである。
ならば彼女の方に尋ねればよいではないか。しかし、彼女の方も簡単には教えてくれなかった。どんな風の吹き回しで松野と親しくなったのか、と彼女の友達が聞いたが、見るもの全てを虜にするような素敵な笑顔で「仲良しのユキちゃんたちにも内緒だよ」と言って教えてくれはしなかったのだ。だがしかし、本当に彼女の笑顔は可愛かった。もちろん、彼女が可愛いのは今に始まったことではないが…。私は天使のような彼女のことが好きだった。若干の嫉妬心を含みながらさらに観察を続けている。



ホームルームが終わり、その開放感からざわざわし出す教室。グラウンドへ急ぐ運動部に、のろのろと片付けをする帰宅部。友人と楽しそうに話しながら教室を出て行く生徒もいる。松野は、部活に行く彼女の裾をちょんと掴んで「大事な話、あるから…部活が終わったら、ここ来て」自分が聞き耳を立てていなければ、この喧噪の中で掻き消されてしまうような、そんな小さい呟きで、彼女に約束を取り付けていた。クラスの誰もが気付かなかったようだ。自分の席が、出入り口の近くでよかった。まるで告白の事前準備のようなセリフにも彼女は優しく微笑んで「うん」と頷いた。
とっても可愛い。心の中で口を押さえながら、自分は涙を流した。「でも…」と彼女は言う。松野は、彼女がそのまま部活へ行ってしまうと思っていたに違いない。彼女からのレスポンスに、裾を掴んでいた手にぎゅっと力を込めることで反応した。「大事なお話なら今聞こうか?一松くんを後回しにするのって、なんだか気が引けるし」と笑顔で言い切った天使に、松野も自分もどうしたらいいか分からずに赤面するしかなかった。松野、お前頭から湯気出てんじゃね?自分はもう出てる。心の中でだけど。もちろん、自分は机に伏せて寝てる振りをして聞き耳を立てているので、クラスメートCポジの自分が赤面をして伏せていることなんて気付きもしないだろう。なんという破壊力。彼女は、部活よりも松野のことを優先した。この事実はかなり衝撃的だ。羨まし過ぎる。

「とっ…と、と…とととともっ…」
「一松くん、落ち着いて、ね?ほら、深呼吸。深呼吸」

告白の勢いで呼び出された彼女。
何かと思えば同じクラスの松野一松。しかも顔が真っ赤。

「ともだぢに、なって、ください!」

ちょっと待て!この二人、まだ友達じゃなかったんか!?という新事実に頭をガツンを殴られた。そして彼女が「やっぱり、話してみなきゃ、なんにもわかんないよね。うん、いいよ。私も一松くんに興味いっぱいだし、これからも仲良くしてほしいなぁ」と言ったことで、頭の中が真っ白になった。天使もまだ松野とは友達だと認識してなかったってことか…!

「え、じゃ、じゃあ」
「うん。こちらこそ、よろしくお願いします」

とりあえず、松野。お前、天使の友達ができてよかったな。くそ、羨ましい。というか、天使の中ではクラスメートCポジ以下にしか認識されてないんだろうなぁ。くそ。

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20160105
クラスメートCポジから見た二人

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