お互いに忙しい日々を過ごしていると、すれ違うことも少なくはない。
些細なことで喧嘩になったりもするし、逢えない時間がより誤解を招き、不安を募らせる。
そして、愛しいあいてを想う気持ちをも…
静かに静かに、しかし、着実にこころへ募って行くのです。
逢いたい。
でも、逢いたくない。
そんなジレンマを抱えながら、あいてを待っている時。
それは、とても長い孤独な時間に思われます。
最後のあいてとの会話が、喧嘩腰であるのならば、逢いたくないの気持ちの方が上回っているでしょうか。
しかし、愛しい人との、逢えない時間が長過ぎたのです。
現にわたしは、喧嘩のことなど頭から抜け落ちてしまって…
この大粒の雨の空の下で、傘をさして、彼の帰りを待っているのです。
怪我はしていないだろうか。
お腹を空かせていないだろうか。
そんな、あいてを思う気持ちが、次から次へと頭の中を浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
そして、回り巡って思い出すのは、愛しい彼の笑った顔。
そして、怒った顔。
切ない顔。
眠たい顔。
真剣な顔。
それから、また…やっぱり、笑った顔。
どの表情も、わたしの中の彼への愛おしさをくすぐるばかりで…
わたしは一刻も早く彼に帰って来てほしいんだなぁと際実感します。
長い間、この雨の中を立って待っていたせいか、指先がひんやりと冷たくなってきた。
足元の水たまりには、どんよりと空を覆う灰色の雲が映っている。
こっそりと覗けば、何とも言えないワタシの顔と、あと、もうひとり。
驚いたような表情の、わたしの愛しいあなた。
「待っててくれたのか、この雨ん中…」
大粒の雨の中、傘もさせず走って帰って来たのだろう。
全身に雨粒を受け、いつもは健康的な頬の色も、今では赤みを失いしぼんで見える。
そっと、傘の外にいる彼の冷えきった頬へと手を伸ばし、同じく冷えたわたしの指先で触れる。
それでも、まだ、わたしの方が温かさがあった様で…
その手を取られて、彼の腕の中へ包み込まれた。
「驚いた?」
「…ああ。」
「お帰り、シカマル。」
「ただいま、名前。」
お帰りなさいませ
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20120713
title by 水葬(http://knife.2.tool.ms/)
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