短編ログ | ナノ
ウェザーボール

隣りを歩くこいつ。
黙ったまま前を見据えている。


「………」

「………」


自分の右。
隣りを歩いているのに…

こいつが一体何を考えているのか、とか。
こいつが一体何を思って自分の隣りを歩いているのか、とか。

皆目見当がつかない。


「………」

「………」


どこか不機嫌そうにも見える。
しかしこいつはいつも無表情だ。

こいつとは長い付き合いだ。
些細な表情の変化は読み取れるようになってきたと思っていたのに…


「……いい天気だね」

「あぁ」


そう声をかけてみても、返ってくる返事は一言。
まるで隣りを歩く私の存在に興味が無いような…

それでも、歩くペースは私に合わせてくれているらしい。
それを感じてどこかほっとしたりする。


こいつとこんな風に、散歩に出歩くようになったのは何時からだろうか。
私の覚えでは、ずっと前からだったような気もするが…

もしかしたら、ごく最近のことなのかもしれない。


だけど、こいつが隣りにいる空間。
こいつが隣りを歩いている時間が。

私はとても好きだ。


「………」

「………」


まぁ、隣りを歩くこいつが私と同じ気持ちかは分らないが。
真実はどうであれ、こいつも私と同じことを思ってくれていたら…

私はそれはそれで、嬉しいと感じるだろう。


こいつは常に無表情と言ったが、目力は相当なものがある。
故に、その瞳に映るだけで、背筋がピンと伸びるような気分になる。

普段は傍若無人な態度をとるこいつ。
だけど、今は私のペースに歩幅を合わせて隣りを歩いている。

無表情で不機嫌そうに見えても、実は楽しんでいるのかもしれない。


「今日は遠回りしてみよっか、」

「そうだな、……」


隣りを歩くこいつ。
黙ったまま前を見据えている。


「………」

「………」


自分の右。
隣りを歩いているのに…

こいつが一体何を考えているのか、とか。
こいつが一体何を思って自分の隣りを歩いているのか、とか。

皆目見当がつかない。


「………な、」

「………XANXUS――――?」


「………いい天気だな」


だけど、でも。
私はこの時間がとても大好きだ。


end

20110112

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