短編ログ | ナノ
オレが馬鹿だった


「スクアーロ、目閉じて」

「…?」

「いいこいいこ。」

「…なんだぁ?」

「―――私がキスしてあげる」




う゛お゛ぉい!
オレはスペルビ・スクアーロだぁ!
そんで、コイツは同期の同寮の女だ。

で、今オレはコイツにキスされそうになってる。
誰でもいい…、オカマでもベルでもいいから
オレをこの状況から助けろぉぉおお!!




「あぁ!まだ目開けちゃダメだって、」

「う゛お゛ぉい!いきない何やり出すんだ!」

「何ってキスだけど、ちゅーだよちゅー」

「真面目に答えてんじゃねぇ!」




オレ達がまだ学生だった頃から思っていた事だが。
コイツはたまに変なことをしてきやがる。
例えば、今みたいに突然…キスしようとして来たりとか。

気持ち悪い腐れ縁だが、コイツとは同じクラスだった。
跳ね馬も加わって、オレの学園生活の思い出は最悪だ。


(そういえば、)


跳ね馬もコイツのこういう突拍子もない悪戯に。
たくさん引っかかっていた様な気もする。




「遠慮しなくていいのに、ねぇ」

「そう言いながら、触って来んな!」

「いいじゃん。だって、君の髪キレイなんだもん」

「いい歳してもんとか言うな、気持ち悪い…」

「気持ち悪いとか言わないの。」




まぁ、跳ね馬の事は放っといて。
コイツとオレは、結構長い時間を共にしてきた。
得意な事も苦手な事も、だいたい知ってる仲だ。

オレ自身、気に喰わないが、でも。
コイツの暗殺者としての腕は尊敬してる部分もある。




「ねぇ、君に聞いてみたい事があったの」

「…なんだぁ」

「なんでスクアーロは女作らないの?」

「はぁああ゛!?」




う゛お゛ぉい!
またコイツ、突拍子もない事を言い出したぞ。
って言うか、今日はやけにくっ付いてくるなぁ。

三人掛けのソファーに真ん中を二人で占領中。
向かい合わせにして、コイツはべたべたしてくる。
なんだ何なんだぁ゛訳わかんねぇぞ…




「…興味ねぇからだ!」

「えー!興味ナシってさ、大人の男としてどうなの?」

「うるせぇ!オレはオレだぁあ!!」

「はいはい、分かりました分かりました」




そう言いながら、オレの髪をいじる手を止めないコイツ。
なんで、いきなりそんな話を持ちかけて来たんだ?
素っ気ないコイツの返事。

オレは折角質問に答えたというのに。
まぁ、長年の経験でこんな些細なことでは腹は立てない。
いちいちコイツの反応に腹を立てていれば体力が保たない。




「そうだ、」

「…今度はなんだぁ?」

「私、君の彼女に立候補する!」

「はぁああ゛!?」




コイツに握られている髪が引っ張られる。
その勢いに任せて、ぐっと近付いた互いの顔。
何年も何年も見てきたコイツの見慣れたはずの…


(よく見れば、コイツ――――)


そこで、はて?となったオレの脳内はどうなってんだ。
今までコイツの顔をこんな間近で見た事があっただろうか。

「ねぇ、スクアーロ、目を閉じて…?」と。
コイツの唇から発せられたその言葉は空気を震わせて。
まるで、呪文の様な響きでオレの耳へと届いた。










「…………」

「…………」

「………?」

「………ぶッ はははっ!」




「本当にキスするとでも思ったの?」




そう言って、ひらりとオレの髪から手を離す。
さっと立ち上がっては目尻に溜まった涙を拭う。
笑い過ぎて涙が出て来たらしい。

ソファーに座ったまま、固まるオレを残して…
さっさとアイツは部屋から出て行ってしまった。


(ちくしょう!何だよアイツは…っ!!!)


気配で顔が近付いて来たのが分かっていたオレ。
そんな事は百も承知で、オレをからかったんだな!

だがオレは柄にも無く、さっきの状況に緊張していた。
どうしたんだコレ…何だって言うんだよ、本当に!

今だ、ドクドクと早くなる鼓動。
手はじんわりと汗ばんでいて…


「う゛お゛ぉいぃぃ……どうなってんだ、オレ」


期待したオレが馬鹿だった。が
その思いとは裏腹に、顔の赤みは引きそうにない。


end

20110107
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きっかけ。とか?

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