今、名前の右手にはウィスキーが握られている。いつもよりも少しだけ早歩きをして、大きな黒塗りの豪華な扉の前に立った。そして名前は、すぅっと息を吸ってその重たい扉を開いた。
「遅ぇんだよ。」
扉を開けると、そこにはいつものように机の上に足を乗せてザンザスが酒を飲んでいた。ザンザスは待たされたことに、かなりご機嫌が斜めになっており、いつも以上に目付きが鋭く尖っている。
「オレを待たすなんて名前、良い度胸してるじゃねぇか?あ?」
名前はザンザスの言葉に一瞬びくり、となったが、苦笑いを浮かべて机にウィスキーを置く。どかりとソファーに腰を下ろしているザンザスの隣りに腰を落ち着けた名前は微笑んだ。
「ごめんごめん。」
「フン…やっと酒が飲めるようになったからって、いい気になってんじゃねぇぞ。」
ザンザスはそう言いながらも、名前の腰に腕を回す。そう、名前とザンザスはそういう仲なのだ。
「はじめてのお酒だからね、いいものが飲みたいなって思って…これ、ザンザスもすきだったでしょ?」
そう言って名前は、指先で先ほど机の上に置いたウィスキーをこつく。ザンザスはそれを見て、一瞬考えるような素振りをみせるが。
「それとこれとは話が別だ…このオレを待たせるなんて、覚悟しろよ…名前。」
「うわぁ、その言葉こわいよ!…にしてもだよ、ザンザス。」
「…なんだ。」
ザンザスは片手にお酒の入ったグラスを持って、私を睨む。やっぱり、こわい。
「ごめんなさい。…ザンザスって短気だよね、私くらい気長に待っててよ。」
「待たねぇよ。と言うより…待てねぇ。」
「へ?」
「オレはお前に早く会いたいからな。」
まさかザンザスからそんな言葉が聞けるとは。名前はうれしい反面、ちょっと驚いた。
「ザンザスってそう言うこと言えるんだね。なんか意外…。」
「ふん、うるせぇよ。オレだって好きな女には…(これくらいの言葉かけるんだよ)」
ザンザスは仏頂面のままそう言った。そして、ザンザスが私の持ってきたウィスキーを開け、グラスに注いだ。二人はウィスキー入りのグラスを二人は持ち、名前は初めての酒を一口飲んだ。
「うにゃあー…」
間の抜けた声を出し、顔がみるみる赤くなっていく。それを見たザンザスは、名前の酒の弱さと酔いの速さにニヤリと一つ、怪しい笑みを浮かべた。
「弱ぇな。お前にはまだ強過ぎだんだ…名前。ほら、こっち来い。」
「ふぁーーいッ…!」
フラフラとしながら名前はザンザスの隣りから今度はザンザスの膝の上へと座る。そしてダラッと体中の力を抜いていく。
「えへへへへへーーっ…じゃんらすだぁ!きゃっきゃ!!」
この様子だと、名前きっと寝てしまうだろうが、ザンザスはそれを許さない。ザンザスの手には名前が口を付けたグラスが握られ、一気に飲ませた。
「む!ぅっ…ん、ん!」
「飲め飲め…お前の飲みたがってたウィスキーだ。」
「ぅんっ――――っ…ん」
「どうだ?」
上手く飲み切れなかったウィスキーが、名前の口端からこぼれて顎を伝い、服へと染み込んでいく。
少しばかりこぼした名前だったが、ごくごくと大量に注がれたウィスキーを飲み込む。
「っぷはぁーーーーっ!」
「気分はどうだ?」
「ぅん?…じゃんらす?……えへへへーーっ、さいっこぉー!」
「呂律が回ってねぇな…」
ザンザスがグラスいっぱいに注いだウィスキーを全部飲み終わった頃には名前は更に酔って、完全に出来上がっていた。
「あははははっ!わぁ…じゃんらす!じゃんらすっ!!きゃっ」
「なんだコイツ…(飲むまえとキャラが)……幼児化してるぞ、名前。」
「はぁーん?もぉー、何言ってんのお…ざんらすぅ!」
名前はザンザスの腕の中でくるりと向きを変えてザンザスと向かい合う。そして、鼻先が触れ合う程の近距離でとろん、とした目で名前はザンザスを睨んだ。いつもの名前だったら、こんな行動はしないので、ザンザスは内心ドキリとした。
「私、酔ってないんだからねぇ!」
「酔ってる奴に限って、そんなことをぬかすモンだ。」
「は、何いってんのよぉ!私は酔ってなんていないんだからぁ〜〜っ」
そう叫ぶと、名前は泣き出した。ザンザスは一時停止するが、すぐに動きを取り戻してあやしにかかった。
「ざんらすのばか、ばかばかぁ!あーーんっ!!」
「このオレが馬鹿だと?なに言ってやがる…この酔っぱらいが(笑い上戸かと思ったら泣き上戸なのか…)」
「酔っぱらいじゃないもん!名前だもん!」
「はあ?…意味が分からねェ。」
そう言いながら、グラスを傾けるザンザス。
「もぉー、名前は名前なのお!じゃんらすのばか!」
「…それ以上言ったら、その口塞ぐぞ」
「ざんらすのば――――んっ!」
名前が馬鹿と言おうと口を開いた瞬間、ザンザスは名前にキスをした。はじめはほんとに口を塞ぐだけの軽いキスだったが、それはどんどん深くなっていく。
「ぅんっ…んん……っ」
ザンザスは逃げようとする名前の頭を右手で固定しながら、左手で身体を支えている。およそ二分と言う短いのか長いのか、息もつけずに名前は酸欠状態だ。ゆっくりと離れていった、二人の唇。
名前はやっとのことで酸素を吸い込み、ウィスキーの所為で赤い顔をもっと赤に染めてザンザスを睨む。
「なんだその目は…」
「死ぬかと思ったぁーー」
恨めしそうに見上げて来る名前に、ザンザスはニヤリ、と笑う。
「なんだ?また塞いで欲しいのか、名前?」
「…もぉ結構れす!」
その翌日、いつもよりか数倍機嫌の良いザンザスと二日酔いで頭を痛めた名前の姿がヴァリアー邸内で見られたとか、見られてないとか。その真相は幹部のみぞ知る。
お酒は二十歳を過ぎてから。
end
20100413
20130606 修正
::12::
×|◎|×
ページ: