短編ログ | ナノ
綿菓子

軽やかな足取りで階段を下ってゆく少女。その腕には大量のお菓子が…そんなに急いで何処へ行くのか?


「スパナー!休憩しよー…ってあれ?」


地下にある彼の研究室。いや、研究って言うよりロボット弄り部屋?いつもならドアが開くとそこに彼の背中が見えるのに…


「何処行っちゃったんだ? 折角白蘭さんから美味しいお菓子貰ったのに…」


少女の腕の中には溢れんばかりのお菓子の袋が抱えられていた。そう、彼女はここの部屋の主と白蘭と言う彼女の上司から貰ったお菓子を食べるためだけに階段を駆け下りて来たのだった。

しかし、この地下の部屋にその主の姿は無かった。ここの部屋の主の名は、さっき少女が呼んだようにスパナと言う。彼曰く、漢字で現すと『酢花゜』だそうだ。


「まぁいっか! 先に食べて待ってよう。」


そう言って、お世辞にも綺麗とは言えないこの部屋の床に座り込んだ少女。こんなにも機械用オイルの匂いが充満する部屋なのだが、もはや少女には関係ないらしい。


「あれ、……名前がいる。」

「あ、スパナ! お邪魔してまーす。」


大きな機械の影から、ひょっこり姿を現した髪の毛が渦を巻く青年。この青年こそ、この部屋の主であり自分の名前を『酢花゜』と表す話題の人だ。


「さっき入って来たとき返事しなかったから、先にはじめちゃってるよー」

「あー 聞こえてなかった。ごめん。」

「いいよいいよー ねぇ、スパナも食べよ?おいしいよ、これ。」


そう言って、少女が渡して来たのは真っ白ふわふわな綿菓子だった。しばらく、その雲のような白いふわふわの物体に目を奪われていた彼だったが、ストンと少女の右隣へと腰を落ち着けた。


「食べないの?」

「……何これ。」

「綿菓子って言って、砂糖を綿菓子機に入れて、糸みたいにして集めたやつだよ。甘くておいしいの!」


スパナはその綿菓子を少女の手から受け取って、ジッと見つめた。そして、口から舐めていたアメの棒を吐き捨てパクッと口に入れた。


「どう?おいしい?」

「…うん、おいしい。」

「よかったー。私、綿菓子好きなんだぁー」

「どうして?」


スパナが少女に尋ねると、少女はふふふっと笑ってこっちを向いた。まだ幼さの残る少女の無邪気な笑みに、スパナは一瞬おどろいた。


「まだ私が小さかったころ、お父さんに縁日で買って貰ったんだ…これ。」

「えんにち?」

「あぁー…ぞくに言う、お祭りのことね。

 神社の境内に屋台が並んでて、目の前で屋台のおじさんがくるくると棒を機械の中で回してるの…」

「…へぇー」

「あの時は、まだ綿菓子がどうやって作るのか知らなかったから、マジックみただったなぁ…」


くりくりとした黒目を輝かせて、そう話す彼女はとても可愛かった。スパナは口の中で溶けては無くなる綿菓子と、少女のくるくる変わる表情を重ねていた。


「そうだ、今度スパナとお祭りに行きたい!」

「ウチも。自分で綿菓子作りたい!」

「いいね、それ!入江くんも誘ってみよっかー」

「正一…… ウチは名前と二人で行きたい。」

「ぇ?」


「縁日行ったら、ウチの作った綿菓子 名前に食べてもらうから。」


スパナが言った言葉に、少女は頬を染めたが再び無邪気な笑みを浮かべた。


end

20101212

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