クレープ(イサト×花梨)



 銀杏並木を手を繋いで歩く。花梨の歩幅は小さいから意識してゆっくりと足を運んだ。京にいた頃はどんどん先に行ってしまって、後ろからぱたぱたと駆けて来る足音が聞こえていたなと思い出す。あの頃よりは、お前を大事に出来ているだろうか。けれど今も、気付くと花梨が早足になっていて、慌てて歩調を緩めている。
 ちらりと花梨を横目で見ると、ほわ、と笑うのが分かった。始めはこんな些細なことで『ありがとう』なんて言っていたが、今は言ってこない。外ならぬ俺が、いちいち礼なんか言うなと釘を刺したから。だって、むず痒いし、何か変だろ。
 言わないけれど、花梨は今でも『優しいね』と目で訴えてくる。自意識過剰じゃなく、そういうやつなんだ、こいつは。こんな些細なことで、馬鹿みたいに喜ぶ。
 花梨はへへ、と笑ってクレープにぱくついた。たった二百円のチョコクレープを、幸せそうに咀嚼して飲み込む。
「えへへ、おいしい!イサトくんも半分食べない?」
「い、いいって!お前が全部食べろよ!」
 顔を赤くして、無邪気な誘いを断った。本当はさっきからしてる甘い匂いに惹かれていたけど……その、分かるだろ?食べかけのクレープと花梨の唇を目で追ってしまう。
「でも……」
 しゅん、と眉を下げた顔が可愛い。いや、そうじゃない。
「二人で半分こした方が、おいしくない?」
 首を傾げて見上げてきた。わざとやっているなら大したものだが、無意識なのは分かっている。こういうやつなんだ、こいつは。そんな所が好きなんだ。
「まあ……そうかもな」
「でしょ?」
 途端にぱぁ!と表情を輝かせた。ああたく、可愛い。もう一度差し出されたクレープを、かじる。チョコの甘みが広がった。

 見上げるとやっぱり嬉しそうに笑う花梨がいたから、そのまま唇を重ねた。



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