Alea jacta est.「ナツ?」 その声に顔を上げると困った顔をしているルーシィ。 自分の手には金糸が絡まっていて…そうだ、ギルドでいつも通りのバカ騒ぎをしているときに、目の前でゆれる金髪に触りたくなったんだ。 今の状況を思い出して慌てて自分の指から金糸を解放した。 「いきなり触ってきたから驚いた」 そう言って笑うルーシィ。 そんなルーシィを見てると胸がギュッと締め付けられてどうしていいか分からなくなる。 最近こんなことばかりだ。 「ん、すまん」 「いいわよ、気にしてないから」 気にしてない、という言葉にまた胸がギュッとなる。 今度はさっきよりも深く、強く、痛みを伴って。 「それよりも今日、バレンタインだから」 はい、と渡されたそれは綺麗にラッピングされた箱だった。 「チョコ…か?」 「あ、ナツも今日どんな日なのか知ってたんだね」 「バカにすんなよ。好きな人にチョコあげる日だろ?俺も好きだぞ」 そこまで言って自分の言った言葉を反芻する。 俺も…好き? いや違う、そうじゃない。 そういう意味じゃなくて、 「…それは仲間ってことで?」 そう、それだ。 「ん」 肯定の意を示す返事をしてルーシィの顔を見ると、その顔は傷ついたような表情を浮かべていた。 もう一度、今度は最初から会話を反芻する。 どこに、ルーシィを傷つける表現があったのだろう。 …分からない。 「…そっか」 悲しそうに笑うルーシィ。 違う、そんな顔して欲しくない。 「それ義理だから」 そう言って箱を指差すルーシィ。 「義理って…好きじゃないってことか?」 「違うわよ。"仲間として"好きな人に送るチョコ」 仲間として、その言葉は自分とルーシィに距離を作った気がした。 だから慌ててルーシィに手を伸ばした。 もう一度、さっきのように… 「…っいや」 伸ばした手はルーシィに届かずに空を切った。 そして小さく聞こえたルーシィの…拒絶。 「なんだよ、意味分かんねぇ」 「意味分かんないのはナツよっ!」 突然発せられた大きな声に驚きルーシィをまじまじと見る。 目には涙が浮かんでいた。 「ルー、シィ?」 「ん、ごめん。私、家に帰るね。また明日」 くるり、と自分に背を向けて、ギルドから出ていこうと歩き始めるルーシィ。 待て、と手を伸ばして、その手は再び空を切った。 今度は歩き出したルーシィに届かなかっただけで拒絶されたわけではないのに…さっきよりも胸が酷く痛かった。 「ホントは……義理…じゃない…っ」 そう言ったルーシィの声が聞こえた気がした。 |