設問1。










「風丸くん、週末デートしようよ。」


そう吹雪が言った。
ランニング中に、唐突にだ。
息を切らす様子もなく、変わらぬ愛らしい笑顔で。


「…吹雪、ちょっと。」
「え、なに?」


吹雪の袖を引いて、引き留める。
集団の輪から外れて、後方を二人ぽつんと走る形になる。
何故か嬉しそうな顔をする吹雪に出来るだけ走るのが邪魔にならない程度に体を近付け、小声で話す。


「…何言ってんだ。」
「言葉のまんまだけど。週末僕とで…」
「わ、わかってる!言わなくて良い!」


吹雪の言葉を懸命に遮って、ため息をつく。
そんなことは分かってるんだ。
分かっては…いるんだけど。


「…吹雪。」
「ん?何かな。」
「『デートしよう』じゃなくて『遊びに行こう』だろ?」


そう、まずデートの定義から考えようか。
デートとは特別親しい男女がするものだと俺は思う。
うん、男女。
これは俺の見解に過ぎないけれど、強ち間違いないと思う。
この定義が合っていると仮定してみると、どうだろう。確実に吹雪の誘い方は間違っていると思う。
いや、間違っていてほしい。
若干期待を含んだ目で吹雪を見つめていると、爽やかな笑顔が向けられる。


「いや、『デートしよう』であってるよ。」


流石雪原のプリンス。
眩いばかりの笑顔は最高にキマっている。
女子がみたらイチコロだろう。
だが俺は男だ。
それに吹雪とさほど親しいわけでも、ましてそういう関係でもないのだ。
唐突に男の俺に『デート』を申し込むだなんて、頭は大丈夫なのだろうかと失礼な心配を本気でする。
俺が絶句していると吹雪が再度、微笑む。
今度はふわり、と柔らかに。
横向いて走ってると危ないぞ、と密かに思う。


「僕、風丸くんのこともっと知りたいんだ。」
「………………へぇ………。」


やっと出たのはそんな相槌で。
申し訳ないがそれ以外に返せるわけがなくて。
マイペースな奴だと思っていたがここまでとは…。


知りたい=デート


それは確実に間違った数式に違いない。
そんな数式は成り立たないぞ、吹雪。
すると、ふいに。
今度は俺が袖を引かれた。
その衝撃で、足が止まる。
なんだ、と振り返ると、吹雪が俺のユニフォームをぎゅ、と握っていた。
そしてまた、微笑まれる。


「風丸くんのこと気になってるんだ。」
「……」
「…好きだよ、風丸くん。」


真っ直ぐ見つめられて、頭が、真っ白になる。
視界が白黒して、あ、と思う。
吹雪の顔からしてそれは、友達同士の戯れの『好き』でないことは容易にわかった。
いつか、もしかしたら、女の子にそう言われることはあるかもしれない、そうは思っていたけれど、まさか男に、吹雪に、初めてを…。
と頭がこんがらがるのをぼんやりと感じた。
そして少しだけ赤くなった顔で、吹雪は小首を傾げた。
そして少しだけ、困ったように笑う。


「かぜまるー!ふぶきー!なにやってんだー!」


ふいに、円堂の声が響いて、我にかえる。
吹雪が「今行くよ、キャプテン!」と大きな声で返事をした。
まだ俺がぼんやりつったっているものだから、吹雪がバシンと俺の肩を叩いた。
先に走り出した吹雪をぼんやりみていると、吹雪がすれ違い様に、言う。


「…きっと風丸くんも、直ぐに僕と同じ気持ちになるよ。」


何を言ってるんだ、と思う。
そんな未来のことなんて証明できるわけがないじゃないか。
けれど、そうならない未来も、証明出来ない。
それに気付いて、思う。
完全に、俺の負けだと。




***

「酸素。」の瑛壱さんへ。
お誕生日おめでとうございました!




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