鬼道が不動に告白したとき、それはもう一世一代の大勝負だった。



FFIも終わって、態度もかなり軟化していたとはいえ、相手は孤高の反逆児不動明王である。
鬼道はトレードマークのゴーグルまで外して、清水の舞台から飛び降りる気持ちで不動に言った。


「お前が好きだ!付き合ってくれ!」


「いいぜ」
不動はあっさりと頷く。
良くてはあ?と怪訝な顔をされるか、悪くて頭わいてんじゃねーのぐらい言われるかと思っていた鬼道は、OKが出ただけですっかり舞い上がった。
「ほっ本当か!」



箱入り息子で純情な鬼道は今まで女子と付き合ったこともなくましてや男を好きになったこともなかった。これが初めての色恋沙汰である。
周囲からしたら本当に不動でいーのか?といったところで、あの不動だぞ?とまで念を押したくなる。
しかし恋は盲目、鬼道はすっかり骨抜きにされて、不動の人を食った例の笑みも、天使の微笑みにすら見えた。
OKが出たら、二人で休日に遊びに行こう、家で話すのだっていい、と毎晩妄想したことが現実にできるようになったのだ。
鬼道は天にものぼる気持ちになった。


鬼道が告白した場所は不動の寮部屋だった。ここまですんなりといくとは思っていなかったため、鬼道は初めての恋人と二人っきりという急なシチュエーションに興奮が隠せない。
可愛い男である。

「ふど……」
鬼道が何か言いかけようとすると、ベッドに座っていた不動が目の前まで近寄ってきた。


不動の無防備なアップに鬼道がどぎまぎしていると、不動は鬼道の背中にあるドアノブへ手を伸ばし、かちりと音を立ててドアは施錠された。


ハテナマークを飛ばすまもなく不動の両手が首筋に触れて、鬼道は不動に唇をふさがれた。突然のことに後ずさりしかけた体は、逆に背後にあるドアのせいで追い詰められた。


「不動…!?んっんー!」
「こういうことするんじゃないの?」
鬼道がそれに答えるまもなく、もう一度キスされる。
鬼道が驚きに少し口を開けたところから不動の舌がもぐりこんできて、歯列をなぞられる。
中学二年生とは思えないテクニックに、鬼道は打ち震えた(BGM:情熱大陸)。
酸素不足であたまがぼおっとなった鬼道を放って、不動は鬼道のスラックスのジッパーをすばやく下げた。
ハッと我に返った鬼道が頬を赤らめて不動に抗議する。


「ふ、不動…!」
「なに?」
「何じゃなくて…!」
ちょっと早すぎないか、俺達まだ中学生だし、(10分前ぐらいに)付き合い始めたばかりじゃないかと鬼道はまくしたてた。
それでも不動は手を止めない。下着ごしに鬼道の性器を触って、ニヤリと笑った。


「でも鬼道くんもなんだかんだ言って硬くなってるじゃん?」
的確に急所を愛撫されると、免疫のない鬼道は抵抗出来なかった。
スルリと下着の中まで指先が侵入してくる。
根本を他人の手に揺さぶられて、鬼道は息をのんだ。


「うっ…くうぅ」
上がりそうな声を必死で抑える。
その間も不動の手は裏筋から亀頭までをするすると何回も往復した。
不動は笑みを浮かべていた。
気付けば鬼道自身はいつの間にかボクサーパンツから出されて、両手で握りこまれている。
先端のくびれをくるくるとなで上げられれば、自分でしたときでも感じたことのないしびれがズンと鬼道の背筋を襲った。


「鬼道くん気持ちイイ?」
あと少しでも激しくされれば鬼道が射精することはわかっているだろうに、不動はちらりとこちらに視線をよこし、意地悪く聞いてくる。
気持ちイイの?繰り返し問われて鬼道は息を荒くして首を縦に降る。
けれども不動が決定的な刺激を与えてくることはなかった。
再び目を伏せた不動の顔を見てつめているうちに、どこかにいっていた理性が少し戻ってきた。
鬼道は不動の白い頬に触れて、自分にできる精一杯のキスをする。不動もそれを満足そうに受け止めた。

「ふっ、不動、俺も」
しかし鬼道が不動のジャージにまで手を伸ばすと、さっと不動の顔色が変わった。

「触るなっ」

強い声色で拒絶される。鬼道があっけにとられた瞬間、ぎゅうと再び強く扱かれて小さく悲鳴を上げた。
また頭の中が気持ちよさだけで占められていく。


「っ、はっ、ぁっ…」
「鬼道くんはオレに触っちゃダメ」
表情をかたくして、そうじゃないと付き合わない。
とまで言われれば鬼道は受け入れるしかない。
というか本当にもうイかせてほしかった。
こんなに気持ちいいのに、射精できないのは鬼道にとって辛いとしか思えない。
不動がおもむろに口を開いた。


「なあ、口でされたことある?」
「は…?口…?」
「ないよな。舌で舐めて、イカせてやろうかって」
切羽詰まった頭ではまともに理解できなかったが、イカせてくれるという単語に何度も頷く。
不動が足下に屈んだ。
いきなり長い舌で裏筋をべろりと舐め上げられて、鬼道は声にならない声を上げた。


「〜〜〜〜!!」
「んんっ… ハァッ ン、ン」
大量にあふれた先走りを丁寧に舐めとってから、不動は竿を口に含んだ。
不動の小さい口では、めいっぱい開いてもかなりキツい。
咥内をこすられるのが辛いのか、不動がくぐもった声を上げる。
初めて聞いた不動の色っぽい声に、鬼道は射精感が募った。
音を立てて頭を動かされると堪らず、鬼道は声を上げた。


「うぁっ……!ふ、どう、も、もう…!」
不動はその様子を上目遣いで見上げると、さらに奥までくわえ込んだ。
鬼道の内股に両手を置いて、鬼道自身を飲み込む様はまるで野生動物に食いつかれているようだった。
途端、強く吸われて、鬼道はイッた。


フワッと体が浮くような感覚に、直後精液の流れ出るドクッドクッというリズムが自分の脈とリンクする。
不動は口で受け止めた精液を、ティッシュにペッとはき出した。
クルクル丸めてゴミ箱にポイ。唾液と先走りに濡れた唇を寝間着のジャージの袖口でごしごしとこする。
自分の後始末をしながらそれを見た鬼道は顔色を変えた。


「不動、なにを…!」
「ハ?」
「そんなところで拭いたら汚いだろう!脱げ!俺が洗濯して返すから!」


きょとんとした顔で鬼道を見つめた後、不動はいきなり笑い出した。
「ふふっはっあっはっはは、ははは……ふふ…あーおかしい!何!」
「だから…!俺の…アレとかがついたし……寝るときも着ているんだろう?」
鬼道が言いつのっても、余計その剣幕がツボに入ったらしく不動は笑い転げている。
ひーやばい、くるしい!鬼道くんマジメすぎ!ヘンなマント!とどさくさに紛れて失礼なことも混ざっている。
鬼道はハァ、とため息をつくと「帰る。」と一言言った。
時計を見ると、もう8時を回っている。
今日の告白計画のために夕食には遅れると家には伝えてあるが、こんなに遅くなるとは思っていなかった。さしもの天才ゲームメイカーにも予想できなかった展開である。
鬼道が不動にクルリと背を向けると、背中から伸びてきた手が再びかちりと鍵を回した。
ドアノブを開けてどうぞ?というように顎をしゃくられる。
やはりその恋人の顔を見ると離れがたくて、せめて何か言おうと鬼道が言いよどんでいると、ちゅう、と首筋に吸い付かれて、鬼道はまた顔を赤くした。
さっきのことで重々分かったが、不動はこういうことに慣れているらしい。
ハッと廊下を見渡すと、幸い誰もいなかった。


「じゃあな〜」
「ああ……」
不動に機嫌良くニッコリ微笑まれて、このドアが閉まったら本当に夢だと思うかも知れないと鬼道は思った。
「心配しなくてもジャージは明日洗うって」
「明日とかいう問題じゃなくてな」
お前がよくても俺がよくないと憮然とした態度で返すと、ひひ、とまた笑われて、ゆっくりドアが閉まった。



こうして、鬼道の告白は、一応の成功を収めることができた。
体は慣れない倦怠感につつまれていたが、鬼道は満ち足りた気持ちで一杯だった。無意識に体が弾む。帰路を急ぐ足は、羽が生えたように軽かった。



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