あれから鬼道はサッカー三昧の日々と、希望通りのラブラブデートをこなし、幸せの絶頂であった。
初エッチは既に三週間も前に経験済みだ。
付き合って初めての休日だった。
鬼道の家に遊びに来た不動にうまく誘導され、鬼道は雰囲気にのまれて、いつのまにやら二人服を脱ぐところまでいっていた。
そこからはもう、不動に責めて責めて責めまくられた。
鬼道は初めての快感に、雷がうたれたように悶絶した。
だがやはり鬼道のほうから不動を愛撫しようとすると、ぴしゃりとはねのけられてしまう。
壁際に立たされて、亀頭をくすぐられながら胸の敏感なところを口で転がされたときは、それだけでイッてしまいそうになった。
ラテックスはもちろん口でつけてくれる。
既にふらふらになった上に乗っかられ、不動の温かい粘膜に包まれて、瞬間鬼道は叫んでいた。
腰を前後に揺する不動の頬も紅潮していくのを見ると、愛しさがこみ上げてくる。
中はぴくぴくと痙攣して、きつく鬼道を締め上げるからたまらない。
こんなもの、すぐにでも達してしまうと鬼道は思った。
思わず両手で不動の腰を押さえつけたくなったが、約束を思い出して、鬼道は耐えに耐えされるがままだった。
それでもときおり不動が小さく漏らす声が股間を直撃する。


「ふっ…ぁ、ぁ、く、……んん……」
不動の目を閉じて感じ入ったような表情が目に入った瞬間、鬼道はほとんど半泣きで限界を訴えた。
「ああ、不動、不動…!もうだめだっ……!」


今思い出すとここから後は少し情けない。
不動は、鬼道のギブアップに薄目を開いて、ニヤリと笑った。
その顔に見下ろされた瞬間、鬼道は射精してしまったのだ。
放心状態の鬼道を中に入れたまま、不動も自分のものを弄りだした。
今日一度も触られていないはずのそこは立派に勃起していて、不動が少し扱くだけですぐトロトロと白い液をこぼした。
もちろん他人の自慰など見たこともなかった鬼道は、その隠微な光景に目が釘付けで、不動の中に入ったまま、また自身を勃たせてしまった。
そのかたくなったものに気付いた不動はピクリと体を震わせて、
「今日は挿れんのは終わりな」と鬼道の頬にキスする。
そう言われて残念な気分になったのもつかの間、体を離した不動に手際よくゴムをはぎ取られ、既にギンギンだったそこを口で処理までされれば鬼道はぐうの音もでなかった。




そんなわけで完全に主導権を不動に握られたままひと月が過ぎようとしているのだった。
あれから鬼道のキスの不器用さに呆れた不動がヘタクソ!と罵りながらもマメにレクチャーしたおかげで、キスだけは乱れた息と一緒に「……上手くなったじゃねえか」とお褒めの言葉を頂けるまでになった。
しかし初体験後も幾度か経験したセックスは未だ指一本触らせてもらえない。
むろん今の性生活が嫌だというわけではない。
むしろ不動のほうが満足していないのではないかと鬼道は心配しているほどだ。
いれたりつくせりのセックスは文句なく気持ちよかった。
しかし鬼道にはずっと抱いていた密かな野望があった。
その野望とは、「たまには自分が不動をがっつんがっつん攻めたい」。
あわよくば不動の口から気持ちいいとか、もっとなどという言葉を聞いてみたいと鬼道は思っていた。
今日は鬼道しかいない家に不動がまた遊びに来る。
イコール、男役としての名誉を挽回するチャンスだと鬼道は静かに燃えていた。


時間通りに不動を部屋に招き入れ、ソファの前のテーブルに二人で宿題を広げる。
そろそろ中間テストも迫っているからという口実で今日は不動を誘ったのだ。
二人とも頭はそう悪くないが、特にサボリぐせのある不動はテストでしっかり点をとらねばなるまい。
最初の1時間は静かにペンを走らせる音が部屋に響いた。
鬼道がチラリと横目で確認すると、不動はスラスラと応用問題を解いているところだった。
対する鬼道は今日の計画のことで頭がいっぱいで、さっきから思うように進んでいない。
集中集中!と鬼道は頭を軽く振って邪念を吹き飛ばした。
手元のプリントに取りかかる。しかし半分ほど解いたところで鬼道は名前を呼ばれて顔を上げた。

「鬼道くーん」
「もう終わったのか?」
「ああ……、っていうかそっちが遅すぎ。」
「そ、それは問題が難しくて……」
「嘘ウソ」
こんな問題鬼道くんが解けないわけないじゃあんと不動は猫なで声を出す。

「なんかエロいこと考えてたんだろ?」
鬼道はまさしく図星をさされて真っ赤になった。不動はケラケラと笑う。

「イイじゃん、……しようぜ?」
襟元に手が伸びてくる。シャツのボタンをぷちぷちと器用に片手で外された。
相変わらず巧みなテクニックである。
鬼道はあわててその腕をつかんで、ストップをかけた。
「せめてベッドに行かせてくれ……」
「オレはここでもいいけど。鬼道ちゃん、シャワーは?」
「……浴びた。お前が来る前に」
思いっきりヤる気でしたと言っているようなものだが、既にばれているのだから嘘をついてもしょうがない。鬼道は腹をくくった。
ばつが悪い顔でそう告げると、不動は珍しく頬を赤らめた。
「オレも」
不動が小さくつぶやいた言葉に、鬼道は我慢できず不動を抱きしめた。


そのまま熱烈なキスをする。鬼道の突然の行動に不動は一瞬体をこわばらせるが、すぐに目を閉じて唇を受け入れる。
しばらく二人は無言で舌を絡めていたが、不動がドン!と鬼道の胸を叩いて鬼道はそれでやっと不動の体を離した。
「なげぇーんだよ」
「悪い」
お互い息を切らせて見つめ合う。
「ベッド、行かね?」




二人はすぐに服を脱いで抱き合った。
性急にペニスをまさぐられると早くも理性が飛びそうになったが、鬼道も負けじとキスで応える。
これしかまともに不動に褒めてもらえたテクニックはない。
それに、キスのときは触るなとは言われていない。不動もガードが緩いハズだ。
どさくさに紛れて鬼道は不動の内股をそろそろとなで上げる。


「んん…!ヤメっ…!」
息継ぎの間にすかさず不動は抗議する。しかし鬼道はそれを無視した。
肩から不動を押し倒す。
鬼道は不動の上に馬乗りになった。
しかし不動も思いっきり手足をばたつかせて本気で抵抗する。
振り落とされないように、ぐぐぐと鬼道は体重をかけた。
運のいいことに、体格も力も少しだけ鬼道が不動を上回っていた。
薄い胸に鬼道が手を滑らせると、不動はヒッと息をのんだ。


「ヤメロ、オレに触れるな!」
「俺はお前にも気持ちよくなってほしいんだ!」
「…………どけ!」
「どかない!」
このままではらちがあかない。
鬼道は不動の両腕を押さえつけたまま、胸に舌を這わせた。

「つうううっ……!」

途端不動の背がのけぞった。


「え?」
大げさすぎる反応に鬼道は目を見開いた。
しかしすぐにもしかしたら、と思い当たり鬼道はそのまま愛撫を再開する。
自分にされたことを思い出しながら、周りをゆっくりなぞって。
飾りの先端を口に含み、舌の上で転がす。


「や、やめ、はあっ はっはあ、あぁぁー……!」
鬼道がたまに甘噛みするだけで、不動は息も絶え絶えの様子だった。


「あ、あ、あーーーッ!」
だんだん不動のツボが分かってきた鬼道が舌先で乳首をつついたり、押しつぶしたりしていると、不動は今まで聞いたことのないような大きな声で喘いで、胸が大きく上下した。
不動の腰辺りに載せていた太股がパタパタと濡れる感覚に鬼道が驚いて目をやると、不動のペニスは一回も触られていないというのに、白濁液をこぼしていた。


両手を離しても、もう抵抗はなかった。
代わりに不動は顔をそむけて手で顔を覆ってしまう。
「だ、だからっ、ひっ、い、イヤだったんだよ、ひっく、」
あまりの羞恥に、不動は泣いていた。
「ぜっ、絶対オマエ、ひくし…っ!」
嗚咽が痛々しい。
鬼道はそっと顔を寄せると、不動に囁いた。
「好きだ、不動。お前が好きだ。俺は、どんなお前でも好きなんだ。」
不動がゆっくり顔をこちらに向けた。
緑の目に自分が写っているのが見える。
「ホントに?」
「ああ」
首の後ろに腕を回されて、引き寄せられた。お互いの心臓の鼓動を胸の上で感じる。
不動が鬼道の耳元で何かつぶやく。「オレも」



「オレも、鬼道ちゃんになら、触られてもいい……」

不動のその言葉を聞いたとき、鬼道の胸は喜びに満たされた。
鬼道の告白から一ヶ月、二人はやっと本当にお互いの心を受け入れることができたのである。







おまけにつづく