あなたのことを愛しています。
この身が朽ちるまであなたを愛することを誓います。
その愛はあなたに対する忠実さで表しましょう。
愛し、全てを捧げます。




がらりとした何も無い部屋に私とリドルが2人きり。何も無い部屋には音も匂いも、それこそ何も無かった。
私の最期に彼が選んだのは"ここ"だった。私はここが好きだ。だって、彼が選んでくれたから。1つ、欲を言うとしたら、空が見たかったと思う。


「なまえ」
「なあに?」
「なまえ、今から僕が何をするかわかるかい?」
「私ね、リドルが私の名前を呼ぶの、好きよ」
「…話をはぐらかさないで」
「はぐらかしてないわ。でも、好きよって言いたかったの」

私の言葉はちゃんと彼の耳に届いただろうか。さっきから似合わずうわの空なリドルの耳に届けられただろうか。きっと届いたはず。彼の目が少しだけ逸らされたから。相変わらず、この言葉には厭悪するのね。言われ慣れてるくせに。


「…やあね、わかってるに決まってるじゃない」
「……よかった」

眉を下げてそう笑えば、彼もまた笑った。
私の笑顔は自分の最期を悟り全てを見据えた諦めの笑顔なんかではない。彼の行いを全て受け容れることができるわという現れだ。
リドルの笑顔は、きっとそんな私に安心したんだと思う。彼が自分の行いに後ろめたさを感じてるなんて思えないけど。でも、それなら何故彼は、そんな今にも涙を落としてしまいそうな、胸をえぐられるような笑顔だったのかしら。



「さみしい?」


驚いた。彼がこんなことを言うなんて。死に際の、しかも今から自分が手にかける人間に彼が放つのはもっと恐ろしく冷たい言葉じゃなかったのか。
でも、リドルは確かに言った。消え入りそうな声でそう言った。そもそも私に向けて問うたのだろうか。ただ呟いただけかもしれない。だから、私はどっちにも捉えられる質問を返した。


「どうしたの?」
「さみしい?」

また同じ。

「さみしくないわ。あなたがいるもの」
「僕はもうすぐ君のそばからいなくなるよ」
「私がいなくなるのよ。あなたを、私が置いていくの」
「僕の手によって」
「そうよ。うれしいわ」

彼は泣かない。ただ心底痛ましそうに笑って、私を抱き寄せた。彼の低い体温は私の心をじわりとあたためた。やめてよ、そのあたたかさは私の心臓にしみるのよ。辛くなっちゃうじゃない。



「リドル」
「うん」
「愛してるわ」
「…うん」


背中に杖の先端が当たる感触。耳元に触れる彼の吐息。頬を伝う涙。私の首筋に落とされる水滴。リドル、泣いてるの?


「泣かないで。あなたはさみしくなんかないわ」


リドルが息を吸い込む。その口から微かに漏れる嗚咽に、私は少し安心した。
あなたは優しい人。私なんかのために涙を流せる人。

好きよ、大好き。愛して────




「アバダケダブラ」




────愛していたわ。




あなたのことを愛していました。
この身が朽ちるまであなたを愛したことを誇りに思います。
その愛はもうあなたを縛ることはありません。
愛し、全てを捧げた私に、最高の愛を。


ありがとう。





薄幸の修羅


20130729

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