無限の地獄っつーのは本当にクソみてェなモンだ。周りの囚人もクソみてェな奴ばっかりでこれもまたつまらねェ。レベル6となりゃあ骨のある奴もいるかと思ったが…世界最大の監獄、インペルダウンの基準も生ぬるいな。


「おいてめェ…黙ってりゃさっきから好き放題言ってくれんじゃねェか…」
「あ?…ああ、口に出てたか。仕方ねェだろ。俺ァ正直者なんだ」
「な…っ言わせておけば!!」

ガツン。海楼石の手錠を飛びかかってきた野郎の脳天に振り下ろす。一発で沈んでくれたおかげで面倒くせェ騒ぎにもならずにすんだ。…いや、騒ぎを起こしたほうが退屈しのぎになったか…?
考えることも、こんなくだらねェことしか浮かばない。そんな時、カツン、カツンと靴の音が聞こえてきた。今日も来やがったか。


「なまえです…見回りにきましたー」
「…いちいち名乗る見回りがいるか」
「はっ、はい!」
「毎回毎回、看守のくせして囚人に言われてりゃ世話ねェな」
「う…」

だぼだぼの看守服、頭からずり落ちそうな看守帽。一応言っとくが、コイツはレベル6担当の看守。迷い込んできたどっかのガキではない。…ガキはガキだけどな。
ガキ…なまえは、俺の檻の前までくるとぺたんと腰をおろした。

「…またか」
「い、いいですか」
「……勝手にしろ」

お世辞にも愛想のいい返事とは言えないが、そう答えるとなまえは溶けるような笑顔をつくる。
いつもそうだ。毎回見回りと言って俺の檻の前で背中合せに座り込み、決まって1つだけ質問をする。名前からはじまり、色々な質問をされた。昨日は…好きな食べ物を聞かれたか。


「今日は何を聞きてェんだ?」
「え!…あ、えっと、その…」
「あ?何どもってんだ」
「いや、その…な、何でもない、です」
「何でもないわけねェだろうが。言え」
「何でもないんです!別に聞きたいけど聞けないとかじゃなくて…」

あ。しまった、という顔で口に手を当てるなまえ。天性のアホだな。

「言ってみろ」
「言わないです!」
「言え」
「ひい!」

ドスをきかせた命令口調でそう言えば、小さい悲鳴をあげて大人しくなった。そして、少しの沈黙。先に折れたのは俺だった。


「おいなまえ」
「クロコダイルさん」

俺の言葉になまえの言葉がかぶさる。ふいをつかれ、思わず振り返る。後ろ姿だから表情は読めない。


「クロコダイルさんって、どんな女の人が好きなんですか?」
「…は?」

もう1度振り返る。相変わらず後ろ姿しか見えないが、なまえの耳が真っ赤になっていることだけは見えた。…今日の質問はこれか。


「…てめェはどうなんだ」
「え?」
「てめェはどんな奴が好きなのかって言ってんだ。聞こえねェのか?」
「はっ、はい!聞こえてます!」

びくっと肩が上がる。また静かになったかと思えば、消え入りそうな声が耳に入った。

「手…」
「あ?」




「手が、大きい人が好き…です。」


やっとで搾り出した言葉。思ってもみなかった答えに少し拍子抜けする。
今までの俺ならフンと鼻で笑っているところなのだが…監獄生活で性格まで変わっちまったか?


「なまえ」
「…はい」
「こっち向け」
「え…わっ」

檻の隙間からなまえの肩をつかみ、ぐいっと無理矢理向かせる。耳だけでなく顔まで真っ赤だったか、こいつ。



「俺はな、


 手が小せェ奴が好きだ。」


一瞬、驚いたように目を見開いたあとに見せた笑顔。
ああ、俺は、こいつのコレが好きなんだ。どうしようもねェくらい。


酸性キャンディー
(溶けちまいそうだ。)


120323 企画提出:Love!

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