(だから今日は、いっぱいしてあげる)

好き、愛してる、ごめん、一緒にいて――言いたいことがありすぎる。今年一年の全てを、聖なる夜に詰め込んで。

「ぁ、や……っ」

耳を甘噛みしながら、張り詰めた中心をくちゅくちゅと泡立てる。湊の手首に爪を立てつつも、甘い声は壁に反響するばかりだ。ここで本当にやめたらそれこそ後で恨まれてしまう。

「気持ちいい?」

先端から分泌されたものは泡と混ざり合い、湊の指の間を滴り落ちる。吐息と共に意地悪な問いかけを吹き込めば、びくんと律儀に背筋がしなった。擦れて弾ける甘い香りに唆されて、湊も滾った欲を遥の腰に押し付ける。

「ここ、狭いからこうやって洗おっか」

「っあ、ぁ…!」

柔らかな双丘の狭間をわざとらしく擦り、腿の肉を掻き分けてぬぷりと自身を押し込んだ。口にせずとも太腿をぴったりと閉じてくれた辺り、やっぱり嫌いじゃないんだなと笑みが込み上げる。

「動くね」

「んぅ、んん……っ」

遥に倣ってバスタブの縁を掴み、滑りに任せて腰を前へ突き出す。下腹部と遥の尻が触れる度に濡れた音が響き、敏感な場所を摩擦し合うだけでびりびりと電流のような快感が駆け抜けた。手のひらで口許を覆った恋人の、次第に浅くなる息遣いにも翻弄される。

「っは……、ふともも、気持ちい」

「る、さい……っ、んぁっ」

程よく温もった肌でぬくぬくと扱かれる快楽。このまま搾り取られてしまいそうだが、自分の欲を優先しては意味がない。
華奢な上半身に手を這わせ、ぷくりと膨らんだ乳首を指先でつつけば両腿がきつく締まる。

「もー、おねだり上手なんだから」

「ぁっ、やめ……っ、ぁあっ」

「あーやば、遥のも擦れてる」

両手で遥の腰をしっかりと固定し、早いリズムで自身を打ち付ける。裏側をしたたかに擦られて、小刻みに震える体は今にも精を吐き出しそうだ。
名残惜しい気持ちで湊がぬるんと腰を引くと、僅かに振り返った瞳はしとどに潤んでいた。わかりやすく飢えた表情に、甘いだけの口づけを幾度も送る。

「もっと気持ちよくなってからでいいじゃん、ね? ほら、次は遥が俺のこと洗う番」

「なんで、俺が…」

「あわあわだから。俺のことぎゅってして、一緒に泡まみれになってよ」

マットの上に胡座をかき、湊は両腕を広げる。彼の目線が即座に脚の間へ向けられ、慌てて逸らすまでの一部始終につい笑みがこぼれた。

「おいで」

ぽんと自らの腿を叩いて促せば、マットを膝で進んできた遥が戸惑いがちに湊の体を跨ぐ。向き合って座るために開脚するのが恥ずかしいのか、見るな、と顎の辺りを押しのけるように明後日の方向を向かされてしまった。
泡をまとったしなやかな肢体が、遠慮がちに膝へ舞い降りてくる。一切の誇張なく、本当に天使そのものだと生唾を呑み込んだ。

「自分はみなとくんガン見したくせに――いててっ、やめろハゲるうう」

「うるさい」

前髪をきつく引っ張られる痛みに呻く。羞恥を紛らわそうとしているのか、なかなか加減が強い。この年にして生え際が後退したらどうしてくれるのか。
手にした石鹸をもう一度泡立て、遥の手を取って作りたての泡を渡す。

「これで俺のこと洗って?」

む、と不満げに引き結ばれる唇。享受するのが当然の身としては、奉仕の精神など持ち合わせているはずがない。

(それでもたまには、ね)

何だかんだと言いつつ、湊の反応を窺いながらぎこちなく愛を与えてくれる。与えた以上のものが湊から返ってくると知っているからだ。
今もそう、両手で捏ねた泡をべちゃりと湊の胸元に叩きつけてきた。恥じらいをたっぷり含んだその泡を、ごしごしと雑に塗りつけて。ふふ、と知らず知らず笑みがこぼれる。

「もうちょっと優しくしてよ」

「文句言うな」

ノラ猫を撫でる時のような、慈愛に満ちた愛撫もできるはずなのに。これはこれで悪くないか、とひとり頷いた湊は腕を伸ばし、すっぽりと恋人を抱き締めた。柔らかい肌と硬い部分が重なり合い、抱いた背中があからさまに震える。

「遥もぎゅってして」

「……」

おずおずと、細い腕が湊の頭部を胸へ抱き込んだ。鼻の頭に泡が付着するが、気にせず密着度を高める。

「んっ……」

「いい?」

ゆっくりと体を揺すれば、昂ぶったものが擦れ合う刺激に頭上で吐息がこぼれた。遥の泡を自らへ塗りつけようと、摩擦のない触れ合いがより大胆になる。

「んぁっ」

背骨から落とした手で腰を撫で、ぬるぬると狭間を探る。ひくつく入口につぷりと指先を潜らせると、抱き込まれた腕にぐっと力が入った。

「染みる?」

「し、みない…」

「そ? よかった」

専用の潤滑剤ではないので多用はできないが、浅いところをつつくように触れながら中心を摩擦する。はぁ、と湿った吐息がどちらからともなく浴室を満たしていく。

「ちゅーしよ」

「ん、んぅ……っ」

ぐいと頭を下向けて唇を宛がう。表面を優しく啄み、遥が応えてくれるのを待って舌を滑らせる。濡れて上気した肌も口の中も、溺れたくなるほどしっとりと熱い。
深まる口づけに陶酔していると、不意にぱっと唇を取り上げられて我に返った。顔をめいっぱい背けて、遥は全身を震わせる。

「っくしゅ!」

「あ……。ごめん、冷えちゃうよな」

人肌で温もっているとはいえ、のんびりしていると風邪を引きかねない。鼻の辺りをぐしぐし拭う遥を膝から下ろし、慌ててシャワーのコックを捻る。適温の湯を肩からかけ流し、丁寧に泡を落とした。石鹸を落としても尚、瑞々しい肌は潤いを保ったままだ。

「お湯入ろっか」

湊もざっと体を流して、二人でバスタブに身を寄せる。湯は僅かにとろみがつき、彼らが動く度にチャプチャプと槽内を緩く踊る。手ですくった湯を遥の肩にかけてやり、湊は後ろから腹を抱き込んだ。

「ほっぺプニプニでおいしそう」

「触るな」

赤みの濃い頬をつつき、でれっと相好を崩す。つれない返事もまだしっかりと色を帯びていて、煽れば簡単に兆してしまうだろう。

「今日はいっぱい触るって決めたから」

「っん、ん……」

たっぷりの保湿成分を塗りたくるように、手のひらをあちこちへ這わせる。震える耳朶に歯を立て、尖った乳首をくりくりと押し潰す。アロマハーブがうなじの辺りからふわりと香るとたまらなくなって、そこにも強く歯を立てればびしゃりと肩越しに湯を投げつけられた。

「げほっ! 鼻入ったっ」

咳き込みながら、濡れた顔面を慌てて拭う。ふん、と当人はつまらなさそうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。痛かったらしい。

「ごめん」

薄く歯形の残った首を労るように撫で、優しく優しく、とわざとらしく反芻する。
胸から腹に下りた手がさらに下がっていくと、ぴくんと腰が揺らいだ。湯面に波紋を作る吐息は殊更熱い。

「んっ、ん……っ」

「体、あったまってきた?」

両手で中心を弄り、自らのものも誇示するように腰へ押し付ける。当てるな、と恥じらいを含む声についにやついてしまう。

「背中も腰もすべすべで気持ちいいのに」

とろとろとした湯は摩擦を減らし、肌と肌の境界を限りなく薄くする。

「ん、む……っ」

ぐいと後ろを向かせて唇を重ねる。絡む舌すら温度も糖度も高くて、深く繋がれないもどかしさが徐々に込み上げてきた。

「ここじゃ、のぼせるよな」

キスで蕩けた瞳も同じ熱を望んでいる。前髪に口づけて、皺の寄った指先を優しく引いた。

「部屋行こ。あっためてあるから大丈夫」


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