空調の効いた部屋のベッドへ、湊の寝間着の上だけを羽織った遥が横たわる。火照った桃色の全身を、しどけなく投げ出して。ごくりと唾を呑み込み、本能のまま覆い被さった。

「寒いから布団かけとこう」

ふかふかの敷布と布団に包まれた二人は、ぬくぬくの心地で抱き締め合う。芯から温もった体はどこもかしこも熱くて、泡も湯もなく滑らかな肌が摩擦する感触も、それはそれで存在感がある。棚から引っ張り出したローションも手の熱で容易に温まり、ひくつく窄まりにくるくると塗りつけていく。

「ぁ、んっ……」

触れるだけのキスを唇で数えながら、濡れた指をゆっくりと押し込んで、広げて。

「あっつ……指溶けそう」

ほぐれた粘膜が物欲しげに絡み付き、下腹部がむずむずと疼いてくる。ここに包まれたらどれほど気持ちがいいだろう。既に柔らかくなっていた場所から指を抜いて、入口と自身の先端とをぬるぬる馴染ませる。

「ぁ、あっ、や……っ」

布団の中で、ちゅ、ちゅっと吸い付くかわいらしい音がする。遥の腿を抱え、湊はゆっくりと腰を進めた。

「っは、ぁ………!」

何度行為を重ねても、挿入時は顔を隠しがちだ。しかしそうすると口の方が疎かになるようで、甘い声はしっかりと湊の鼓膜を震わせる。

「そんな声で、煽んなくてもいいじゃん…っ」

「ひっ、ぁあ…っ…」

熱い媚肉を掻き分けて隘路を犯す。みっちりと埋め尽くしたものをもてなす蠕動に、湊は奥歯を噛み締めて耐えた。

「ごめん。も、待てない」

「や、ぁ……っ! やだ、っ」

遥をきつく抱き寄せ、じんじんと痛むほどの昂ぶりを腰ごと突き入れる。潤った粘膜できつく扱かれる快感は目も眩むほどだが、運動不足の体には布団を被ったままの正常位が堪えたらしい。いたい、とか細く訴えてきた。慌てて動きを止める。

「大丈夫か?」

柔軟性に乏しい体はもともと正常位には向いていない。入浴で少しはほぐれたようだが、快楽の妨げになっては困る。
湊も慣れない長湯のせいか、脱力感でつい遥に重みを乗せてしまっていた。なるべく密着できる体勢がいいのだが。

「じゃ、遥が上においで」

いったん自身を抜き出し、くるりと体を入れ換える。仰向けに寝そべる湊と、彼と掛け布団に挟まれる形で覆い被さる遥。体を支える両腕がプルプルと頼りなく、体重掛けていいよ、と湊は背中を抱いてやった。

「おもい、だろ」

「重くない。それよりほら」

反り返ったもので狭間をぬるりと撫でる。

「ゆっくり、気持ちよくなろ」

自分主体で動けないので激しくはできないが、遥の腰を掴んで揺さぶるくらいはできる。

(それに、シーツに腕ついてれば顔も隠せないし)

「ぅ、あぁ……っ」

再び粘膜を擦り上げて埋まり込んでいくと、正直な嬌声が耳元で漏れる。眦いっぱいに涙を溜めて感じ入る表情は眩暈を覚えるほど腰にくる。
ぷちゅんと濡れた音と共に奥へ達したようで、滑らかな尻を両手で揉みつつ、下からゆるゆると突き上げていく。

「っあ、ぁ…!」

「遥の中、あっつい…」

ゆっくりと言いながらも、欲に負けて奔放に腰を打ち付けてしまう。あったかくて、いい匂いがして、気持ちよくて、甘い声がして。搾り取らんばかりにきゅうきゅうと締め付けられ、気を抜くとあっさり逐情しそうだ。

「気持ちいい? 突くたびに締まる」

湊を抱き込むようにしがみついている体躯がビクッと跳ねた。繋がったところを両手でかぱっと割り開き、その間に幾度も腰を打ち込む。短く詰まった吐息が続いたのち、髪を強めに引っ張られて湊が呻いた。

「いってええ……っ、く…」

一際きつく収縮する蕾。粘膜は痺れたようにさざめき、めいっぱい押し殺した恋人の声に事態を悟る。

「…イっちゃった?」

荒い息遣いの遥を抱き締めて髪を撫でる。ちがう、と発した弱々しい否定がかわいらしくて、剥き出しの背中もぽんぽんとなだめた。

「あったかいとイきやすくなるから仕方ないって。ほら、もうちょい付き合って」

「ぁ、やぁ……っ」

ゆすゆすと柔らかい尻を揺さぶれば、敏感な肌が再度粟立った。吐き出したばかりの遥のものも、湊の腹の辺りで強かに擦れている。
飲み込めない唾液がたらりと遥の口の端に光り、湊は頭を浮かせて舐め取った。

「こぼすなら飲ませてよ」

「んぅ、ん……っ」

後頭部をぐっと寄せて、下から唇を当てる。口の中までしっかり熱く、ぽってりとした舌をきつく絡めて吸い上げた。口腔を好き勝手に掻き回していると、上下で呼応するように繋がりがわななく。

「んぁっ、ぁ、あ……っ」

下から動くことに、少し慣れてきたかもしれない。ずんと奥まで満たしては腹側を擦りながら抜き出し、感じるポイントを的確に穿つ。高めの声が明瞭に色を帯びていく。

「かわいいな」

「ぃ、やだ……っぁ、こんな……っ」

自らも動きながら、遥の腰をそれに合わせて打ち付ける。たんたんとリズムよく尻が腿にぶつかり、咥え込む粘膜の収縮もひっきりなしになってきた。

「このまま出していい? …って言っても、この体勢じゃ抜けないけど」

「ぁ、ふ、ざけ、な……っ」

「真剣にお願いしてるのに。いーやもう、出しちゃうからな」

背骨の緩やかな曲がりを撫で下ろし、しっとりとした肌の潤いに達成感を覚える。できることならあらゆる場所に顔を埋めたいが、ひとまず今後のお楽しみにしておこう。満ち足りた気持ちで共に快感を追う。

「やぁ……っ、ま、た……ぁっ」

一度目より深い絶頂に怯える声も、もはや煩悩を苛む道具にしかならない。狭まる筒を何度となく穿ち、湊はきつく恋人を抱き締めた。
腕の中で大きく震える体と濡れた吐息。押し寄せる波には逆らわず、搾られるままにたっぷりと欲を放った。

ーーー

待て、おかしい。

「つるすべはるにゃんあったかいなー」

「……」

あの後。
再び浴室でお互いの体をゆっくりと洗い、追い焚きした湯につかって。けれど肌も心も潤った体には未練があって、何も身につけないまま布団に潜り込んだ。そこまではよかった。
事後もいちゃついてくれるなんて珍しい、と思っていたら、少しも経たないうちに遥の機嫌は急降下。まだ宵の口なのに、 もう寝る、と湊に背を向けている。そう言う割には服も着たがらず、何がなんだかわからない。まさか、さっきまではご馳走で腹が満たされて機嫌が良かっただけとか。
困惑しながらも湊は好き放題甘えていた、が。

「あ」

ひとつだけ思い当たることがあった。満たされていないかもしれないこと。
彼にとって、愛は受け取るものだから。

「大好き」

背後からぎゅっと抱いて囁くと、ぴくんと僅かに遥が身動いだ。ちらりと振り返って、また向こうを向いてしまう。その代わり、ウエストに回った湊の手は優しく握られていた。ふふ、と笑みがこぼれる。
遥自身もきっと無意識だったのだろう。何を欲していたか、自分でもわからなかったに違いない。

「あれ? 雪降ってない?」

カーテンがきちんと引かれていなかったようで、隙間からはらはらと白い粒が舞い落ちるのが窺える。裸眼の遥は目を凝らした。

「見えない」

「降ってるよ、あれ。ちょっと待って、窓開けてくる――え?」

布団から這い出ようとした湊の手を、殊更強く掴む恋人。彼は振り向かないまま命じた。

「布団、ばさばさするな。寒い」

そうしておずおずと、背中を湊の胸に擦り付けてくる。服を着ればいいのに。そんな無粋な台詞はもちろん口にしない。

「ごめーん」

へにゃりと笑って謝り、熱が広がったばかりの胸にすっぽりと恋人を確保した。
願わくば、来年も再来年もこうして。欲を言えば、誰も彼もが自由に、愛する人たちと日々を過ごせる年になりますように。


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