1 蒸し暑い正午。 ツナの家へと足を進めていた獄寺隼人は、賑やかな商店街通りには不釣り合いな異様な気配に眉を潜めた。 明らかな殺気。 しかしそれほど強い気は感じられない小さな気配だった。 (小物か…) 隼人は面倒臭さそうに眉を寄せた。 とりあえず進路を変え、誘い込むように人気のない路地裏へと進む。 コツ、コツ、と背後からゆったりとした足音が近づいてくる。 厭に余裕な雰囲気に多少の苛つきを感じつつ、懐から静かにダイナマイトを取り出し身構えた。 しかし、 「っ!?」 背中に感じていた殺気と気配が突然消え、隼人は慌てて振り向いた。 それと同時、 背中に冷たくて固い物が宛がわれ隼人の動きが止まった。 殺しの経験も豊富な隼人にとって、それが銃だと理解するのにあまり時間はかからなかった。 「こんにちは、スモーキン・ボム」 背後から聞こえた声はまだ若い。 しかしあまりにも冷たい響きを持った声音に、隼人の背中に冷たい汗が伝った。 殺気や気配も、さっきは抑えていたのか、今は比べ物にならない程強くピリピリとしている。 小物どころじゃない こんなの、化け物だ。 「テメェ、どこのマフィアのヤツだ。狙いは十代目か?」 低く唸るような声で隼人が口を開く。それくらい力強く喋らなくては語尾が震えてしまいそうだった。いや、震えていたかもしれない。 しかし後の人物は質問には答えず、背中に宛がっている銃口を更に押し付けた。 カチャリ、と引き金を引く音が隼人の脳に響く。 「Addio.」 平和な商店街に、隼人の押し殺した叫び声が微かに響いた。 |