弐暗転。暗転。 さようなら。 そして、 新しい世界へ。 目が覚めると、温かい土の上にいた。駅のホームから突き落とされて、私はどうなったのだろう。ゆっくりと起き上って自分の両手を見る。 「生きてる......」 土で汚れた手をぐっと握る。どうやら私は森の中にいるようで、空は厚い雲で覆われ時々鳥の囀る声が聞こえた。 近くに私のバッグが落ちていた。学校帰りだったので大したものは入っていないが、自分の持ち物がそばにあったことに安心する。 落ちていたバッグを拾って振り返ると、少年がひとり驚いたような面持ちで私を見ていた。視線が合ってお互いに慌てる。少年は長い赤い槍を2本構えていた。 (殺されるっ......) 心臓が痛くなるのを感じながら少しずつ後ずさりしていくと、少年がはっとしたように構えいていた槍を降ろした。 「き、貴殿は天女にござるか!?」 「......いいえ、違いますけど」 この少年、話し方が妙に古臭い。そして天女なんて言葉が会話に出てくるのを初めて聞いた。 「違うとは......しかしお館様より預かりしこの山を見回っていたところ、眩い光とともに貴殿が現れたのだ!」 見られていた。 もしかして私は電車に轢かれる寸前にここに飛ばされたのだろうか。ただ、私は今生きている。ならば、やることはひとつ。ここの情報を手に入れることだ。 「あの、ここはどこですか?」 「此処は甲斐にござる。そして彼処に見えるのが上田城でござるよ」 少年の言葉と指差す方向に見えた大きな城に、手からバッグが落ちた。 どうやらこの少年は本気で言っているようだ。 だとすると、上田という地名からここが長野であること、そして甲斐という昔の地名と城が建っていることからここが平成ではないことが分かる。 ゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。ここが甲斐であるならば、ここの領主は武田信玄のはずだ。 「......甲斐、ってことはあのお城は武田信玄様のお城ですか?」 「いえ、あの城は某、真田幸村が治めていまする」 「さな、......え?」 「申し遅れましたが某、真田幸村と申す」 眩暈がする。私はとんでもないところに来てしまったのだと、初めて理解した。 |