そうやってまた絆される

ねぇ、すきなの、はんだ。
頭の中を甘く侵食するその言葉は、至近距離にまで詰められたその唇から身体を撫でるように零れていった。


「そんなんだから半田はいつまで経っても半田なんだよ」
呆れ果てたような気取った態度に、ぐさりと音が聞こえるくらい胸が嫌な音を立てて高鳴った。
「っどういう意味だよ!」
かっとなってのぼせた声音で怒鳴り付けたら、マックスは糸を弾いたみたいにびっくりしていた。
教室の隅っこで下らないことで喧嘩したのだ。日が沈んで、遠くの空が薄ぼんやりと虹色に揺らぐ世界の中で、息の詰まるような瞬間だった。

被害者ぶるつもりはないけど、今の一連の出来事は100%マックスに非がある、そうだ、そうに決まってる。むかつくよ。あんなのただの悪口だろ。
じゃあなと背を向けて教室を後にしようとすると、ガタガタと机が騒いでから抜けるんじゃないかってくらい勢い付けて腕を引っ張られて。

「え」
「わ、あ」

バランスを崩したオレと腕を引っ張った張本人は、そのまま一緒に机の羅列に背中からダイブした。
派手な音と共に身体のあちこちに痛みが走る。ほんと何してくれてんの、こいつ。いてーし。最悪。
マックスに向き直って文句言おうとしたら、またしても腕を引っ張られてあいつの胸板に鼻を打ち付ける羽目になる。

「っおい、」
「すき、ねぇはんだ」
「は?何言って…」
「ねぇ、すきなの、はんだぁ」

見たこともないような切羽詰まった息遣いに喉が鳴いた。
すき、…好きとかそんな言葉に流されるオレじゃない。
けど、でも、せいぜい1桁の距離に震える唇から発せられるその音に、意味とか関係なく身体の一番奥が揺さぶられた気がした。

好きで何でも解決すると思ったら大間違いだから。それで済んだら警察なんて必要ないだろ。なんて悪態は去ることながら、そう、正にだからこそオレ自身の中に警察なんて存在しないのだった。

窓枠に切り取られた虹色の薄闇は、案外机の群れに飲まれた今の方が綺麗に見えた。


(松半)


20130207 (Thu)





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