お姉ちゃんの一日



レイside


「――…よし、出来た。後は弁当に詰めて、燐は雪男が起こすだろうし…私はセレネを起こすかな。」

味噌汁を注ぎ配膳してエプロンを脱いだ私は、妹と同じ自室へと向かう。

ガチャッ

「セレネ、朝御飯出来たから起き……」

そう言いかけて、私はピシッと固まった。
昨日の夜は妹の枕元で丸まって寝ていた筈の猫又が、今見てみると妹を抱き枕にして寝ている……人型で。
私は無言でスッ…とフライパンを魔法で出す。

「朝から私の妹に何やってんだこの間男がぁぁああッ!!」スコォオオオンッ!!
『ぎゃぁぁあああッ!!』







あの後ドタバタ騒ぎになったが無事朝食を食べ終え、妹の身嗜みチェックをして私達は学園へ向かう。『それくらいで怒んなよ面倒くせぇなァ』と言って、腹を掻きながら大口で欠伸しているのを見た時は息の根を止めてやろうかと思った。まぁ流石に妹に止められたが。

午前中の授業は先日行われた中間テストの返却。
雪男と数点差で学年一位になり普段より一層目立ってしまったが、テストの点数など人間努力すれば誰でも一位になれるのだから、人間離れしてると思われない範囲なので良しとする。
私は本当はあまり目立ちたくないのだ、まぁそれは雪男も同じなんだろうけど。
悪魔寄りとはいえ、折角人間に生まれたのに化け物だなんだと騒がれたくはない。しかし現在行われている午後の授業は体育だ、しかも4〜5人で走る短距離走。
悪魔特有の運動神経の良さをあまり発揮したくはない、もし本気で走れば人外な秒数になるだろう。
そう思い、私は一緒に走っている同級生達に合わせながらなるべく真ん中の位を狙い、三位になった。

「うぉおおお時渉マジかよッ!!」
「ええええッ!!時渉さん凄いッ!!」
「流石私達のお姉様ッ!!」←一部信者混ざってる
「え……なんで?」
「だって時渉さんと走ってた人達って皆、陸上部とかサッカー部とか足の早い人達ばかりだったのに、時渉さんってば三位取っちゃうんだもんッ!!」
「…………………」


そ れ を 早 く 言 え 。




―祓魔塾:体育実技―


「はい、皆さん注目」

体育実技を担当していた椿先生は、前回の失態により事務へ移動。今回から私がこの教科を担当することになった。
この間使われていた競技場で雑談している生徒を静かにするべく、パンパンと手を叩き生徒の視線を集める。

「祓魔師になる為に必要なものの中で、体育実技で得るものは何だと思いますか?はい神木さん」
「はい、体育実技で得られるものは体力です。」
「その通りです。祓魔師は悪魔を祓う為、逃げる悪魔を追いかけたりもしますし、戦いの中で攻防を繰り広げたりもします。その時に体力があるかどうかが、重要になってくるのです。
そこで、今日は皆さんに…………“鬼ごっこ”をしてもらいます。」
「「「は?」」」

私の予想外の発言に、妹以外の生徒全員が驚く。

「最初は鬼(ゴブリン)を鬼にして逃げてもらおうと思っていたのですが…………それだけじゃつまらないと思いまして。「いやゴブリンを鬼にするってどうなんだよッ!?」これが本当の鬼ごっこってね。」
「んなもん真顔で言われても可愛ないですよ先生ッ!?てかつまらんてそないな基準でええんですかッ!?」

生徒達がツッコミを入れる中、私の妹だけは「えー、小さい頃みたいにお姉ちゃんと鬼ごっこしたかったなぁ」と言っていた。
まだ幼かった頃は二人でよく鬼(ゴブリン)ごっこをしたものだ、懐かしい。

「皆さんならそう言うと思いまして、今回は……
私が鬼になります。」

そう言って、私はポンッ☆と魔法で長剣を出し、スラリと剣を構える。

「ルールは特にありません、どんな手を使ってでも私に捕まらないよう逃げて下さい。勿論この競技場内から出たら失格です、出た場合捕まった人と同じ罰ゲームを受けてもらいます。」
「武器持っとる奴は持ってきいゆうてはったのは、この為やったんですね……先生美人なんに容赦無いわぁ……」
「タッグを組むも一人も皆さんの自由、本気で殺す勢いで反撃して下さって構いません。罰ゲームは、そうですね………囀石を膝に置いた状態で兎跳び百回。大丈夫、動いてもしがみついていてくれるので落ちる心配はありません。」
「「「んなもん出来るかぁぁああッ!!」」」

そんな生徒達の断末魔紛いの叫びも容赦なく無視し、「ほら始めますよ、はいスタート。1、2…」と10まで数え始める。

「あかんはよ離れなッ!!坊も子猫さんも早う来いッ!!」
「囀石を膝に乗せるなんて冗談じゃないわよッ!!朴は私が護るから安心してッ!!」
「5、6、7…」
「マジかよ、こんな所じゃ刀抜けねぇし…兎に角逃げるぞしえみッ!!」
「何でもアリってことは召喚もアリなんだよね?じゃあ飛行宜しく朱雀ッ!!」
「また来いよー……っておい今接客中だったのにッ!!」

8、9………10。
数え終えた私は、散らばった生徒達へ向かって行く。
まず初めに狙うは……

「ってコッチ!?」
「きゃぁああなんで私達が先なのよぉおおッ!!」
「大抵の敵はまず男より弱い女の方から先に狙います。あと……いくら自分が弱いと自覚していても、友人に護られてばかりでいるのはどうかと思いますよ、それに友人である貴女も……友人に何もさせずに自分だけ戦っていては、友人の為になりません。一応教師として忠告しておきます。」
「うっ煩いッ!!”稲荷神に恐み恐み白す、為す所の願いとして成就せずということなし!!”」

神木は私が剣を降り下ろす前に白狐を二体召喚し、攻撃を防ぐ。あの優等生の神木が教師に暴言を吐くとは……図星を突かれて動揺しているようだ。
私は次の攻撃を仕掛ける為に、一度距離を取り構える。

「朴、ここは私に任せて早く逃げてッ!!」
「いいよ出雲ちゃん、先生の言う通りだよ」
「え……朴ッ!?」
「私、出雲ちゃんの後ろに隠れてばかりだったね。親友を盾にするようなこと……私はしたくないから…」
「だ…だって朴は……私の我が儘でこの塾にいるのにッ…」
「こういう授業の時くらい、ちゃんとやらないとね。出雲ちゃんだって本当は分かってるでしょ?このままじゃ駄目だって。」

そう言って朴は神木に微笑み、私の前に出る。

「先生、お相手願いますか?」
「その心意気、先生は好きですよ…………いきます。」

私はそれを合図に、朴に向かって走る。

「ハァアアアッ!!」
「朴ぅうううッ!!」

朴は私の腹に向かって蹴りを入れようとしたが、私はそれを軽々と避け背後に回り込み、朴の肩にポンと手を置く。

「……………へ?」
「はい、一人目捕獲。中々良い動きでしたよ、これからもその気持ちを大切にして下さい。」
「……はい、先生ありがとうございました。」
「え……え?そんなアッサリ……「はい二人目。」あッ!!」

動揺している神木にもすかさずポンと頭に手を置き、二人目を捕獲する。これで離れることなく二人で仲良く罰ゲーム出来ますね、良かった良かった。

「敵に隙を見せてはいけませんよ、どんなことがあっても。」
「〜〜〜ッ!!やられたッ…!!」

本気で悔しがっている神木を通り過ぎ、「さて次は……」と言いながらターゲットをロックオンして相手へ走る。

「ハッ!?次は俺かよッ!?」
「こんな所では刀を抜けませんね、これを使いなさい。」

そう言って、ポンと魔法で出した降魔剣に似た刀を投げて渡す。

「刀の練習をする時間は限られているでしょうから、この授業で剣での戦い方を覚えなさい。」
「……そういうことかよ、じゃあ遠慮なく行くぜッ!!」

向かってくる燐を見て構えつつ、然り気無く近くにいた杜山の肩を叩き、三人目を捕獲する。「あッ!!」という声が聞こえたが気にしない。
真っ正面から斬りつけてきた燐の攻撃を剣で左にいなし、がら空きな右足を狙う。燐はそれに素早く反応し、右足を上げて私の剣を蹴ってきたので一旦離れる。
お互い構えてまた向かっていき、今度は背後を狙うが後ろ足で蹴られ、予想外の攻撃に私は少しよろける。その隙に剣で私の腹を斬ろうとした燐。

「貰ったぁあッ!!」

しかし………甘いな燐、今のはわざと蹴られたことに気づかないとは。

「……やっぱり未々だね。」

私は蹴られた勢いを利用して素早く転がり背後へ回り込む。

「あっしまッ……!!」
「はい、四人目捕獲。」

背後へ回り込んだ私は燐の肩を叩き、終了の意図を伝える。

「思ったより刀を扱えていましたね、初めてにしては上出来でしたよ。」
「え、そうか?」
「ですが未々です、今のままではこうやって簡単に背後を取られてしまいます。これからも練習を怠らないように頑張って下さい。」
「…………はーい、先生!」

燐は少し真面目な顔をした後、またいつもの綺麗な顔で笑った。今の表情を見る辺り、本人も自覚したようなので大丈夫だろう。

「さて、次のターゲットは……」

私は辺りを見回し、次のターゲットへと向かっていった。


「「「ギャァァアアッ!!」」」



…………結局捕まらなかったのは妹だけだった。

「……やはり次回から飛ぶのは無しにしましょう」
「次回もしはるんですか先生ッ!?」
「もう嫌やぁああッ!!」


To be continued…
※H27.2/2 執筆。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -