SHORT | ナノ



Abnormal secretion of female hormones



「この世は不公平だ…」
「そうよ、この世は不公平なの!だからそんないつまでもグチグチ言わないで。」
「…っ!ひどいナミ!あんたは鬼だ!美人でスタイルが良くて……おっぱいが大きい鬼だ!」
「アンタそれどんな感情な訳?」

ベッドの上で布団に顔を突っ伏し項垂れる私に冷めた視線を送ってくるナミが妬ましい。いや、羨ましい。
あんなに大きな胸が私にもあったら、だなんて今朝の出来事があるまでは思っていなかったのに。


「あんな事で落ち込んでどうすんのよ。」
「ナミに私の気持ちなんて分からない…」
「分からないわよ。」
「冷た!!」
「うるさいわね!もう勝手にして。」

呆れた顔をして部屋を去っていくナミの背中を見送り再び布団に顔を突っ伏しながら今朝の事を思い返した。




──────


「ふわああ〜…眠ぃ〜。」

朝食時、隣りに座る我らの船医が大きな欠伸をしながら呟いた。


「珍しいねチョッパー。夜更かしでもしたの?」
「ああ…ちょっと勉強してたんだ。」
「偉いね〜。さすが私達の船医!」
「ばっ、バカヤロウ!そんな事言われても嬉しくねえよっ!」

眠い理由を尋ねるとその答えに感心し褒め称えるといつもの様に目尻を下げながら照れ隠しをするチョッパーを微笑ましく思いながら、この船のコックであり私の好きな人であるサンジが作った朝食の美味しさを噛み締めた。


「チョッパーでも勉強する事まだまだあるんだねえ。」
「まあな!世界には色んな病気があるからな、まだまだ勉強しなきゃいけないんだ。」
「そっか…」

トナカイが人間の体についてこんなにも一生懸命勉強している姿に本当に頼れる船医だな、と思うと同時に悪魔の実は不思議だとしみじみ感じる。


「サンジも勉強してるぞ。色んな食材についてとか、あと多分人間の体の事も!」
「ふーん?…人間の体の事、も?」
「おう!この間裸の人間の本をロッカーにしまってたのを見たからな!」
「へー…裸の、ねえ…」

チョッパーの言葉に幾つかの疑問を持ちながら、カウンターに軽く腰掛けご飯を口に運ぶ当人へ視線を移すと見事に目が合いそれに気づくと優しく微笑みかけられた。
その笑みに私も応えるように軽く口角を上げるとチョッパーに追って質問をした。


「ねえねえチョッパー。その本に載ってる裸の人間って女の人?」
「確かに女ばかりだった気がするな…」
「どんな女の人…?」
「そうだな…ナミとロビンみたいに胸が大きい女だったかな!!」

最後の質問だけやたら大きな声で答えるチョッパーに賑やかに話していたクルー達は驚きシーンと静まり返った。
恐らく私達の会話を初めの方から聞いていたのであろう反対側の隣の席に座るブルックは思わずハレンチですねぇ…と声を漏らした。


「何の話してんのよアンタ達…?」
「サンジの勉強してる、」
「サンジの持ってるエロ本について。」

怪訝な表情でこちらに問いかけるナミに向かってチョッパーの返答を遮るように、冷静にそれでいて少し大きめのボリュームで答えた。
そんな私の答えにはあ、と呆れたように額に手をあてるナミから視線を移すと明らかに動揺した様子のサンジ。

ただ厭らしい本を持っているだけなら私もそこまで気にしない。だが、チョッパーがやけに強調したその本に載っているという女性の特徴が私をこんなにも落ち込ませたのだ。


──────




布団に突っ伏していた顔ごと身体をぐるりと回転させると仰向けになり天井を仰いだ。

「はあ…」

彼の顔を思い浮かべると必然的に出てきてしまうボインなお姉ちゃんの体。そして自分の胸に手をあてると自然と零れるため息。

もし私にもナミやロビンのような大きな胸があったらこんなに考え込まなかっただろうか。





「ロビン…」
「あら名無し。ご機嫌は?」
「…良くないです。」
「ふふ、それは残念。」
「あの、さ。ロビンに聞きたいことがあって。」
「何?」
「その…お、お、」
「お?」
「お、おっぱいを大きくする方法とか、知ってたりしますでしょうか。」

もしかしたらロビンなら何かしら知ってるいるかも…とくだらない私の質問を聞いた彼女は一瞬目を見開いた後いつもの様に微笑んだ。


「ええ、知ってるわ。」
「本当に!?お願い!教えて!」
「手術をするの。胸を大きくする為のね。」
「い、いや、それは…」

淡々と言うロビンが少し怖い。それも笑顔で。そんな彼女に明らかに自分でも顔が引きつっているのが分かる。
それでも手術か…と好きな人の為なら、と一瞬チョッパーに相談してみようかと考える私に今度はロビンは問いかけた。


「でも、それでサンジは喜ぶかしら?」
「よ、喜ぶでしょ…あのエロ魔人なら。」
「ただ…私個人的にはチョッパーにはそんな手術させないで欲しい。」
「ああ…そうだね。私もチョッパーには、して貰いたくないかな…」
「あとは…そうね、確実ではないけど2つ程あるわ。」
「教えて!ロビン様!」





そーっと開いた扉を開けると、そこにはキッチンに立ち此方に背をむけている男の姿があった。
意を決してダイニングに足を踏み入れるとその人物の名前を呼んだ。


「サンジっ、」
「?っあ、名無しちゃん…」
「豆乳ってある?」
「えっ?あ、ああ。あるけど…どうした?」
「ちょうだい。飲みたいの。」
「ああ、わ、分かった。ちょっと待っててな。」

少し冷たく接してしまう自分が情けない。
明らかに今朝の事を気にしているサンジに胸が痛む。
私はサンジの恋人でも無いし例え彼がどんなエロ本をどれだけ所有していようと、ナミの言う通り落ち込む必要も口出しする筋合いは無い筈なのに。


「お、あったあった。今グラスに入れるから座ってて?」
「…うん。」

優しく声を掛けてくれる彼の言う通りカウンターに腰掛けると豆乳が注がれる音だけが響く。


「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
「それにしても、何でいきなり豆乳なんか?」
「……胸が、」
「…ん?」
「胸が大きくなるかもって、ロビンが。」
「なっ!!…名無しちゃんっ、なんだってそんな、」

見た目は牛乳と変わらない飲み慣れないソレをちびちび飲みながら質問に答えるとサンジは顔を真っ赤にした。
なんでか、なんてそんなの決まってる。


「…胸が大きい女の人が好きなんでしょ?」
「え!?あ、あの、その、」
「だから、」
「だ、だから?」
「豆乳飲むと胸が大きくなるって。ロビンが。」
「た、確かに豆乳に含まれるイソフラボンは女性ホルモンと似た働きを…って何言ってんだ俺は!!その、つまり名無しちゃんは胸を大きくしたくて豆乳を…?」
「うん。」

これってほぼ告白したも同然では…とだんだんと早くなる鼓動を感じながらサンジの顔を見やると今度は青ざめた表情をしていた。


「サンジ…どうしたの?」
「…っ、すまねえ!名無しちゃんっ…!!俺はそんなつもりは無かったんだ…!」
「え、え?」

サンジの突然の謝罪に訳が分からなくなり言葉を失う。これってもしかして、もしかしなくても…振られた?
こんな形で気持ちがバレてしまうなんて、こんな形で振られるなんて、予想だにしていなかった。
だんだん霞んでいく視界に涙が落ちないよう視線を天井に上げた。


「っ、そっか、そうだよねえ。でも私が勝手に想ってたんだから…サンジは謝らないで。」
「だが、名無しちゃん、」
「本当、大丈夫だから。…今度は胸が大きくなくても好きになってくれる人を、」
「え?」
「え?」

疑問を含んだ声に視線をサンジに戻すと今度は頭の上にはてなマークがあるかの様な顔をするサンジに私も訳が分からなくなった。
見つめ合ったまま数秒後、口を開いたのは彼の方からだった。


「名無しちゃん、そんな簡単に諦めちまって良いのか…?」
「え、だって、」
「まだ伝えてねえんだろ?名無しちゃんの気持ち。そりゃあ男って生きモンはおっ、いや、レディの胸に惹かれるもんだが…名無しちゃんの好きな野郎もそうとは、」
「っ!?ちょ、ちょっと待って!!サンジ、さっきから何言ってんの?」
「え、何って…俺のせいで名無しちゃんは好きな野郎の事を諦めかけちまってるんだろ?」

やばい、何言ってんのこの人。
どこからそんな誤解を生んでしまったの私は。すごい真剣な眼差しで私を諭すサンジに思考が止まりそうになる。


「えーと、ちょっと待って。私の、好きな人…?」
「ああ。君が幸せになれるなら俺は、」
「違う違う違う!!何か違う!!」
「え!?な、何が違うんだ…?」
「私が好きなのは…、その、あの、」
「ん…?」
「っ、貴方なんですけど!!」
「……………………えええーーー!!!??お、俺はてっきり、その、名無しちゃんに余計な不安を持たせちまったのかと、でも、え、え?」

目が飛び出そうな程驚くサンジを見ながら、それ以上にサラッと告白出来た自分に私の方が驚いてしまった。
それでも焦る彼を見ていると答えはもう出ているも同然の様に思えた。


「ごめんねサンジ。いきなりこんな事言われても、困るよね…そもそもサンジが好きなのは、」

胸が大きくてスタイルの良い美人な女性。
そう口にしようとするとまた霞む視線。
今度は我慢出来ずに頬を雫が伝うのを感じた。
好きな人をこんなに困らせてどうするんだ。


「……っ、名無しちゃん!!俺は!!」
「…?」
「俺は!例え名無しちゃんのおっ、じゃなくてっ、むむむ胸がおおお大きくなくても、俺の為にそんな事を考えてくれる君が、」
「いいよサンジ…無理しなくて、本当に、」
「好きだ!!!」
「いいって、言ってるじゃん…」
「いや!好きだ!!」

再び顔を真っ赤にして叫ぶサンジに私にまでその熱が伝わってくるようで、そしてどの程度の感情であっても好きな人に好きだと言われたら何も感じない訳が無くて。
むしろ好きが溢れてきてしまう。


「サンジ、胸を大きくする方法、もう1つだけあるらしいんだけど…」
「えっ!?ど、どんな方法だ…?」

明らかに瞳の奥にハートマークが見えるサンジのその目をじっ、と見つめながらロビンから教えてもらった最後の1つの方法を思い浮かべた。言ったらこのエロ魔人はどうなってしまうだろうか。


「好きな人に、揉んでもらうと…良いんだって…」
「……………………ブハッ!!!!!」
「あー!サンジ!!ごめん!!そうなると思ってた!!」
「落ち着いてくれ名無しちゃん…!」
「いやそれ私のセリフ!」
「つつつまり、名無しちゃんの好きな野郎はおおお俺であって…名無しちゃんの胸をももも…ブハッ。」
「サンジー!!」

予想的中で鼻血を吹き出しながら倒れるサンジの元へと駆け寄りその血をティッシュで抑えてあげると口を動かし何か言いたげな様子。
なに?と問いかけるとサンジの大きな手が彼の鼻を抑えている私の手を掴んだ。突然の事にドキッとしながら彼の言葉を待った。



「き、君の…名無しちゃん、の…胸は…俺だけの、モンだ…ブハッ…」
「いやー!サンジー!しっかりー!」

意識が飛んでしまったサンジの名前を叫びながらもそんな彼の言葉が嬉しくて堪らなくなってしまう。
サンジに掴まれた手を強く握りしめながらこの小さな胸に誓った。


このどうしようもなく愛おしいエロ魔人を一生想い続けようと。





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