SHORT | ナノ



A person who wants to remember



今日こそは誘うと決めた。
船に積む食料も昨日の内に買い込んだし、今日は名無しちゃんをデートに誘うと決めていた。

いつもはどちらかと言うとクールな雰囲気の彼女だが、顔は可愛いし、たまに見せる笑顔に俺は完全にハートを射止められちまった。

可愛いなんて褒めてあげても返ってくるのは素っ気ないありがとう、の言葉。
あんな可愛いんだ、色んな男に言われ慣れてるに違いない。
だからこそ行動に移さねえと、と思った。
俺が変わらなければ、と。

「......え、何?」
「何って、デートのお誘い。」

うるせえ心臓を感じさせないよう、手に持ったお茶を静かに置きながら冷静に告げた。案の定、彼女は俺が2人きりで出掛けようなど言うとは思ってないようだった。

「...ナミとロビンには振られちゃったの?」
「え?2人は誘ってねえよ?俺は名無しちゃんを誘ってるんだが...」

そうなるか、と内心慌てながら誘ったのは君だけという事を強調して伝えた。
ダメかな?というひと押しで何とか了承を得ると心の中でガッツポーズをしながら、また冷静に振る舞う。

「じゃあお茶飲み終わってからで良いから、支度出来たらダイニングに来てくれるかい?」
「分かった。」

お茶を飲み、ごちそうさま、とダイニングを出ていく彼女を見送ると急いで昼食の仕込みを済ませ、身だしなみを整えると彼女がやってくるのを待った。
少し勢い良く開けられた扉に目をやると、いつもよりも何倍、何百倍、いや何千倍にも可愛い彼女が立っていた。

「っ、サンジお待たせ...」
「...あ、全然待ってないよ。じゃ、行こうか。」

思わず口に含んだ煙草を落としそうになり、慌てて口元を引き締めた。俺とのデートの為に御粧ししてくれたのか、と自惚れてしまいそうになった。





街に出ると昨日同様、人で溢れていた。
少し後ろを歩く名無しちゃんに、まだうるせえ心臓を抑えながら振り返った。
名前を呼ぶと顔を上げ、上目遣いで見つめられ気を失いそうになる。

「なに?」
「せっかくだしアクセサリーか何かプレゼントさせてくれねえかな。」
「え、そんな、いいよ...」

そう返ってくるとは思っていたが、それでは今日デートに誘った意味が無い。どうしても何かプレゼントをしたかった。

「買い物付き合ってもらってるし、こんな店が多い島久しぶりだしよ。」

彼女を人の波から守るように肩に手を回しながら食い下がる。

「あ、ありがとう...」
「じゃあ先に名無しちゃんへのプレゼント選びからだな。あの店とかどうだい?」

よし、と少し焦り気味で昨日下見した宝石店を指さすと名無しちゃんはこれでもかと言うぐらい大きく首を振った。

「いや、あんな高そうなお店じゃなくていいよ!もっと、カジュアルなお店で!」
「...金のことなら心配しなくていいんだぜ?」

あれぐらいじゃなきゃ俺の気持ちは伝わらねえと思い決めた店だったが、どうやら彼女は金の心配をしているようだった。

俺の気持ちも虚しく、あそこがいい!と彼女が指さした先は可愛げな小物屋だった。
名無しちゃんから腕を引かれるという予想外の展開に下心を出さないように必死に抑えた。
店内へ入ると名無しちゃんは吸い込まれるようにある場所で足を止めた。

「...へー、パワーストーンか。名無しちゃん、こうゆうの好きなんだな。」
「え、あ、うん!可愛くない?どれがいいかなー...」

こうゆう意外と女の子な一面にも顔が緩む。

「これ、どうゆう意味だろう。」
「ここに書いてある。恋愛成就に効果あり...だとよ。」
「そうなんだ...」

そうなんだ、ってどうゆう意味で言ってんだ、と悶々としていると、これにすると彼女は即決した。おい、恋愛成就って意味分かってんのか?

「え、他は見なくていいのか?」
「うん、これがいいな。」

彼女がこれがいいと言うのだから仕方ない、とそのネックレスを受け取ると、少し重い足取りでレジへと向かった。

「ありがとう、サンジ。嬉しい。今着けても良い?」
「どういたしまして、喜んでもらえて良かった。」

本当に彼女が意味を知った上でこれを選んだのか疑問だったが珍しく本当に嬉しそうに言う彼女に、着けてやるから、と後ろへ回り震える手で何とか着けてあげる事が出来た。

このまま抱きついてしまいたい衝動を抑えると名無しちゃんはくるり、と振り返る。
その可愛さに思わず、クソ似合ってるぜ、と口にしてしまった。

「じゃあサンジの買い物、行こう。」
「ああ、あそこなんだが…結構混んでるみてえだな。」

昨日下見をしていた時に、買っといても損は無いな、と思っていた物があった。
買い物に付き合って欲しいと言った手前何か買わなくては、ととりあえず店に入ろうとしたが店内も人で溢れていて名無しちゃんをあの中へ連れていくのは気が引けた。

1分で戻る、と言い彼女を店の外で待たせたのが間違いだった。目当ての品の会計をしている時だった。ガラス張りの店の前に立つ名無しちゃんに話しかける男の姿。

彼女の対応からして恐らく、ナンパされている。急いで品物を受け取り出口へ向かった時、彼女は男に腕を掴まれていて次は見覚えのある男が現れた。

「(フランキー、)」

ナンパ野郎はフランキーの姿を目にすると後ずさるように去っていった。

その一連の流れを見て動けなくなった自分に、そしてあのナンパ野郎に腸が煮えくり返り早足で出口を出ると、何やらフランキーと話す彼女に、ちょっと待っててくれ、とだけ言うと俺はあのナンパ野郎に走って追いつくと蹴りをお見舞いしてやった。

「...俺の女に手出してんじゃねえよ、次は殺すぞ。」

今にも死にそうな男の襟元を掴んで耳打ちをすると、名無しちゃんの元へ走って戻り、思わず両肩を掴んで謝った。

「名無しちゃん、すまねえ!レディを危険な目に合わすとは...本当に、俺は何してやがんだ...!」
「大丈夫だよサンジ、フランキーが助けてくれたし...」

なんて情けねえ、好きな女1人まともに守れねえのか俺は。

ありがとう、と名無しちゃんがフランキーにお礼を言うと、良いってことよ、じゃあまた後でな!と奴はどこかへ行ってしまった。
その奴の優しさに更に自分への苛立ちが募り、俺はただ彼女に頭を下げるしか無かった。船に帰ったら礼を言わねえと。

「お願いサンジ、顔上げて...」
「俺は今日、なんの為に...」
「...楽しかったよ、すごく。プレゼントもしてくれたじゃん。」
「そうゆう問題じゃねえんだよ!」

しまった、と思ったと同時に顔を上げると名無しちゃんは驚いた顔をしていた。
彼女を危険に晒した上に、八つ当たりしちまうとは、どこまでも救いようが無え。

「っ、すまねえ、つい。...俺が名無しちゃんを守らなきゃ意味がねえんだ。」
「...その気持ちだけで十分だよ。それに、私なら自分の身ぐらい自分で守れるし。」

そう言う彼女の声を聞いた途端に心の中の物は、もう抑えがきかなくなっていた。

「...好きだ。」
「うん、私も好き.........って、えっっっ?」

...ん?今名無しちゃん何て言った?
驚いて顔を上げると、彼女は心無しか顔を赤らめていた。頭の中が混乱して手を当てながら、えーっと、と冷静になる。
私も好きって言ったよな…

「好きって、俺の事...か?」

もう一度確認する為、名無しちゃんに問いかける。しかし彼女は困ったように口を開いた。

「あの、えっと、ごめんなさい。」
「...それはどうゆう意味だ?」
「......っ、」

ごめんなさい、とはどうゆう意味の?言い間違えたって事か?と頭の中を更に混乱させ、返事を待った。

「そっちこそ、どうゆう意味...?からかってる?私の事...」
「...ここまでして気付いて貰えねえのは、結構キツイな。」
「何が...!」

俺の気持ちはどうやら彼女にはまだ届いていなかったらしい。日頃の女性陣への接し方を見てたらそう思われてもしょうがねえ、と思ったが、さすがに堪えた。

「...そのまんまの意味だ。俺は名無しちゃんが好きって言ったんだよ。」

真剣に想いをぶちまける。
俺の心を占領してやがるのは、君だけだと。

「信じられねえか...俺の事。」
「...だってサンジは、女の人皆が、」
「何回も言わせる気か?俺が好きなのは、」

何度だって言ってやる。分かるまで何度でも。

名無しちゃんの顎を掬い耳元に顔を近づけると彼女の匂いにクラリとしつつ、名無しちゃんだけだ、と囁いた。

顔を離し彼女を見下ろすと、今まで見たことの無い位に顔を真っ赤にしていた。その可愛らしい唇から、俺の待ち望んだ言葉が発せられる。

「私も、サンジが、好き...」

ああクソ、一生離さねえ。




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