10万hit記念フリーリクエスト企画 | ナノ



Whether you wake up from a sickness or wake up from a dream



彼が作った料理が並べられたテーブル。
ジョッキに注がれたお酒。
賑やかな仲間達の声。
これだけ揃えば言わずもがな、今日は宴会だ。


「野郎共!酒は持ったか!!??」
「「「おーーー!!!」」」

クルーの返答に船長がカンパーイ!と大きな声で合図すると各々手にしていたものを大きく掲げる。そしてもうすっかり暗くなったのにも関わらず少し汗ばんでしまう程の空気の中一斉にそれを胃に流し込む。
隣のチョッパーが可愛いくぷはー!と声を上げる。それを目にすると自然と口角が上がる。


「お名前、酒飲まないのか?」
「うん、私お酒飲めないんだ。」
「そうなのか。俺も美味いと思わないけどな!」

1人ジュースが注がれたグラスを持つ私にチョッパーが問いかけてくる。その返事に何故かドヤ顔で答える彼が微笑ましい。後でベロベロに酔ってルフィやウソップ達といつも以上に騒ぐ光景が目に浮かぶ。
普段ならナミにうるさい!と殴られかねないが今日はその心配は皆無だ。彼女もまた今日は思う存分飲んで良い気分になるに違いない。

楽しい気分に浸りたいのは山々だ。しかし私は人前ではアルコールは口にしないと決めている。
その原因は以前ナミとロビンと女子会と称して街の酒屋で初めて飲酒した時に判明した私の酔った時の癖にある。私自身その時の行動には全く記憶が無く、真実を聞いた時にもう絶対にお酒は飲まないと決意したのだ。



案の定酔っ払って踊り出したルフィ達を微笑ましく横目にテーブルに座り頬が落ちそうになる我らのコックの作った料理を噛み締める。お酒が飲めたなら、この世界一美味しい料理は更に美味しく感じるのだろうか。
少し悔しさが込み上げながらもいや十分だ、と彼が作ってくれた残り僅かなフルーツジュースを一気に口に含んだ。


「お名前ちゃん。」
「っ…!わ、サンジ、びっくりした。」
「え?すまねえ驚かせちまったか?」

突然後ろから掛けられた声に咄嗟に口の中のものを飲み込むと私の反応にこれまた目を丸くしているサンジ。

「いや、ちょっとだけね。どうかした?」
「ジュースのおかわりどうかなって思ってよ。」
「ありがとう、丁度欲しいと思ってた。」
「そりゃ良かった。」

私からそっとグラスを取ると高級なお店のウェイターさんのように優しくジュースを注ぐ姿と、伏し目になった瞳と軽く煙草を咥えた口元に見とれてしまう。それでもバレないように視線をルフィ達に戻すと、はいどうとぞ、とグラスを差し出すサンジにありがとう、と言いながらそれを受け取る。
何かあったら遠慮なく言ってくれ、とキッチンへ戻っていく後ろ姿にまた目を奪われる。
サンジは宴会になると一見皆と騒いでいるように見えて料理の冷め具合の確認や不要になった食器の片付け等を合間を見ながらやって退ける。

お酒の力を借りれば私のこの気持ちを彼に伝えられるだろうか、と少し思ってしまった。
いや、ナミとロビンが言っていた事が事実ならそれだけでは済まない。そんな事を考える自分に少し喝を入れると前方からジョッキを片手にゾロが歩いてくる。


「もう酒無えのか。」
「キッチンに取りに行ってきなよ。」
「面倒臭えな。」

あんな常人離れし過ぎたトレーニングをしている癖にキッチンへ行く労力は無いのか、と心の中で呟くと不意にゾロが此方へ手を伸ばしてきた。突然のことに驚き固まっていると私の持っていたグラスを私の手ごと掴むと自分の方へ傾け中身を飲み干した。


「酒じゃ無えのか、これ。」
「ちょっと!!何すんの!!」
「そんな喚くな。」
「喚くわ!!」

せっかくサンジが持ってきてくれたばかりなのに…と顔をガクリと俯き落ち込むと、突如鳴り響く轟音に顔を上げる。
目の前に居たゾロの姿が無くなっており、音のした方へ視線を向けると横たわる彼の姿があった。そしてその傍らにその姿を青筋を立てながら見下ろす人影。



「っ、何すんだ!グル眉野郎!!!」
「うるせえ、それはこっちの台詞だクソマリモ…!酒が欲しいなら自分で取りに行け!」

サンジがゾロを蹴飛ばしたんだ、と分かり2人の会話を聞いながら口を開けていると踵を返して此方へ歩いてくるサンジ。ったく…と立ち上がり渋々キッチンへ向かうゾロにアイツ蹴飛ばされてんぞー!!と他のクルー達が茶化す。


「すまねえお名前ちゃん。グラス取り替えるな、今持ってくる。」
「え、いいよ。これに入れてくれれば大丈夫だから、」
「俺が大丈夫じゃねえんだよ。」

え、と再び口を開ける私からグラスを取り上げると先程同様にキッチンへ向かう後ろ姿を今度は立ち上がり後を追う。
お酒の入った樽を片手で担ぎながら出できたゾロと入れ違いにサンジの後からダイニングへ入った。



「サンジ、」
「え、お名前ちゃん。座って待っててくれりゃ持ってくのに。」

私が着いてきていた事に気づいてなかった様子のサンジはそう言いながら棚の扉を開けた。

そのグラスじゃダメなの?と聞きたいのに、聞けなかった。どこかで期待して喜んでいる自分が居た。ゾロが口付けたからダメなのだろうか。それが理由だとしてもナミやロビンにも同じように対応するだろうと分かっているのに、鼓動が早くなってしまう。

新しいグラスを手に取ると冷蔵庫からジュースが入ったピッチャーを取り出しグラスに注いでお待たせしました、と私に渡してくれる。ありがとう、と受け取るとるとそのグラスを握りしめて口を開いた。


「サンジ、」
「ん?どうした?」
「度数の、弱いお酒とか…無い?少し飲みたいなって、」
「え、まあある事はあるけどよ…大丈夫か?」
「うん、少しなら…大丈夫だから。」

分かった、と言いながら再び冷蔵庫を開けるサンジを見ながらジュースを口に含む。
多分、大丈夫。あの時は結構飲んだから酔ってしまったんだ。そしてあんな行動に出てしまったんだ。そう言い聞かせながら手際良くカクテルを作る彼の手元をカウンター越しに見つめる。


「お待たせしました、どうぞ。」
「ありがとう…綺麗な色。」

まるで美しい海のような綺麗なエメラルドグリーンのカクテルに可愛らしいサクランボが添えられている。いただきます、と口に入れると本当にジュースと変わらない美味しさから一気に飲み干してしまった。


「美味しい…!」
「気に入って貰えて良かった。おかわり要るか?」
「あ…いや、今日はやめておこうかな。ありがとう。」
「どういたしまして。」

ほろ酔いぐらいにはなれるだろうか、とカウンターの椅子に腰掛けながら甲板へ持っていくのであろう追加の料理の準備をする後ろ姿を見つめる。今日何度この後ろ姿に胸を高鳴らせただろうか、そう思いそろそろ甲板へ戻ろうかな、とサンジに伝えながら扉へ向かう。

「あ、お名前ちゃん、」
「ん?」
「ジュース持ってい、」
「サンジー!!飯が足りねえー!!」

サンジの呼び掛けに振り返ると、ジュースを手に持つのを忘れている旨を伝えようとする声を遮るように大きな音を立てて開いた扉からルフィがこれまた大きな声で叫んだ。


「うるせえな!今コレ持ってくから待ってろ!!」
「おー!うまそーー!!」

私越しにサンジが用意していた料理に目を輝かせるルフィを見上げると何故だかその姿が可愛らしく見えた瞬間、私はそんな彼に抱きついた。

「ん?なんだお名前?」
「はは、ルフィ可愛い。」
「なんだと!?可愛い訳無えだろ!」
「いや可愛いよ。」

文句を言いながらも私の背中に手を添えてくれるその温もりに何だか安心していると私とルフィの距離が空いた。ルフィの肩を押し退け私の肩を抱くサンジを見上げると彼が私達を引き剥がしたんだ、と分かった。


「おいルフィ、そこの料理持ってけ。」
「おー!ありがとなサンジー!!」

腕を伸ばして尋常じゃないスピードで料理が盛られた大皿を手に取るとそのまま一瞬にしてルフィは姿を消した。2人きりになった途端シン、とする空間に頭がボーっとしながらも肩にあるサンジの手の温度にまた心臓がうるさくなる。


「サンジ、ごめ、」
「…俺はダメなのか?」
「え、?」

離れなきゃ、と彼の胸元を力無く押し退けようとした途端聞こえた声に顔を見上げると切なそうな表情のサンジ。どうしてそんな色っぽいの、というか俺はダメなのかってどういう意味。そんな事言われたら、どうなっても知らないよ。


「好き…」
「っ、…」

歯止めが効かない。以前とは違って今の状況が分かっているのに身体が言う事をきいてくれない。私はサンジの背中に手を回してぎゅ、と彼を抱き締めた。そして息を吐くように気持ちを言葉にしていた。


「サンジ、私ね、サンジが好き…」
「お名前ちゃん、よ、酔ってるのか?」
「多分、少し、」
「そ、そうか、」
「でも、嘘じゃないよ。酔ってるから言ったんじゃない…ずっと好きだった。サンジの事。」

先程のルフィにした行為の後に言っても信じて貰えないかもしれない。それでももう今しかない、と拒否されないこの状況に甘えながら気持ちを伝える。


「ごめん、あと少しだけでいいから…こうさせて。」

回した手の力を強くして顔を胸板に押し付けると煙草の香りにクラクラする。愛しさが止まらなくなり夢だと錯覚しそうになる。いや、もしかしたら夢なのかもしれない。
目が覚めたらクルー全員に抱きついてたわよアンタ、とナミに呆れられているかもしれない。そんな事を考えていると肩にあったサンジの手の感覚が私の背中と後頭部に移る。


「サンジ、」
「はあ…お名前ちゃんの酒飲まねえ理由はコレか。」
「うん…ごめん。」

呆れるよねこんな癖がある女。誰構わず抱き着く女。でも、好きって伝えたのは貴方だけなんだよ。
謝ることしか出来ない自分に泣きそうになる。

「お名前ちゃん。」
「ん…?」
「酔いが覚めるまでこのままで良いからよ、」

酔いが覚めたらお名前ちゃんの気持ち、嘘じゃねえって確認させてくれ、と耳元で囁くサンジの声に溶けてしまいそうになる。酔いが覚めたって、夢から覚めたって、私の気持ちは変わらない。こんなに心臓がうるさくなるのは貴方だから。




いつ眠りに落ちたのか分からないままいつの間にか閉じられた瞼を開けると女部屋の天井と自分のベッドの感覚。あれは本当に夢だったのかも、と上半身を起こすと開いた扉に少し驚いているとナミが起きてたの、と言い放った。

「いい加減起きなさい。もうお昼よ、ご飯だから来なさいよ。」
「…はい。」

皆あんなに飲んであんなに酔っていたのに私より早く起きたのか、と感心しながら着替え始めた。



「おはよ…」
「お!やっと起きたのかお名前ー。もうおそようだぞお前?」

ダイニングへ入ると私を揶揄うウソップに本当だね、と苦笑いを浮かべながら椅子に座るとルフィのそんじゃ、いたたきまーす!!という声に食事が始まった。




「ちょっとアンタ達ー!昨日汚した甲板の掃除するから各自掃除道具持って外出て!」

食事も終わると突然ナミが声を上げ、それに何故か肩をビク、とさせると面倒くせーなーと言いつつも食器を片付けながら甲板に出ていくクルー達を目で追いながら私も用意しなきゃ、と立ち上がるとナミにポンと肩を掴まれる。

「お名前、アンタは別に汚してないし、好きにしてちょだい。」
「え!?なんで、」
「じゃあ、サンジ君の洗い物でも手伝ってあげたら?」




ナミの言葉に従うようにサンジの元へ自分の食器を持っていくと手伝う旨を伝えて彼の横に立つ。目に入ったカウンターに昨日の事がフラッシュバックしてしまう。


「ありがとうな、お名前ちゃん。」
「え!!?いやいや、全然…とんでもない…」

サンジの声に過剰に反応してしまい顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。しかし、いつもと変わらないサンジにもしかして本当にあれは夢だったのか、と起きてから何度目か分からない思考。
静まり返ったダイニングに甲板で騒いでいる他のクルーの声が良く聞こえる。サンジの洗った食器をひたすら拭きあげながら何か喋らなきゃ、と深呼吸した刹那。


「お名前ちゃん。」
「え!?な、なに…?」
「昨日ルフィに抱きついた事、覚えてるか?」
「あ…う、ん、覚えてる…」

ぎこち無く答えると同時にルフィに抱きついた事は夢では無いのだと思い知らされる。
そうか、というサンジのやけに落ち着いた声にやっぱり軽蔑されてしまったのだろうか、と肩を落とす。仕方ない、私が悪いんだから。


「じゃあよ、俺に抱きついた事は?」
「…っ!!お、ぼえてます、」
「そうか…じゃあ、」

俺に好きって言ってくれた事は?と蛇口の水を止めながら言うサンジの言葉に固まる。
覚えている、その一言がなかなか言葉に出来ない。昨日は自分でも信じられない位気持ちを言葉に出来たのに。シラフになるとこうも違ってくるのか、と息を呑む。


「…覚えてねえか?」
「いや、あの、」
「それとも、やっぱり嘘か?」
「っ、違う!!」

思わず声を上げ勢いよく見上げたサンジの表情が冷たく見えてしまい胸が苦しくなる。
お前は軽い女だ、と言われているようで。


「違う、嘘じゃない…酔ってたからとかじゃない。私はずっと、サンジが、好きだった。」

視界がぼやけていって、鼻の奥がツンと痛い。やっぱりお酒なんか飲まなきゃ良かったと心の底から後悔しながらお皿を掴む力が強くなる。
不意に大きな手が伸びてきてそんな私の手からゆっくりお皿を取り上げられ、再び顔を上げるとサンジの目が私の瞳を捉える。そして今度はシャツを捲った長い腕が伸びてきて私を包み込んだ。昨日と同じサンジの煙草の匂いが鼻を掠める。
サンジ、とシャツを握りしめながら顔を上げると微笑みながら彼はこう言った。


「死ぬ程ホッとした…俺も好きだ。どうしようも無えぐらい、君の事が。」





「もう酒は禁止だな。」
「…はい。そうします。」
「でも酔ったお名前ちゃんクソ可愛いかったからな…俺の前限定なら、」
「いや飲みません、絶対に。死んでも。」



──────
小百合様へ
大っ変、大っ変お待たせ致しました…!!
本当に遅くなりすぎて申し訳ありません!!泣
リクエスト内容飲酒がテーマということでサンジを酔わせるかヒロインを酔わせるかで迷った結果サンジのキャラ崩壊が怖くヒロインを酔わせて頂きました!
微量の酒でそんな酔うか!とツッコミたくなると思いますが、寛大な心で読んでくださったら嬉しいです…!!
もう本当にお待たせし過ぎた上に満足頂ける物になっているかは分かりませんが、このお話を小百合様に捧げます!
改めましてこの度はリクエストありがとうございました!!



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