PAST CLAP | ナノ



1st





その手を、その髪を、その全てを
独り占めしたいと
こんなにも自分の気持ちを
抑えられなくなってしまったのは、
いつからだろうか。

恋人同士になったと言っても
あの人にとって女性は
みんな恋人のようなものだと思ってなきゃ、
彼の彼女は務まらない。

だけどもう、限界だった。

「別れたいの。付き合う前に戻りたい。」

恋人になった途端、
私の中の独占欲が異常になっているのが
とても怖かった。
仲間の前では嫉妬なんてしない、
ただただ彼の事を支えてあげられるような
彼女を演じていた。
そうしないと、
嫌われてしまうと思ったから。

他の女の人を見ないで、話しかけないで。
そんなの、彼には拷問なんだろうな。

「よければ理由を聞かせてくれねえか。」
「...辛いの。私には、荷が重すぎた。」

そんなこと、言いたいんじゃない。
ただ私にだけ触れて、
私にだけその笑顔を見せていて。

「分かった。」

あっさりと返された返事に、
溢れそうな涙を堪えきれずに
泣き顔を見せてしまった。

「なんで泣いてる?」

そんなの、貴方と別れたくないからに
決まってるじゃん。

「本当に別れたいのか?」

コツコツ、と歩いてくる
その足音さえも愛おしい。

「好きすぎて、辛い。」

近づいてくるその温もりに、
心の声が出てしまう。
面倒くさいと思われただろうか。
大好きな手が伸びてきて
床を見つめてた私の顎がクイ、と
持ち上げられ目線を合わせられる。

「俺もだ。」

困ったように笑うその顔も、全部大好き。
堪えきれず彼の胸へ飛び込むと、
ぎゅっと抱き締められる。


「クソ愛してる。」






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