今年のバレンタインは月曜日だからバンドのメンバーには前倒しで13日の練習の時にプレゼントを渡す事にした。
一般的なバレンタインは女の子が好きな人とか、最近では友達にチョコをあげたりするもんだけど俺達は違う。
両親は仕事で殆ど海外に居たからバレンタインの祝い方が日本流じゃなくて外国流だ。
海外のバレンタインは男性から女性に花束をあげるらしい。
だから毎年父さんは両手いっぱいの真っ赤な薔薇の花束を母さんに渡してた。
そして母さんはとても幸せそうに笑ってた。
その光景を小さい頃からずっと見てた俺は当然のように最愛の妹である桜慈に小さな花束をあげてた。
桜慈にも母さんみたいに幸せそうに笑ってほしかったから。
でも真っ赤な薔薇は渡してない。
それは将来、愛し合う人から貰ってほしいからそれ以外の花束を毎年あげた。
そして桜慈も、俺に花束をくれた。
性別なんか関係ない、大切な人にあげたいんだって。
その言葉を聞いた時、嬉しさのあまり号泣したなぁ。
それ以来、俺達の間では性別関係無しに大切な人に花束じゃなくてもプレゼントを渡す日になった。
日頃の感謝も込めて。
「今日の練習はこれで終わりだ」
帝の言葉を合図にそれぞれが片付けを始める。
「おっひめっさまーっ!はい、バレンタインのプレゼントっ」
後ろからいきなり大きな声を掛けられてビクッて肩が跳ねた。
振り向いたらアキが嬉しそうに笑って包装されたプレゼントを持ってる。
「ありがと。俺からはこれね」
自分の荷物からアキへと書いたタグを付けてる箱を渡した。
早速包装を剥がしたら前にやりたいって言ってたRPGのゲームソフトだった。
「これ、貰っていいの?」
「もっちろん!俺がクリア済みの中古だけどね〜っ」
アキがプレイ済みなら有り難い。
アキはいつもゲームで信じられない記録を叩き出してる。
だからそれを目標に進めた方が楽しい。
「へ?お姫様からはチョコ?」
俺が渡した箱を開けてアキが驚いたように呟いた。
「そう。美味しそうなチョコのレシピをいっぱい見つけたから今年はチョコにしてみた」
本当は皆のプレゼントを用意するお金が足りなかったからなんだけどね。
それは言えない。
その代わり、皆違うチョコにした。
「おっ、生チョコだぁっ!俺生チョコ好きっ」
嬉しそうに頬張るアキの姿に思わず笑ってしまう。
チョコで喜んでくれるか心配だったけど喜んでくれたみたいだ。
「燈瑪、俺からはこれだ」
生チョコを頬張ってるアキを見てたら千尋から薄い袋を受け取った。
中身は初心者向けのピアノの本だった。
「ピアノを弾けるようになりたいって言ってただろ?これで練習してくれ」
「ありがとう!はい、千尋の分」
前に千尋に教えてもらった時にポロッて言った事、覚えててくれたんだ。
ピアノが弾けるようになったら少しはバンド活動に役立たせられるかな。
「俺のはマフィンか。帰ってから味わう」
袋を覗いて嬉しそうにしてる。
千尋はあまり自分から好きなものとか教えてくれないから心配したけど良かった。
そういや、甘いものよく食べてるしな。
今度、何が好きか詳しく聞こっかな。
「お前達、今日は燈瑪の誕生日じゃなくてバレンタインだぞ」
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