「汰狼、焼けたぞ」
「……今度こそ俺が作りたかったのに」
綺麗に焼けたホットケーキを重ねて盛り付けるとぼそっと小さな声で聞こえた。
完璧にヘソ曲げた顔してる。のにチラチラとホットケーキを見てる。あと一押しか。
「せっかく生クリームにメープルシロップもかけようと思ったのに…もうこれは食わねぇのか?」
「食う!」
甘いもんで釣るとさっきまで拗ねてたのに今はもう目を輝かせてる。本当に素直で可愛い奴。
「じゃあ生クリームを用意するからクッキー食って待ってろ」
「おうっ」
一目散にクッキーの元に行くぐらい食いたかったのか。汰狼にしたら我慢した方だな。
嬉しそうにクッキーを食べる姿を見てから生クリームを作り始めた。
「ホットケーキ美味ぇ!」
「そうか」
締まりのない笑顔で口許を汚しながら食べていく。あれを舐め取りたい。
でも俺が作ったもので笑顔になってる汰狼を見ていたい。
究極の二択に考えてると目の前にフォークを差し出された。
「どうしたんだ?」
「……バレンタインの時に食わせてくれって言っただろ」
照れ臭そうにフォークを差し出す汰狼に頭が真っ白になって固まる。様子を窺うように見上げてくるから自然と上目遣いになってて物凄く可愛い。
「し、獅希?」
「……ああ、そうだな」
このままでは汰狼に食べさせる機会を逃してしまいそうで慌ててフォークを握り直した。
「はい」
「あー…」
ちょっと生クリームを多めに乗せて口許に運んだから口の端が白く汚れてる。
…邪な考えが頭に過ったけど汰狼の笑顔を見て申し訳なくなった。汰狼、悪い。
「獅希、次こそ俺が作るぞ」
「卵が割れるようになったらな」
汰狼が作ったホットケーキがいつ食えるか楽しみだ。
でもこのまま卵が割れなくても良いけど。
これからもずっと俺が作ってやるからな。
fin.
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