今年のバレンタインは市販のチョコを渡す事にした。
一緒にネットで見ていた時、これ美味そうだなって言ってたやつ。その方が喜んでくれると思って用意したのに期待とは違って驚くぐらい落ち込んでしまった。
焼けたスポンジを冷まして後はコーティング用のチョコを溶かして…その前にクリームも作らないと。
クリームにナッツを入れよっかな…
「陵、クリームにナッツ入れる?ちなみにアーモンドだけど」
「燈瑪大好き」
「……入れるね」
「燈瑪大好き」
これは会話としてなりたってないけどさっきからずっとこんな感じ。俺の話を聞いてないよな、多分。
とにかくて今は上機嫌で後ろから抱き着いてきて離れそうにない。
料理中に抱き着いてくるのはいつもの事だけど、
「陵、離れて」
「……何でだよ」
不満そうに眉間に皺を寄せて顔を覗いてきた陵の腕の力が強くなる。顔近いって!
それは今の陵はいつもと少し違う所為だ。
いつもは髪を後ろに流してる髪は押さえてる紐が切れたとかで下ろしてる。それに宿題をしてたから眼鏡をかけてる。
ただそれだけなのに違う人みたいだし何よりその…見慣れていない姿も格好良いからドキドキして落ち着かない。
「…燈瑪?」
「は、離れないとチョコお預けっ」
「なっ!?」
こんな言い方はちょっと卑怯な気もするけどこのままチョコを作り続けるなんて俺にはムリだったんだよっ。
この言葉が効いたみたいで陵は渋々離れて今度はキッチンカウンターからじっと見てくる。……そんなに見なくても。
「……リビングで待ってて」
「……」
リビングを指差したらまた渋々従ってソファーの方に歩いていった。
その後ろ姿がまるで飼い主に叱られた犬みたいで桜慈がいつもワンコって言ってるのが何となく分かった気がした。
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