続・肉人形飼育記録2

フェイタンはあれから一度も外に出ていない。
屋敷に引きこもってセックス漬けの日々を送っている。
今もこうして、ソファの上で身を寄せ合っている。
フェイタンはカルトの肩に頭を乗せ、カルトはフェイタンの腰に腕を回して抱いている。
互いの剥き出しの肌が隙間なくぴったりと密着する。
カルトはフェイタンの汗ばんだ皮膚から立ち昇る匂いを――以前は感じられなかった、果実めいた甘酸っぱい香りを吸い込む。
その色香にあてられて、一度は落ち着いた劣情が再び頭をもたげてくる。
「ね。しよ?」
カルトの誘い掛けに、フェイタンがくすりと笑う。
「またか?さきシタばかりね」
「ダメ?」
「ハハ。別にいいけど」
フェイタンは上体を起こし、カルトを組み伏せて顔を覗き込む。蠱惑的な笑みを浮かべながら指先でカルトの頬をつぅ、と撫でる。
「お前、す(っ)かりワタシにハマたね。ワタシのカラダ、そんなにいいか?」
「うん」
素直に答える。それを聞いて満足そうに微笑むフェイタンの腰に手を回しながら、カルトは何だか感慨深い気持ちになった。
「フェイタンも、最初はあんなに嫌がってたのにね」
「それはお前が無理矢理したからよ。他にも散々ひどいコトして……ワタシまだお前恨んでるね」
フェイタンはそう言ってカルトの頬をつねる。
「もう許してよ。何度も謝ってるじゃん」
「謝て済んだら殺し屋いらないね」
「確かにね」
苦笑を交わし、どちらからともなく唇を重ねる。ねっとりと舌を絡ませながら、互いの肌を撫で合う。

(ああ。柔らかい)
東洋人らしいしなやかな肌の感触を。その下にある肉の感触を楽しみながら、カルトは心の中でそう独りごちる。
「ん……」
胸の頂点を摘まんで転がすと、フェイタンは鼻から抜けるような小さな声を漏らして、うっとりと目を細める。
男ではありえない嫋やかな曲線を揉み、撫で回し、口づけを繰り返すうちに、早くも乳首がつんと固く勃ち上がってくる。淡褐色の小さな乳輪を指でくるくるとなぞりながら指先で乳首を押し潰すと、ぎゅっと括れた腰をもどかしげにくねらす。
「……本当に女になったんだね」
感慨を込めてそう呟くと、フェイタンは快楽と笑いで息を弾ませながら答える。
「見ての通りね」
つい数日前にはなかった、ささやかな胸の膨らみが二つ。
ぴんと張った形のよいそれはフェイタンが身動ぎする度にふるふると揺れる。
「もと触ていいよ。好きなだけ」
誘われるがまま舌を這わせる。滑らかな皮膚の感触を唇でたどりながら、片方の胸には手を這わせて、掌で包んで揉みほぐす。
「ん、んん……」
くすぐったいのか気持ちいいのか分からない様子で身を捩るフェイタン。
空いている手でその身を捕らえながら、夢中になって乳房に吸い付く。舌の上で乳首を転がしたり強く吸ったりする度いやいやをするように髪を振ってむずかる様子が、どうしようもなく可愛い。
こんなに感じやすくて赤ん坊に授乳などできるのだろうかと疑問に思う。が、すぐにどうでもよくなった。
今はそんなことは問題ではない。目の前の女体を。この人を独り占めできるという事実を、存分に堪能したい。

「カルトお前、赤ちゃんみたいね。そんなにオ(ッ)パイ好きか?」
彼女はそう言って彼の頭を撫で、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「好きなだけ触っていいって言ったの、フェイタンでしょ」
彼は彼女の乳首に軽く歯を立て、ちゅうっと音を立てて吸い上げた。
彼女がこそばゆそうに笑うのを聞きながら、空いているほうの手でもう片方の胸に触れる。彼女は乳首を強めにつままれるのが好きらしい。強く引っ張ると、身をよじって悦ぶ。夢中で二つの膨らみを愛撫するカルトの頭を抱いて、彼女が密やかに囁く。
「下も触て」
要求に応え下肢へと手を伸ばす。つい先日までなかった秘裂は狭く、固い。
割れ目に指を這わせると、彼女の唇から甘えるような吐息が漏れる。何度か指を往復させると、彼が先程出した白濁液がとろりと溢れてくる。そのぬめりを指先に絡め取り、敏感な肉芽に塗りつけて優しく撫でてやる。
「あ……」
びくん、と彼女の体が跳ねる。充血した陰核を指先で押し撫でながら、舌先で胸の先端を突つくと、切ない嬌声を上げて身悶える。
元の何十分の一の質量になってしまったのに、神経の量はそのままらしい。性感を得るためだけに存在する器官の包皮を剥き、指で挟んで、ペニスをしごくように、磨り潰すように刺激する。
「ひ、ぃ……〜〜〜あ!」
愛撫を続けるうちに彼女の足がびくびくと震える。それを見て絶頂が近いのだと悟る。彼は乳首への愛撫を止めて、彼女の足の間に顔を埋めた。そして陰核を口に含んで強く吸い上げ、同時に二本の指を膣に沈めて、女性器の内外を刺激する。
彼女の尻が浮き上がると同時に、彼の指が胎内を抉る。指先がGスポットを圧迫した瞬間、彼女の全身が強張り、尿道口から勢いよく潮が吹き出して彼の顔を濡らす。

「しょっぱい」
股間に顔を埋めたまま呟く。潮で濡れた顔を拭うこともせず、なおも秘部を責め続ける。
「んあ!や……ぁ……」
彼女は上体を反らせて身悶える。絶頂の最中にも容赦なく続けられる愛撫に悶えながら、その手で彼の頭を掴む。引き剥がそうとしているのか、「もっと」とねだっているのか判別できない強さで指を立てる。その痛みさえ心地好く感じるほど彼も昂っていた。
「あ!あぁ!!」
再び達したあとも丹念に愛撫を続けると、彼女は狂ったように身悶えした。
彼が秘裂から顔を離す頃には、彼女は息も絶え絶えの様子だった。
「カルト……それ、もうダメ……」
半分べそをかきながら、くたびれきった声で呟く。
そのさまが。或いは口ではダメだと言いながらも彼の好きにさせれくれるという事実がまた彼の征服欲を駆り立てる。

(かわいい)
彼は彼女の内腿に口づけを落とし、体を起こして彼女の太腿に手を添えた。
正面から彼女の両足を持ち上げる。恥ずかしい部分を丸出しにして、これからされることへの期待と興奮で顔を蕩けさせるようすに劣情を抑えきれない。
彼は勃起したペニスを彼女の秘所にあてがうと、そのまま一気に貫いた。
体重をかけて、できうる限り深く穿つ。皮膚越しに恥骨同士がキスをする。ぐりぐりと腰を打ち付けると、彼女は唇を噛んで彼にしがみついた。彼の肩に顔を埋め、背中に爪を立てて身悶える。彼は彼女の耳元で荒く息を吐いた。
(気持ちいい)
アナルセックスとはまた違う。ぬめりを帯びた膣襞がペニスを飲み込む。襞の一枚一枚が軟体動物のようにうねり絡み付く。つい先日まで処女だったそこは、成長途中の彼ですら狭く感じるほどきつく、それでいて柔らかく温かく包み込んでくる。
(ここは、フィンクスのお古じゃない)
(ボクが初めてなんだ)
(ボクだけの)
破瓜の血を流して苦痛に耐える彼女を想起し、彼の胸がかっと熱くなる。今まで感じたことのない高揚感。充足感。満足感。その全てを同時に味わい、彼は多幸感に酔いしれた。
彼の悦びに呼応するように、彼女の中が蠢く。侵入者を歓迎するように包み込み、吸い付き、しゃぶりたてる。
「ふふ」
彼女はからかうような慈しむような笑みを浮かべながら、彼の腰に両足を絡めた。そして揶揄するように囁く。
「ケダモノか、お前は」
答える代わりに唇を塞ぐ。口内に舌を滑り込ませ口腔内を犯す。その間も腰の動きは止めない。上も下も蕩けそうなほど気持ちいい。
彼女は鼻にかかった声を漏らして、その小柄には不釣り合いな怪力で彼を抱き締める。この息苦しささえ愛しい。
このまま窒息してもいいと半ば本気で思いつつ、彼は激しく腰を打ちつけながら彼女の耳にしゃぶりついた。
耳朶を食んだり穴の中に舌を差し入れたりすると彼女の膣が収縮して一層強くペニスを締め付ける。この痛みがたまらない。
そのまま腰をぴたりと密着させ、奥深くまで貫いたまま思い切り射精した。
荒い呼吸を繰り返す彼の下で、彼女は恍惚の表情で放心していた。汗で濡れた体を抱え直す。彼はまだ満足していない。彼女の方も続きをねだっているのがありありと分かる。

彼は彼女の体をうつ伏せにすると、腰を高く上げさせ、愛液と精液でぐしゃぐしゃになった膣を後ろから貫いた。
「あぁ……あ!」
腰を引く。再び押し込む。彼女の口から嬌声が漏れる。
汗が光る背中に舌を這わせる。前に回した手で乳房を揉みしだくと彼女の体が小さく震え、狭い肉壺が一層きつく締まる。
彼は達しそうになるのをこらえ、彼女の腰を抱え込んで強引に抽送を続ける。
彼女の感じる場所を執拗に擦り強く抉る。彼女がクッションを握り締め、ぎゅっと唇を噛む。痛がっているのか気持ちいいのかよく分からないが、ただ彼を求めていることだけは分かる。
不意に彼女の体が強張り、次の瞬間一気に弛緩する。どうやら達したらしい。その反応を見届けてから彼は己の欲望を彼女の胎内に放った。

荒く息を吐きながら落ち着きを取り戻したものを引き抜いて、脱力感に任せて彼女に覆い被さる。
裸のまま絡み合って、皮膚越しに伝導する体温を、脈動を楽しむ。
不意に髪を撫でられる感触があった。
彼女が微笑んで、彼の髪を撫でている。
慈愛に満ちた顔で。何とも幸せそうな表情で。
彼は何だか面映くなって彼女の胸元に顔を埋めた。そうすると頭全体を抱き留めて、ぐりぐりと大きく円を描くように撫でてくれる。
小さくて、皮が厚く、マメができた掌。筋の入った切りっぱなしの爪。武器を握り戦ってきた者の、優雅とは言いがたい手指。その感触と温かさを感じながら、彼は何故か無性に泣きたくなった。
一方で、この人と苦楽を共にしてきた幻影旅団に――中んずく長年この人と愛し合った男に対して、言いようのない羨望と嫉妬を覚えた。

――フィンクスは幼い時分から、こんなふうにフェイタンを甘やかしたのだろうか。
彼女を問い詰め当たり散らしてやりたい気持ちと、彼女はそれさえ甘んじて受け止めてくれるだろうという確信と、彼女を責めても詮無きことだと諦念めいた理性と、種々の思いが交錯して収拾がつかなくなる。

――許すより他にない。
確かにフェイタンはフィンクスを愛しクロロを慕い、幻影旅団に人生を捧げたかもしれない。けれどそれは過去の話だ。過ぎたことをつべこべ言ったところで何も変わらない。今フェイタンが愛しているのは、今彼女の隣にいるのは、自分なのだ。
フィンクスは過去。カルトは今、そして未来。それでいいではないか。
この感情は隠しておくべきだ。彼女にぶつけるべきではない。
彼女を困らせてはならない、という気持ちがないわけではない。それよりも下手に旅団の話題を出して彼女の記憶を揺さぶり起こす方がいやだった。
彼女に幻影旅団を思い起こさせる全てを遮断したい。できることなら消してしまいたい。その身にでかでかと刻まれた蜘蛛の刺青も、周りの皮膚ごと剥ぎ取ってやりたい。
彼はそんな己のエゴを厭わしく思い、この期に及んで勝手に劣等感を抱いて、一人でむしゃくしゃしている自分に辟易した。

「カルト」
彼が複雑な想いを持てあましていると、ふいに彼女が彼の名を呼んだ。
彼は顔を上げる。彼女は慈しむように彼を見つめて、言った。
「お前、ずいぶん背伸びたね」
彼の胸中で渦巻く想いをよそに、情事後の気怠さを残した声で穏やかに言葉を紡ぐ。

――どうやらこの醜い感情は気付かれずに済んだらしい。
彼はほっとして、そういえばこの人と視線を交わす角度が変わった気がするなと思い至る。
彼女の身長は変わらない。なのに、その目線の高さが低くなった。彼の目線が高くなったのだ。
彼の身長はまだ伸びていくだろう。近いうちに彼女を追い抜くだろう。
あと数年もすれば、彼女が見上げなくてはならないほど差が開く。
今はまだ目線の高さが変わらない。こうして近い目線で抱き合っていたことを懐かしく思う日が来るだろう。
今はまだ、彼女と同じ高さでいたい。彼女の腕にすっぽり収まる安息に浸っていたい。

彼女は彼の顔を両手で包むと、ちゅ、と音を立てて額に口づけた。続けて、瞼に。頬に。鼻の頭に。首筋に。次々と口づけの雨を降らせる。
彼はそのくすぐったさに笑いながら、お返しとばかりに彼女の唇にキスをした。彼女は小さく笑いながら、彼のキスを受け入れる。
「しょ(っ)ぱい」
自分で噴き出した体液を舐め取って、彼女は苦く笑う。
「そりゃ思いっきりフェイタンのお漏らし浴びたからね」
「バカ」
彼女は彼の鼻を軽くつまんで引っ張る。二人はくすくすと笑みを交わし、互いに啄むような軽いキスを繰り返した。
(ああ、幸せ)
これまで味わったことのない幸福感に酔いしれながら、彼は心の中で呟いた。
もはやこの人は"肉人形"ではない。彼の半身だ。
初めこそ無理矢理もぎ取った心身だが、今は違う。
針で操作された上とはいえ彼女の方も彼を求めている。
この世で唯一、彼だけを慕い、求め、愛してくれる人。
全て許そう。過去に誰と愛し合おうと、今この人が自分を愛してくれているのならばそれでいい。
彼だけを見てくれているのならば、他の男などどうでもいい。
この人のために尽くそう。この人の想いに報いよう。この人が幸せでいられるように、この人の望みを叶えよう。
彼女の胎内に注ぎ込んだ種が芽吹いて花開き、やがて実を結ぶ。
ずっと傍に寄り添い続けよう。それが彼なりの誠意であり、贖罪である。

互いの体温が溶け合う。
二人だけの空間に漂う空気は、蜜のように甘い。

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