身重の石ネタ

「待った」
コンドームの袋を破ろうとするボクを、ベッドに寝転んだ彼が制する。
「今日はナマでいいぜ」
「えっ?」
「お前のガキ、産んでやれるかも」
「……は?なに言ってんのお前」
本当に、何を言っているのか。フィンクスがボクの子供を産む?彼は正真正銘の男だ。今までに何度も愛を確かめ合ったのだから、間違うはずがない。
訝るボクを見上げながら得意気に笑って、フィンクスはこんなことを言った。

「仕事のついでに面白いもん見っけたんだわ。『身重の石』っつー3kgの石を1ヶ月肌身離さず持ってれば、達成の1週間後に男女関係なく身籠るんだと」
「ふーん」
「なお達成後の1週間が過ぎる前に意中の人間と交わると、その人間の遺伝子が胎児に組み込まれるそうだ」
「へえぇ」
「達成してから今日で3日目。今お前とヤれば、オレはお前の子を孕むってわけよ」
「ほぉ」
彼の仕事は不定期である。月に数回出かける時もあれば、何年もスパンが空くこともあるし、当日中に戻ってくる場合もあれば数ヶ月帰らないパターンもある。
直近だと8月の末にヨークシンまで出かけていった。数日で帰る予定だったのに、長いこと連絡がないと思っていたら……まさかこんなことになっていようとは。

「ていうか、それ大丈夫なのかよ。なんかイヤな制約でもあんじゃないの」
「大丈夫くね?1ヶ月石を持ち歩くってのが、既に制約に当たるはずだぜ」
「で、試したの?その身重のなんちゃらってやつ」
「まぁな、3kgくらい余裕だし。その結果がこれよ」
言うなり下着を下ろして見せたフィンクスの股間には、相変わらず立派な逸物が生えている。
「『その結果がこれ』」
「アホかお前。キンタマの辺り、触ってみ」
言われるままに手を伸ばすと、確かにいつもと感触が違った。陰嚢がなくなってる?その代わりに、今までなかった割れ目がある?外側のふっくらしたのは大陰唇で?内側の薄いビラビラは小陰唇?
「マジか……」
「マジ。ここにハメてくれよ」
フィンクスが自ら膝裏を抱え股座を見せつけてくる。会陰がぱっくりと縦に開いて、その下の方にある小さな穴がとろとろと愛液を流している。なんともグロテスクでありながら、ひどく淫猥な光景だ。

(フィンクスを……孕ませる?)
目の前の事実に。彼の要求に興奮を覚えたボクは、誘われるがまま彼に覆い被さる。むちむちした胸にむしゃぶりつきながら、既にギンギンになっている竿を濡れそぼったそこに押し当て、素股をするようにズリズリと擦り付ける。
「へへ。がっつくなぁオイ」
「うるさい。お前の方から『ハメてくれ』って言ったんだろ」
焦らすように先っぽだけを入ると肉厚な唇のような入り口がきゅっと吸い付いてくる。引き抜く際の「ちゅぽん」という感触がなんとも気持ち良くて、何度もその動きを繰り返してしまう。
「それウゼェからやめろ。上から下からチュッチュチュッチュよ、蛸の類いの妖怪かテメーは」
蛸の妖怪とは何という言い種だ。欲しいなら欲しいって言えばいいのに。だったら望み通りくれてやる。
思い切ってグッと体重をかけて根本まで埋め込んでいく。熱くて柔らかい粘膜が包み込むようにして迎え入れてくれる。
「痛くない?」
「別に」
そう言う彼は、ほんの僅かに顔をしかめている。それが快楽からきているのか苦痛によるものなのかは判然としない。
「お前こそどうよ?新しい穴の味は」
「……すげーいい」
素直に答えると、何処か慈愛のこもった顔をしてボクの髪を撫でる。
ズルい奴だ。粗野でガサツで口うるさくて横柄なくせに、時折こうやって優しい一面をチラつかせる。こういうのを何て言うのだろう?所謂ツンデレとは少し違うような気がする。
何にしろ本来の彼は優しい人間なのだ。普段はわざとそれを隠しているだけで。
「動いてもいい?」
「ん」
彼が小さく返事をしたのを確認してから、ゆっくりと抽送を始める。
(ダメだ。気持ちよすぎ)
ヌルついた凸凹の肉壁が、アナルセックスとはまた違う快感をもたらしてくれる。早くも限界を感じつつもどうにか堪える。これで達してしまうのではもったいない。
ピストン運動を続けながら、フィンクスの表情を覗き込む。相変わらず軽く眉根を寄せて、目を閉じ軽く唇を結んでいる。苦しそうとまではいかないが……やはり初めての場所だから違和感が強いのだろうか。
臍の裏辺りのざらざらした箇所を擦ると僅かに腰が跳ねる。どうやらここが良いらしい。何度か角度を変えて攻めていると、フィンクスがおもむろに瞼を開け、言葉を紡いだ。
「なぁ、そういうのいいからもっとガンガン突いてこいや」
「でも……」
「痛けりゃ痛ぇって言うからよ。お前の好きなようにヤッてくれ」
かったるそうな態度で、投げやりに言い放つフィンクス。本当にコイツはムードってものを知らない。
「言ったな。後で泣いても知らないぞ」
「勝手に泣いてろバーカ」
悪たれ口を叩く唇をキスで塞いでから、遠慮なしに奥まで突き上げる。
「ん……ぐっ……、」
フィンクスの体がビクンと仰け反るも、彼の言う通りに構わず腰を打ち付け続ける。肉同士がぶつかり合う乾いた音が部屋に響く。
「ねぇ、どんな感じ?」
「フツー。ケツでするのとそんな変わらん」
素っ気なく答える声はいつもより甘い。言葉とは裏腹に感じてくれているのは明らかだ。
思い立って裏腿に掌を当てて屈強位の姿勢で犯す。ストロークを大きくして、己の抽送を観察する。その度に愛液が泡立って垂れてくる。
(すげーや、超エロい)
生々しく脈打つ結合部をまじまじと見つめていると、フィンクスが「おい」と声をかけてくる。
「あんま見んな」
「なんで?」
「……恥ずかしいだろ」
消え入りそうな声で、それだけ言う。
「さっき自分から見せてきたくせに」
「ウルセェな。さっきと今じゃ状況が違んだよ」
(かわいいじゃん。照れてやんの)
ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。この強情っぱりがたまらなく愛おしい。
「フィンクス、ボクのこと好き?」
「……は?ンだよ急に」
「いいから答えろよ」
「好きでもない奴とするわけねェし、ガキ産みたいとも思わんだろ」
不機嫌そうに言う彼の耳元に唇を寄せて囁きかける。
「あーフィンクス。マジ好きだ。たまんねぇ」
そう言って首筋に吸い付く。舌先で肌をなぞるようにして舐め上げながら、ちゅっ、ちゅっと啄むような口づけを繰り返す。その間も腰の動きは止めない。
「気持ちいい?」
返ってくるのは無言だ。だが、否定ではないことは分かる。無抵抗なのが何よりも雄弁な肯定の証だ。
抽挿を繰り返しながら乳首をつまみあげると、キュッと内壁が締まる。
「っ……ふっ……」
息を殺して快感に耐えようとする姿がいじらしくて堪らない。
「中で出していいんだろ」
「あぁ」
「ボクの赤ちゃん、できちゃうかも知んないよ」
「いんだよ。最初からそれが目的なんだし」
荒い呼吸の合間に吐き出される吐露。
「そうでした」
そう返すなり抽送を早めて、絶頂に向けてひたすら高みを目指す。ずっちゅずっちゅと激しくなる音と共に、互いの体の間で揺れる性器から先走りが溢れる。
「ほら、孕めよフィンクス。ボクのザーメンで妊娠しちまえ」
言葉に代わって呼応するかの如く、中が収縮する。その刺激に促され子宮めがけて精を放つ。勃起がおさまるまでゆるく腰を動かし続ける。それに合わせて彼の喉から小さな喘ぎが漏れる。
種付けされたそこは意思を持っているかのように、最後の一滴まで搾り取ろうとするかのように小刻みに震えている。

しばらく余韻に浸ったあと、萎えた性器を引き抜く。
『好きでもねー奴としねぇし、ガキ産みたいとも思わんだろ』
彼の陰裂からとろりと溢れ出る子種を眺めながら、先ほどのフィンクスの言葉を反芻する。
彼はボクを愛してくれている。ボクの子供を産みたいと思っている。言い知れぬ興奮と喜びがこみ上げて、思わず口許が緩んでしまう。
「なァに笑ってんだよ、くそウゼェ」
すっかりいつもの調子に戻った彼は、こちらを睨めつけながら憎まれ口を叩く。
「いやぁ。やっぱフィンクス好きだな〜って思って」
「きっしょ」
彼はティッシュペーパーで事後処理をしながら吐き捨てたあと、さらにこう続けた。
「……そうそう。オレまたすぐ出かけっから」
「え、ウソ」
「ちょっとメンドクセーことになっててよ。しばらくヨークシンに通うハメになっかも」
「それっていつまで?」
「凄腕の除念師が見つかるまで」
「おお……厳しい」
除念師というと念能力者の中でもレアな存在だ。まして上級者ともなれば、世界に数えるくらいしか居ないだろう。

「んな顔すんなって。ちょくちょく帰って来るつもりだからよ」
そう言いながらボクの頭を軽く叩く。
「寂しいなら電話して来い。メールでもいいぞ」
「お前電話出ないしメールも返さないじゃん」
「お前が連絡入れんのは勝手だ。オレが応じるかどうかはまた別問題だがな」
「それ、意味ねーじゃん」
ムチャクチャを言いながら勝ち誇るその顔は、ほんの少し寂しそうに見えた。

「なぁフィンクス」
「あ?」
「お前一応妊婦だろ?メンドクセー仕事なんて仲間に任せちゃえよ」
「そういうわけにもいかんし。お前に心配されるまでもねーよ」
「いや、マジで。もうお前一人の体じゃないんだから」
「へーへー。心配してくれてどうもありがとー」
「心がこもってない!」
抗議すると、フィンクスは「うるせェなぁ」と独り言ちって煙草を吸い始める。
「母親になるんだからやめろよ」と言いたいが、それを言ったところで無駄なのは目に見えている。
煙と一緒に溜め息を吐き出す彼を見ながら、まぁいいかと目を細める。
「で。いつ行くの」
「早けりゃ明日」
「それまで子作りし放題ってことだ」
「バカ言ってろ」
彼はげんなりと――しかし何処かまんざらでもない様子で、短くなった煙草を灰皿に押しつけた。

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