まさに自分でまいたタネだけどね

※蟻編その後。妊婦フェイと同居するフィンの話

ここのところキメラアントや東ゴルトーという単語をめっきり見聞きしなくなった。ハンター協会の選挙だとか暗黒大陸だとか、世間の関心は別のものに移ってしまったらしい。
個人的には興味も関係もないけれど、いつ召集がかかっても困らぬよう最低限のニュースは確認しておいた方がよかろう。
欠伸を噛み殺しながら報道番組を視ていた男は、雑誌を読みながら腹を撫でる同居人に視線を移し口を開いた。

「っていうかよ、ガキどうすんだ?」
「ン?」
「お前が育てる気かっての」
「まさか。産まれたら流星街連れてく」
「それじゃ二度手間じゃねーか。あそこで産んでけばよかったのに」
「冗談きついね。あそこ汚いし不便だし、いまさら十月十日過ごすとかゼタイ無理」
「あそぉ」

フェイタンの腹には命が宿っている。父親は他でもないフィンクスだ。
蟻討伐に参加したメンバーはしばらく流星街に滞在し、フィンクスとフェイタンは同じ家屋に寝泊まりした。懇意の男女がひとつ屋根の下で、しかもろくに娯楽もない田舎ですることといえば決まっている。彼女の腹にいるのは、その時できた子供である。

「フェイお前、俺に言うことあんじゃねーのか」
「何が?」
流星街を発つ支度をするところを呼び止めた時のすっとぼけた表情ときたら。どうやら彼女は、彼にさえ何も言わないつもりでいたらしい。
「『何が?』じゃねぇだろ。リサ婆んとこで何してた?」
「……」
「産婆の所に何の用だって訊いてんだよ」
沈黙を貫く彼女から答えを引き出すべく、彼はずいと顔を寄せる。
「おいコラ。何とか言えや」
「…お前に関係ないね」
彼女は鬱陶しそうに溜め息をつくと、まだ平らな己の下腹部を撫でた。
彼はある確信をもってオーラを込めた視線をその部分に向けた。凝を使っても見逃してしまいそうなほど小さいが、それは確かに存在する。彼女の中には彼女と別個体のオーラが確かにあった。
「関係なくはねーだろ。仮にも父親だぞ俺は」
「だから?産むのワタシ。苦しいのも痛いのもワタシ。どうせお前は何もできないんだから話しても仕方ないね」
「んだよそれ」
もし「父親はお前じゃない」と言われたらどうしてやろうかと思ったが、それは杞憂だったらしい。
この口振りだと産む気でいるようだ。彼女の性格上、水に流すつもりだと思っていたから正直なところかなり驚いた。
安堵と驚嘆綯交ぜの感情を抱く一方で、刺々しい物言いに怒りが沸かなかったわけではない。「あっそ。勝手にしろ」「そんなに言うなら知らねぇからな」と突き放してやってもよかったのだが、彼はどうにか苛立ちを呑み込んで言った。
「フェイ、俺と来いよ」
「は?」
「一緒に暮らそうぜ」
「なにそれ」
「流星街(ここ)出て一人でガキ産むつもりなんだろ?出産でお前がどのくらいダメージ受けるか分からんし、最悪死ぬかもしれねーし」
「……」
「安産で済んだとしても一人で世話すんのはきっと楽じゃねーぞ。人手がないよかあった方がいいべ」
彼女は無言のまま、じとりとした眼差しだけを寄越してきた。下手に出て協力を申し出ているというのに一体何が不満なのか。彼は呆れて肩を落としながら続けた。
「何だよその顔。言っとくが恩に着せるつもりはさらさらねぇよ。俺にも責任の一端があるわけだし。誰にも知られたくないってんなら黙ってるし、私生活について口出しもしねぇ。万が一の保険とでも思っとけ」
「……」
「……」
「……」
「…ガキの顔くらい拝ませてくれよ」
そこまで言ってようやく納得したのか、彼女は小さく鼻を鳴らしてから了承の意を示した。

――そんなわけで今に至るわけだが。
はじめに宣言した通り、彼女の暮らし方についてはうるさく干渉していない。
もっとも共同生活を送る以上、ある程度は時間と物を共有せねばならない。その線引きについて何度か口論になったが……その甲斐あって現在はいい距離感を保てていると思う。
向こうも向こうで気を遣うようすはない。好きなときに入浴し、好きな時間に寝起きし、好きなタイミングで飯を食い、ふらりと買い物に行く。その態度は幻影旅団として活動している時とそんなに変わりない。
結局のところ二人の関係は変わってないのだ。
腹の子がいる。暮らしを共にしている。この2点を除いては。

(まぁ……こいつはちょっと変わったかな)
同居人は彼の視線を気にするでもなく、ベッドの上でごろ寝しながら読書をしている。その一方で腹を擦り、彼の知らない言葉で胎児に話しかけ、小さな声で歌を口ずさんでみせる。
(あのフェイが母親なぁ)
微笑ましい、感慨深いと思う気持ちもなくはないのだが…彼の胸にふつふつと悪戯心が沸き出てくる。
自分に向けられたことのない表情を目にして、少しばかり意地悪をしてやりたい気分になった。
「なぁフェイ」
「何?」
返事を待たずに覆い被さり、がっしりと手首を押さえつける。
「ちょ、フィンクス」
彼女は戸惑いつつも、露骨に眉根を寄せて睨み上げて抗議の声を上げる。
「何するか。手、放す」
「やなこった」
「ふざけるな」
「ふざけてねーし」
彼は彼女を見下ろしたまま、にっと笑んで見せた。その意図するところを悟ったのか彼女は慌てて身を捩ったがもう遅い。
「ヤらせろよ。お前が腹撫でてるの見てたらムラついてきた」
「は?バカかお前。妊婦相手に何考えてるね」
「分かってねーな、妊婦相手だから興奮すんだろ」
それを聞いて彼女は嫌そうに顔を歪める。
「お前最低ね。死ねばいいのに」
「お、濡れてる」
彼女の罵詈雑言を聞き流しながら、下着の中に手を滑り込ませる。数日ぶりに触れたそこは既に熱く潤んでいた。
「呆れた。何かにつけてヤらせろヤらせろて…一緒(いしょ)に暮らすて言い出したの、これが目的だたか」
「あーあ。バレちまった」
「クソ野郎」
「へいへい」
拒む素振りを見せる彼女だが、本気で抵抗する気はないらしい。彼女はいつもそうだ。口ではいやだのやめろだのと言うくせに、いざそういう雰囲気になれば大抵彼の要求を受け入れてくれる。
「腹、目立ってきたな。いま何ヵ月だっけ」
「もうすぐ八ヶ月」
話しながら衣服を取り払い、金魚のようにふっくらした下腹部に触れる。
人並外れた腹圧のせいか彼女の腹はあまり目立たないのだが…最近、急激に腹の子の成長が早くなった気がする。
先月くらいまでは妊娠前と変わらなかったのに、今では着衣の状態でも妊婦であることが分かる。
「くすぐたいよ、手つきやらしい」
「やらしいことしてんだから当然だろが」
彼女のショーツを下ろし脚を大きく開かせ、とぷりと蜜を溢れさせるそこに指を這わせる。
「赤ん坊いるのに濡らしちまってよ。悪い母ちゃんだなお前」
「うるさい。お前が触るから」
「いや俺のせいか?最初からぐちゃぐちゃだったぞ」
すっかり受け入れる体勢のそこに自身をあてがい挿入する。ゆっくりと腰を沈めていくにつれ、彼女の表情が快楽に染まっていく。
「ん、んぅ」
根元まで埋め込んで蜜で滑った肉壺の凹凸を楽しむ。しばらく馴染ませるように動かずにいると、焦れったくなったのか彼女の方からゆるゆると尻を動かし始めた。
「何お前。我慢できねーの?」
「別に……」
否定の言葉とは裏腹に、彼女の手が彼の尻を掴んで抽挿をねだるよう前後に動かす。
「あ!あん、あぁ」
お望みのままピストン運動を始める。律動に合わせて上がる声も次第に艶を帯びてくる。胎児を庇おうとしているのか、快楽にとろけた顔をしつつ奥に挿れまいと腰を引く。この拷問好きで酷薄で皮肉っぽい、おおよそ愛とは程遠い所にいるような女にも母性が根付いているのか。そのギャップが彼の加虐心を煽る。
「赤ん坊が心配か?」
「違う。お前が重いだけ」
ぐいと引き寄せる。
「んあ!」
「ほんとかよ」
「ひ、ぃ」
彼女は目を剥いて苦しげに仰反るが、中は嬉々として絡み付いてくる。
「ヤダ、お腹潰れる」
「うるせーな。安心しろって」
やっぱり赤ん坊が心配なんじゃねーか。と言いたいのを堪えて、彼は彼女から己を引き抜いた。そして彼女の体を転がし、四つ這いで腹を抱えさせるような体勢にして再び犯す。
「これなら多少マシだろ」
「うぁ、あ」
「どうだよ?」
「だめ、奥いや」
少年のような小尻を抱え上げ、背後からのし掛かるようにして激しく打ち付ける。子宮頸部を突かれて身を捩り悲鳴じみた声で喘ぐ彼女の腹を撫でると、ぐるぐると内臓が蠢くような感覚があった。
「お、動いた」
「バカ。お前がメチャクチャするから驚いてるね」
胎動する子を宥めるように腹を擦り、非難がましい目つきで振り返る彼女の肩口に噛みつく。
「それやめる、痛いよ」
文句ばかり言う口に指を突っ込んで黙らせる。そのまま舌を挟んで弄ぶ。彼女はくぐもった喘ぎを漏らしながら観念した様子でされるままになっている。唾液まみれになった指を抜き取り、濡れたそれで胸の突起を摘む。すると途端にきゅっと締め付けが強くなった。
「何だよ。気持ちいいのか」
「…この前も言たけど、張てて痛いんだてば」
痛むという乳房を掴みマッサージするように揉みしだく。妊娠前とさほど変わらない慎ましいサイズだが、確かに固く張り詰めた感触がある。親指と人差し指の間で先端を転がすと、やがて白い液体が滲んできた。指に付着したそれを舐め取る。匂いはない。ほのかに甘い。
「もう母乳出んのか」
「母乳とはちょと違う。乳汁て言うみたい」
「へぇ。なんかエロいな」
「変態」
彼女は軽蔑の目を向けるが、どこか満更でもなさそうな表情でもある。
「吸わせろよ」
「ヤダ」
「いいだろ。ちょっとだけ」
「ゼタイいや」
頑なに拒まれれば拒まれるほど、余計吸いたくなってくるものだ。
「そんな嫌がんな。一口だけだって」
「しつこいね」
「ケチケチすんなよ」
「あ…、ダメ……」
引き抜き、ひっくり返して、向かい合う格好で抱え込む。胸に唇を寄せると彼女が息を飲む気配があった。
「やめ……、フィン」
制止を無視して右の膨らみを口に含む。彼女の肌から漂う甘い香りが鼻腔を擽る。
「ん、」
ちゅっ、と音を立てて吸い付き、軽く歯を立てる。乳汁が口腔内に染み出ると同時に彼女の背中が小さく跳ねる。
「やぁ、噛んだらダメ」
「甘ぇ」
「やだ、もう、いや」
味わうように何度か食んでから解放する。唾液の糸が引くそこを今度は優しく舐めてやる。
「ああ……」
切なげな吐息と共に彼女の腕が首に回され、ぎゅっと抱き寄せられる。耳元にかかる呼吸は荒く熱い。
「何だよ。乳吸われながら感じてんのか?」
彼女は答えない。ただ彼の腰を掴んで続きをせがみ、胎内に受け入れ、ひたすら快楽を追うよう腰を振り、彼の動きに合わせて自らも貪欲に快楽を得ようとする。
「フィンクス、外に出して」
「ん」
腹の子を気遣ってのことだろう。言われるまま引き抜いて、彼女の腹の上に白濁をぶちまける。
「あ……」
その刺激すら快感なのか、彼女は恍惚とした表情で小さく身震いした。

事後の気怠さを引きずりながら、愛液に濡れた逸物を拭いて、ちり紙を丸めてゴミ箱に放り投げる。
彼女は放心したまま天井を仰いでいる。
「ほい」
「拭いといて」
ちり紙箱を差し出すも手を伸ばす気配はない。それどころか「早くしろよ」と言わんばかりのふてぶてしい視線を向けてくる。
「お股も忘れないでね」
「お前なぁ」
「お腹邪魔でよく見えないよ」
…こいつ、だらけやがって。
文句を言いたいのをぐっと堪えて彼女の体を汚す粘液を拭う。もう満足したのか、敏感な箇所を拭き上げても全く反応がない。
「シーツ汚れちまったな」
「洗濯すればいいね」
「俺が?」
「当然ね。誰のせいと思てるか」
「へいへい」
彼女は気怠げに身体を起こし、腹を撫でながらベッドを降りる。
「どこ行くんだ?」
「シャワー浴びる」
「一緒に入るか?」
「ヤダ」
「ちゃんとシーツ替えといてね」と言い残して、彼女はさっさとバスルームに行ってしまった。
「ったく。勝手なこと言いやがる」
ぶつくさ文句を言いながらも、結局言われた通りにしてしまう自分がいる。
服を着て、汚れものを洗濯機にぶち込み、脱衣所に着替えとタオルを置いてやり、ベランダに出て煙草を吹かす。彼女は気にせず室内で吸えと言うのだが、妊婦の生活空間では何となく気が引けるのでこうして外で吸うことにしている。

ふと思い立って携帯端末を手に取る。団長からの連絡は、まだない。
コンタクトが取れたら近況報告をどうすべきか。フェイタンを孕ませたと聞いたら何と言うだろう。
クロロならまぁ、驚きはしても怒りはしないと思うのだが…マチやノブナガ辺りに知れたら煩そうだ。
フランクリンには先に伝えておくか。シャルナークにも前もって教えた方がいいだろう。へたに隠すとばれた時に根掘り葉掘り訊かれて面倒くさそうだ。
しかしああ言った手前、奴らに話すにはフェイタンの了承が必要だろうか…考えを巡らせているうちに頭が痛くなってきた。
煙と共に溜め息を吐きながら、赤ん坊はどちらに似ているだろうとぼんやり思う。
ただ言えることは、どちらに似ても小憎らしいガキになるに違いない。ということだ。
(終)

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