おかえり
「………ふう」
アランは抱えていた荷物を床に、ネクタイに指をかける。
どかっと椅子に腰掛け、ネクタイを緩めながら、今しがた戻ったばかりの数日ぶりの自室の天井を仰いだ。
「…あいつ、何してんのかな」
知らぬ間に自分の口からこぼれ落ちた言葉に、驚いて目を見開いた後、アランはそんな自分自身に苦笑する。
たった数日だが、他国での騎士団会議に出席するため離れ離れになっていたアンが、気になって仕方なかった。
1日でも早く会いたい、そう思って毎日過ごした。
しかし、滞在先での怒涛のスケジュールは、身体にしっかりと疲れを刻んでいた。
少しでいいからアンの顔を見たい…、そう思いながらも、アランは瞼の重さに抗えず、そのまま目を閉じた。
◆ ◆ ◆
翌日、アランは昨日まで他国で行われていた会議の、報告会があるため、朝早くから忙しなく動いていた。
分かってはいたが、連日こうして書類と睨み合っている仕事は性に合わない。
疲れも、アンに会えない寂しさも相まって、アランはもう限界だった。
「おい、ジル」
ジルやレオを始め、官僚たちが集う報告会の最中、アランは声を潜めて隣に座るジルを呼ぶ。
「どうかしましたか。アラン殿」
「これ、預けとくから。俺がいなくてもどうにかなんだろ?」
「……それは、どうでしょうかね」
アランが差し出した書類を受け取りながら、ジルはすっと目を細め、何を察したか意地悪く笑う。
「冗談ですよ。まったく…仕方ありませんね。今回だけは、立派なお手柄に免じて見逃します」
そう言うと、ジルは立ち上がり、その場の全員に告げた。
「アラン殿は疲れが祟ったようですので、少し休ませます。今回の彼の奮励とその功績に、盛大な拍手を」
すぐさま沸き起こる拍手に、アランは立ち上がると、ゆっくりとお辞儀する。
「それでは、アラン殿。ゆっくり体を休めてください」
ジルが向ける意味深な笑顔から、アランは居心地悪そうに視線を背けると、その場を後にした。
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