数え切れないほどのキスで
「ん………」
束の間の眠りから、ルイは目を覚ました。
しかし、いつもの事ながらすぐには起き上がれないし、目を開けることすらできない。
離れがたいベッドの温もりにしがみつくように、シーツを手繰り寄せようと手を伸ばすと、そこにあるはずのない感触にルイは訝しげに眉を寄せた。
まだ覚醒し切らない意識の中、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
「………おはよ、ルイ」
目の前には、アンの笑顔。
ルイは内心物凄く驚いていたが、まずはこの状況を理解しようと辺りを見回す。
ここは、自分の部屋で、自分のベッドだ。
「起きるにはまだ早いから、眠っていいよ」
「…………夢?」
そこにアンがいることが不思議すぎて、ルイはおもむろにアンに手を伸ばし、顔をぺちぺちと触ってみる。
「っ…もう、ルイ。夢じゃないよ」
「…どうして、君がここに寝てるの?」
ルイの言うことはもっともだ。
実は昨夜、アンがルイの部屋に泊まりに来ると言っていたのだが、片付けなければいけない公務が出来てしまい遅くなる、という話をしていた。
ルイは、遅くなってもいいと言って鍵を開けて待っていたが、アンがやって来る前に眠ってしまったようだ。
「ごめん…俺、先に寝ちゃったんだ」
「ううん、私が遅くなっちゃったから…。ごめんね、ルイ」
「…もったいないことした。君を、抱くチャンスを逃した」
「っ…!」
そう言って微笑んだルイは、すっかり頬を赤く染めたアンを腕に抱きしめ、すり…と顔を寄せる。
上半身は何も身に着けずに眠っていたルイの素肌が、アンの露出された肩と擦り合わさる。
「あの…っ、ルイ」
「ん…?」
ルイの手は無遠慮にアンの身体を這い回り出す。
腰のゆるやかなカーブをなぞりながら、アンに額をコツンとぶつける。
「ちょっ…ちょっと待って」
「んー…」
「お誕生日、おめでとう…っ!」
「………え」
「え…?」
ルイはアンの胸に触れそうだった手をピタリと止めて、綺麗な蒼い瞳を丸くしてキョトンとしている。
あまりに薄すぎるルイの反応にアンは察した。
……この人は、自分の誕生日を特別だなんて露ほども思っていないと。
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