Certain Scenery
自分の部屋の中を、ぐるぐると歩く。
先日、城下から取り寄せた靴を履いて。
なんと、ヒール20cmという、例え店で見掛けたとしても今まで手に取ろうともしなかった未知のハイヒールに足を通していた。
華奢なピンヒールは見た目通り不安定な心地で、慣れるために部屋の中を練り歩き、時折、姿見を覗く。
いつもより濃いメイクをして高いハイヒールを履いている自分が、いくらか大人っぽく見えた気がした。
それだけで物事を見る目が変わるような気がしたし、目線の高さが上がったことによって見える景色も少し変わった。
………なんて単純なんだろう。
だけど、こうすることでしか…
追いつける方法を知らない。
…大好きなクロードに。
そこへ、扉をノックする音が響いた。
「はい」
返事をして扉を開ければ、そこにはちょうど思い浮かべていた愛しい人の顔が目の前にあった。
「…っ、なんだ?」
「ん…?」
訪ねてきておきながら、開口一番珍しく戸惑いを前面に出したクロードに首を傾げながら、部屋に招き入れる。
パタン、と扉を閉めてクロードに振り返ると、その視線は足元に向けられていた。
「そういうことか。いつもと目線の高さが違ったから、驚いたよ」
先程の驚き戸惑った表情はもうどこにも見当たらず、そこにあるのはいつもの余裕な笑みだけ。
そして、どこかほっとしたように息をつくクロードに尋ねてみた。
「どう…かな?」
「ああ、似合ってるよ。だけど、いつものお前と雰囲気が違って見えるな」
「ほんと?」
クロードの言葉が嬉しくて、思わず声が弾んでしまう。
少しは大人っぽく見えているのだと思うと、その嬉しさに頬が勝手に緩んでしまう。
「これでもうお姫様なんて呼べないでしょ?」
「ああ、……そうだな。不思議と、こう…してみたくなる」
そう言ってクロードがぐっと顔を近づけ、片手で腰を抱き寄せる。
いつもより身長差がないせいで、体を寄せ合った分だけ唇の距離も近づいて、今にも重なりそうだ。
「…っ……」
「腕、回せよ」
低く甘い声が熱い吐息を纏って、唇を掠める。
促されるまま両腕をクロードの首に回して、熱に揺れる瞳を真っ直ぐに見つめた。
クロードのもう片方の手が、そっと頬に添えられると、その手のひらの熱さに胸がきゅっと詰まった。
熱を持った自分の頬よりも熱い手のひらが、クロードの燃えるような熱情を伝えているようで、たまらない気持ちになる。
目を開けたまま食むように、ちゅ、ちゅ、と落とされるキスが、いくらでも身体の熱を上昇させていきそうだ。
「…ん……ぁ…」
「…アン……」
いつしかまさぐるようにクロードの手が動いて、隙間を許さないほど抱き寄せられたかと思うと、下腹部に硬くなったものが押し付けられた。
「…ここからお前はどうしたいんだ?」
いつもと同じ、誘うような瞳がアンの心を揺さぶる。
だけど、ここで「して」と言わされてしまえば、普段と何ら変わらない。
もっと大人になってクロードを翻弄したい、だから選んだ20cmものハイヒール。
その踵を、コツ…と小さく鳴らしてクロードの脚の間に右脚を滑り込ませた。
「今日は私が…愛してあげる」
「…っ!」
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