Certain Scenery

 


クロードが驚いて腕の力が一瞬緩まった隙をついて、アンはクロードの後頭部に手を伸ばして髪に指を絡ませて引き寄せた。

そのまま屈ませられるクロードの顔がアンの顔に影を作り、呼吸も忘れて唇を重ねた。


…一瞬の、出来事だった。






いつも与えられるキスを真似て、ゆっくりと、だけど強引に舌をねじ込んでみる。

すると、迎え入れるかのように開かれた唇の奥で待っていたのは、とろけそうなほどに熱く甘いクロードの舌で。


必死になってそれを嬲るように絡めていると、クロードの熱い手のひらがお尻に触れ、片手が太腿へ滑っていき、アンの片脚をぐっと持ち上げた。

片脚を持ち上げられたアンは、不安定にぐらつくもう片方のハイヒールだけで必死に踏ん張り、クロードにしがみつく。









「……アン」









貪り合うキスの合間で、クロードが呼ぶ。

アンは視線だけで応え、またすぐにクロードの声を塞ぐように口づけた。





夢中になってキスを繰り返していた、その時―。








「……っ…!?」








ぐいっと抱き上げられて顔が離れ、アンは驚きに目を丸くしたまま至近距離でクロードの顔を見下ろした。










「やっぱり、やられっぱなしは性に合わないみたいだ。仕切り直しさせろ、アン」







「えっ……」







「今日みたいなお前も新鮮でいいが、俺がお前を可愛がりたいんだよ。美しいプリンセスは皆のものだが…怒ったり、泣いたり、笑ったり、忙しい可愛いお姫様は俺だけのものだからな」







「それってどういう…、…っ!」










言葉を紡ぐアンの唇を塞ぐ。










「お前は、俺の前ではお姫様でいいんだ。そのままのアンで」







「クロード……」










クロードに追いつきたい、そう考えていたことは見事に見透かされ、クロードの優しい眼差しがアンに注がれる。

なんだか少し悔しい気持ちになりながらも、胸を占めたのはやっぱり嬉しさばかりだった。










「…じゃあ、いっぱい可愛がってよ」







「ああ、望みのままに。プリンセス」







「っ…!こういう時だけプリンセスなんて…」







「違ったか?」










可笑しそうに肩を揺らして笑うクロードにつられて、アンも思わず笑ってしまった。










「笑ってる余裕なんてなくなるからな。俺を煽った罰だ。覚悟しろよ、アン」







「……クロードこそ」










やっぱりいつまで経ってもクロードに追いつくのは難しそう、そう思った反面、この全てを包むような抗えない温もりが心地良い。

浮いた足が床についたと思うと、すぐさま強く抱きしめられる。

大好きな、大きな腕に包み込まれて、アンはクロードの首筋に唇を寄せた。










「っ…アン」







「こうして届くのも今日限定…かな。この不安定な高いヒールも、私にはやっぱり必要ないみたい。でしょ…?クロード」







「…そうだな」










そして二人は微笑み合って唇を寄せ、もつれ合うように夜に溶けていく。


いつものままの、アンとクロードで…―。







-END-


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