ひと夏のマーメイド

 








「わあ…!きれい!」






すでに人気のない浜辺で、引いては寄せる波の音を心地よく感じながら、夕陽を反射してオレンジ色に染まった海に目を輝かせる。

そんなアンの様子に、ルイは隣でふっと優しく目を細めた。








「この時間なら、滅多に人もいないから」








夏らしく海に行きたい、と言い出したアンの願いを叶えるべく、ルイが連れてきてくれた。




連日、真夏日が続いており、夕暮れ時と言ってもまだまだ暑い。

水位は浅く、波も穏やかなウィスタリアの浜辺は、少しだけ涼を得たい時に打ってつけだ。



一応、公爵とプリンセスという立場があるため、人が少ない時間を狙って連れてきてくれたルイの配慮には頭が上がらない。








「ルイ、早く早く」







「…アン、はしゃぎすぎ」









アンがルイの手を引いて波打ち際まで走っていく。



アンと出逢うまで海で遊んだことなどなかったルイの表情は、嬉しさと楽しさに溢れた子どもに返ったような笑顔だ。











「濡れる前に脱がなきゃね」









そう言ってアンは着ていたサマードレスを大胆に脱いだ。








「…っ、水着、着てたなら先に言って。アン」






「えっ…あ、ごめん…」









アンが中に水着を着込んでいたことを知らなかったルイが、顔を真っ赤に染めながら告げれば、アンもまた伝染したように顔を赤くする。



ターコイズブルーのビキニが、アンの白い肌をさらに美しく見せていて、ルイは思わず見入ってしまった。

無意識に、喉が動く。









「ルイは、脱がないの?」








ルイが、初めて見るアンの水着姿に胸を熱くしていることなど露知らず、アンが問い掛ける。

ルイは妙にそわそわする心を押し殺して、海に入る準備をした。















「えいっ!ほら、ルイー」







「アンっ…やり返すよ?」







「いいよ!」










二人で水をかけ合いながら、沖に向かって進んでいく。

心の底から楽しそうに笑ってはしゃぐアンに、ルイは手を伸ばした。









「つかまえた」








「…っ!」










後ろから伸びてきたルイの腕に抱き込まれ、アンはピタリと動きを止めた。

ルイの髪から滴る雫が、不規則なリズムを刻んでアンの肩に落ちていく。



 
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