with Xeno
凪いだ水面が夜空を映し、そこに散らばる色とりどりの光の花たちが、今日の二人の時間を彩るように咲き乱れる。
今日はウィスタリアでの花火を見るため、アンがゼノを誘い、クルーズ船に乗り込んでいた。
今日の花火をゼノと一緒に見たいと打ち明けると、海から見てみるのはどうかと粋な提案をしてくれたのはジルだ。
しかし、プリンセスと隣国の王とのデートが知れたなら、メディアが放っておかないことは目に見えている。
年に一度の夜を、ただ静かに二人で過ごしたかったため、船の関係者以外にはゼノとアンが乗っていることを知る者はいない。
花火が打ち上がる音がして、大きな音と共に花開いては、美しく夜を飾っていく。
二人きりのデッキで、寄り添いながら夜空を見上げていると、ゼノが呟いた。
「お前はいつも、俺に新しい発見をくれるな」
「発見…ですか?」
「ああ。こんなに近くで花火を見たのは初めてだ。音も、大きさも、この色鮮やかさも、遠くから眺めているのとでは全く違う」
ゼノの声音が嬉々としていて、その顔を見上げると、柔らかく細められた瞳が花火を映して輝いている。
その瞬間、なんだか目をきらきらさせてはしゃぐ幼い頃のゼノの姿が目に浮かんで、頬が綻んだ。
この方にもそんな時期があったのかな、そう思うだけで胸が心地良い温度に包まれていく。
「こんな機会がなければ、知ることはなかっただろう。礼を言う」
「いえ、喜んでいただけて嬉しいです」
優しく見つめ合うと、ゼノの腕がアンの肩を抱いた。
花火の轟音が高鳴りだした鼓動に重なって、全身に広がっていく。
ふと、ゼノの身体が傾き、アンは不思議に思って身体を離してゼノの顔を仰ぎ見た。
小さく身を乗り出すようにして、水面を見つめる視線に気づく。
「どうかしましたか?」
「見てみろ。花火が水面に映る様が、ため息が出るほど美しい」
「あ…、本当ですね。すごく綺麗!」
「お前がいなければ知り得なかったことだ。こうして抱き寄せて…見つめなければ、この角度で花火を見る選択肢があることになど気づかなかったからな」
「っ…ゼノ様」
「顔を上げろ」
離れた身体を力強い腕で抱き戻され、隣から覗き込んでくるゼノの顔がゆっくりと迫ってくる。
周囲に聞こえそうなほど大きく脈打つ鼓動に、アンは胸元をぎゅうっと掴み、まるでスローモーションの世界にいるような心地で、近づくゼノの唇を見ていた。
そして、唇同士が触れるか触れないかの距離でぴたりと止まり、ゼノの睫毛が持ち上がる。
至近距離で見つめてくるグレーの瞳に、これ以上ないほど胸が甘く跳ねる。
「あ…っ、あの……」
――…お前が、愛おしい
吐息だけで囁いて、ゼノが唇を奪った。
押し当てられた唇から広がる熱が、アンの胸をいとも簡単に幸せという感情で満たしていく。
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