with Xeno
唇同士が離れてアンが目を開けると、目の前の熱を孕んだ射抜くような眼差しに真っ直ぐに見つめられていた。
二人の距離は、ほんの数センチ。
触れたくてもどかしくなるような、焦らすような距離で見つめ合う。
「お前といると、時折胸が苦しくなる。いくら求めても足りないのは、なぜだろうな」
「私もです、ゼノ様…。あなたが好きすぎて、胸が苦しくなります。でも、それと同じくらい幸せを感じます」
「お前の言葉は不思議だな…。愛おしすぎて、どうにかなりそうだ。アン、お前といると、いろいろな感情を知る。例えば……」
ゼノの両手がアンの腰と後頭部に回され、アンは息を呑む。
ゼノの言葉を待っていると、そっと開かれた唇がもたらしたのは大好きな低い声ではなくて、濡れて光った舌だった。
互いに瞬きもせずに見つめ合う中、ゼノの舌がアンの唇の隙間へと滑り込んでいく。
厭らしい光景に目を瞑りたくなるのに、なぜか目を逸らせないまま、受け入れるように唇を開いていく。
卑猥な水音が立ち、口内はゼノの舌にねっとりと犯されていく。
呼吸の仕方がわからなくなるほど、その淫猥な行為に翻弄され、どこか客観的に目の前のゼノを見つめていた。
「アン……」
唇を触れ合わせながら、ゼノが名前を呼ぶ。
注ぎ込まれる低音の声が下半身に響き、甘い疼きを呼び起こす。
「は…っ……」
アンは余裕なく、ゼノの熱い口づけに応えることしかできない。
それが、精一杯だった。
やがて、絡め取られていた舌が解放され、食むようにちゅ、ちゅ、とキスが落とされ、ゼノの顔が離れていく。
「はぁ…、…っ」
「…愛おしくて仕方ないと、こうして唇を奪いたい衝動に駆られたりな」
言い終わったが早いか、ゼノは再び顔を寄せ、包み込むようなキスをした。
「ん……、ゼノ様…」
アンは与えられるキスを受け止めながら、ゼノの胸にしがみつく。
腕に回された腕に、ぐっと力が込められるのを感じると、びくんと身を捩った。
「いくら触れても足りない。それどころか、余計にお前が欲しくなる。まるで底なしだ」
吐息が触れる距離のまま微笑むゼノが、刹那に眉を寄せた。
そして、半ば自嘲するようにふっと笑って目を伏せると、アンから身体を離した。
「…すまない。度が過ぎたな。これ以上は、俺も自制できる自信がない」
「……ゼノ様が求めてくれるの…嬉しいです。私も、同じ気持ちなので…」
「…そうか」
ゼノはアンを隣に再び抱き寄せて、夜空を見上げる。
星が瞬く濃藍のキャンバスに大きく広がる花火が、二人の顔を淡く照らした。
「来年は、俺がお前を誘うとしよう。シュタインの花火も見せたい」
「っ…はい!」
笑顔で交わし合った約束は、来年も、そしてこの先もずっと、そばにいようという想いの込められた、どこかくすぐったくて温かい約束だった…―。
-END-
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