amabile

※ 未来から帰ってきたよ
※ 雲雀さんと骸くんがちょっとおかしいです注意
※ ひらがなばっかりもちゅういちゅうい!




ぼふん、と煙が舞った。
それからしゅるりと衣擦れの音がして、かちゃん、と金属が落ちた音がする。
え、と思ったら、煙が消えた。

「………つなよし?」
「え。───えぇえ!」

記憶の中の静玖が、服を着崩してちょこりと座っていた。




☆ ☆ ☆ ☆




「故障だな」
「故障って、」

小さくなった静玖をシーツにくるめて、別室にいたリボーンの所へ行った。
もちろん、元凶のランボを忘れずに。
するとリボーンは静玖を一瞥して、ぽつり、呟く。
バズーカの故障で、本来なら10年後の自分と入れ替わるはずなのに、何故か肉体、精神ともに幼くなってしまったのだ。
………それにしても、

「よく、俺が『綱吉』だってわかったね、静玖」
「だってつなよしだもん」
「静玖………」

抱えたまま頭を撫でると、静玖はきゅうっと目を閉じてそれを甘受する。
そうそう、静玖はこんなんだった。

「おい、静玖」
「………………」

きゅう、と俺の首に腕を回してリボーンからぷいと顔を反らす。
チッ、と小さく舌打ちをしたリボーンは、そのまま帽子の鍔を上げた。

「オレはリボーン。ツナの家庭教師をしているんだぞ」
「リボせんせ、」
「この頃から思考回路は変わってねぇのか」
「リボーン!」
「冗談だぞ。ビアンキのところに行ってみろ。服を用意してくれるだろう」
「あ、そっか。いつまでもシーツで蓑虫なわけにはいかないもんな」

ランボも反省してるみたいだし、とちらりとその頭を見る。
もじゃもじゃの中から、10年バズーカの銃口が見えたのでそっとしまった。
部屋を出て、リビングにいる母さんとビアンキのところに行くと、俺の中の静玖を見て、きょとりと目を丸くする。
………うん、まぁ、そうだよね。

「ななちゃんだー」
「静玖ちゃん?」
「だよ」
「………あらあらまあまあまあ! 懐かしい姿になっちゃって! お洋服は? おばちゃんが用意してあげるわぁ〜」
「か、母さん、何ナチュラルに受け入れてるの」
「あら。どんな姿でも静玖ちゃんは静玖ちゃんよ? ね?」
「しずくだよー」

いつの間にか、静玖は俺の腕から母さんの腕に移動していて愛でられていた。
そんな静玖に、ビアンキが近付く。

「ビアンキよ。よろしく、静玖」
「びあんきさん?」
「舌っ足らずね」
「???」

こて、と首を傾げた静玖の頭を撫でたビアンキは、満足そうに微笑んだ。




☆ ☆ ☆ ☆




母さんとビアンキとリボーンの強い要請で、静玖は今現在、コスプレに近い格好をしている。
白の、襟にレースが付いたブラウスに、水色を基調としたエプロンドレス。ドロワーズまでしっかり着せられているあたり、単なる着せ替え人形。
『不思議の国のアリス』的装いの意味は、『バズーカの故障で知らない世界(未来)に迷い込んだ』をコンセプトにしているらしい。
首に、フィーの白いおしゃぶり、『雪』のボンゴレリング、基本的に肌身離さず填めているピンキーリングを掛けたチェーンさえなければ、本当にただのコスプレだ。
そして俺は、そんな静玖を抱えて街中を歩いている。
リボーン曰わく、『幼子を抱えてウォーキング修行』らしいんだが、どう考えてもコスプレもどきな幼女を抱えた変質者にしか見えないだろう。
………うぅ、明日、学校に行きづらいぞ、これ。

「つなよし?」
「ん?」
「つなよし、わたし、いや?」
「え、あぁ、お前が嫌なわけじゃないよ」

悪ノリした方が悪く、嫌なだけだ。
こつり、と額を合わせれば、静玖はにこにこと笑う。

「───十代目?」
「え? あ、獄寺君」

後ろから声を掛けてきたのは獄寺君で、俺の腕の中の静玖を凝視していた。
そうして彼はぽつり、柚木か、と呟く。
首を傾げながら瞬いた静玖は、小さくだあれ、と返した。

「獄寺隼人───じゃなくって、十代目、これは一体………?」
「10年バズーカの故障で、身も心も5才児になっちゃったんだよ」
「なるほど」
「ごくでらさん………?」
「『君』、だよ、静玖」

いつもの呼び方に訂正すれば、静玖はぽわり、と笑みを浮かべ、

「ごくでらくんっ」

と彼に手を伸ばした。
常時では有り得ないそれに、獄寺君が固まる。
だけど、何の反応も返さないのはマズいと思ったのか、獄寺君もまた、静玖に手を伸ばし、

「わぁあ、」
「あ」
「これで、いいか?」

ぎこちない手で、静玖を抱き上げた。
ちょっと辛かったから、有り難いと言えば有り難いけど、静玖の温もりが無くなったのは寂しい。

「ふにゅ、」
「なにその笑い方」
「えー、だめぇ、つなよし?」

首を傾げながら言われたら、頷く他無い。
あぁ本当、昔は素直だったなぁ、静玖は。
………いや、今も割と素直か。

「ツーちゃん?」
「あ、」
「げ、」
「ねーね!」
「───『ねーね』? 姉、え、静玖か?!」

声を掛けてきたのは静玖の姉の深琴で、山本と一緒だった。
ねーね、と静玖が言った途端、山本は驚いた声を上げたけれど、彼女は違う。
ぱぁああああ! と顔を輝かせ、獄寺君の腕から静玖を取り上げた。

「うん、わたしは確かにねーねだよ、静玖!! どうしたのなぁに懐かしい姿でそんな可愛らしい格好してお姉ちゃん幸せ過ぎて暴走しちゃぁああう!」
「忘れてたけど、シスコンだったよね、お前」
「あぁ、ツーちゃん、呆れないでっ! 静玖がこォんな可愛い姿なのがいけないのよ!」
「………ごめんね、ねーね?」
「ああああやっぱり静玖は悪くない!!!」

きゅむ、と静玖を抱き締める彼女を見て、相変わらず仲が良い姉妹だな、と思った。

「それにしても、静玖、ちっさいのなー」
「だあれ」
「山本武ってんだ」
「山本君、だよ、静玖」
「はい!」

片手を挙げて素直に返事を返した静玖に、誰もが微笑む。
その時、ざっと地を蹴った音がした。

「何群れてる───、」

天下無敵の並盛秩序、ヒバリさんだ。
だけど、不自然に言葉が切れる。
その視線は、静玖に向いていた。
───あ、

「静玖? 柚木静玖かい?」
「だぁれ? ねーね、しりあい?」
「うん、ねーねの知り合いだよ。雲雀恭弥くん。雲雀先輩って呼んであげて」
「ひばりせんぱい?」
「っ………!!」

あ、悶えた。
ふるふると肩を震わせるヒバリさんを見て、思わず冷たい視線を向ける。
なんで身悶えてんだ、あの人。
あんなんで良いのかな、風紀委員長って。

「………???」

じぃいいい、とヒバリさんに睨むように凝視されても、静玖はただ首を傾げるだけだった。

「静玖、ちゃん………?」

不思議な空気の中、鈴を転がした声が響く。
見れば、麦チョコを抱えたクロームがいた。
片目の彼女は、その目を大きく見開いて静玖を見ている。
その時、ふぁさ、と霧が舞った。
あ、

「静玖さん!」
「ふわぁ?!」
「可愛いですあぁもう可愛すぎますさすが僕の友!!!」

がばっと人様の腕から静玖を抜き取って静玖を抱き上げ抱き締めたのは骸だった。
あまりのことに、静玖は目をぱちくりとさせて固まっている。
あああ、静玖!

「離しなよ、ナッポー。うちの生徒が汚れる」
「クフフ。身悶えるだけで抱き上げるようなことも出来ないという僻みですか?」
「咬み殺す!」
「こんな可愛らしい子供の前で武器を取りますか。なんて冷酷非情な………。ねぇ、静玖さん?」
「???」

骸の腕の中、静玖が首を傾げる。
まぁ、確かに今の静玖にとってはわからない言葉だらけだっただろう。

「おりる」
「静玖さん」
「おりるから、あそんでいいです、よ?」

ヒバリさんと骸は遊びたいんだと考えた静玖が、くいくいと服の裾を引っ張った。
骸はふるふると身体を揺らしながら静玖を地に降ろす。
その刹那───、

「クフフ、クハハハハハハ! 悔しいですか、雲雀恭弥! 悔しかったら貴方も抱っこしてごらんなさい!!」
「五月蝿いよ!」

ガキィン、と金属がぶつかり合う音がした。
ヒバリさんのトンファーと、骸の槍の柄がぶつかる音。
あああ、どうしよう、ここ、街中なのに!

「つなよし、ごくでらくん」

てしてし、と小さな足で精一杯歩いてきた静玖は、そのまま俺の足を叩いた。
どうした、と獄寺君とともにしゃがみ込んで静玖を見れば、静玖はにこ、と笑う。

「かえろ?」
「えー、静玖、ねーねは?」
「ねーねはやまもとくんとあそぶんでしょ? だから、つなよしたちとかえる」

そう言った静玖が俺に手を伸ばすから、ひょいとその身体を抱えて立ち上がった。
静玖に何も言い返せなくなったのか、深琴は何も言わずに手を振る。

「ねーねのこと、よろしくです」
「おぅ、任されたのな」

山本はぽんぽんと静玖の頭を叩いて、雑踏の中、連れ立って歩いていった。
まだバトルしているヒバリさんと骸から目を離し、俺達は帰路に着く。
その途中、京子ちゃん達に出会った。

「あれ、ツナ君、その子」
「静玖だよ」
「こんにちは」
「こんにちは、静玖ちゃん。京子だよ」
「きょーこちゃん?」
「オレは了平だ! 今の静玖は極限に小さいな!!」
「おい、芝生頭、丁寧に扱えよ!!」

わっしゃわっしゃと静玖の髪をかき混ぜるように頭を撫でたお兄さんに、すかさず獄寺君の声が飛ぶ。
それは、静玖への衝撃が抱えている俺にも来ていたからだ。

「あ、静玖ちゃん。シュークリームあげる」
「………………」
「もらって大丈夫だよ、静玖」
「ありがとうございます」

京子ちゃんの言葉に戸惑った静玖が俺を見上げてきたので、そう声を掛ければ、ぺこりと頭を下げた。
京子ちゃんは持っていたケーキボックスからシュークリームを取り出して静玖に持たせる。

「じゃあ、行こっか、お兄ちゃん」
「おう! またな」

今度は優しく撫でたお兄さんにへにゃりと静玖が笑みを返した。

「良かったな、シュークリーム」
「ん。………ごくでらくん」
「ん?」
「3つにして? さんにんでたべよ?」
「………ほら、貸してみろ」

あまり大きくないから、3人でわけちゃうと1口ぐらいになってしまう。
いいの、と聞けば、静玖はこくんと頷いた。

「おいしいのは、わけっこ!」
「そっか」
「サンキューな、」
「んーん!」

しあわせもわけっこなの、と彼女は幸せそうに笑った。

本来の姿になったとき、「あまりの羞恥に泣ける」と静玖が頭を抱えることになるのはまた別の話。












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10代目ファミリーかヴァリアーとのことだったので、10代目ファミリーにしてみました。
守護者+αを出して御満悦なのは書き手です、すみません。
リクエスト、ありがとうございました!



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