お弁当日和

※ 幼少IFの設定です
※ 捏造万歳失礼します
※ ひらがなばっかりちゅうい!




「水筒は持ったかい?」
「はい」
「お弁当は重たくないかい?」
「はい」
「じゃあ、ザンザスに何て言うんだっけ?」
「『おべんとーのでまえですー』」
「うん、大丈夫だね。ほら、帽子」
「わぷっ」
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
「はあい」

まっくろなおくるまから降りて、ティモにバイバイする。
よし、がんばるぞ………!
おーっ、とグーを空にむけてつきだした。




☆ ☆ ☆ ☆




「ざんざすさん!」

砂糖菓子のような甘い声で暴君を呼び止めたのは、学校に来るにはまだ幼すぎる少女だった。
赤い目の暴君はその瞳をわずかに見開いてから、少女へと手を伸ばす。
そうしてひょいと少女を抱き上げ、何事もなかったように屋上に向かって歩き出した。

「ざんざすさん、どこ行くのー」
「屋上だ」
「おくじょ………? そこ、きりたちもいるの?」
「さあな」
「むぅ」

暴君に抱かれたまま、楽しそうにぷらぷらと足を動かした少女の手には、少女の身体には不釣り合いの大きさを持つ荷物があった。
それを見咎めた暴君は、音を立てて走ってくる黒い影にその荷物を差し出す。
黒い影───暴君に忠誠を誓う男、レヴィ・ア・タンだった。

「あ、れびたん」
「ボス、これは………。なんでソレがここに」
「白雪」
「ざんざすさんにおべんとーのでまえー、なの!」

きゃっきゃっと楽しそうに笑う少女をレヴィは一瞥して、それから暴君から荷物を預かる。
暴君の腕の中にすっぽりと収まる少女は、ぱち、と目を瞬いてから、あ、と小さな声を上げた。

「………来たか」
「なのー」
「な、何がですか、ボス」
「すぴるべが来るの」

ぱたぱた、と再び足を振って楽しむ少女を抱え直した暴君は、足を止めることなく再び屋上を目指す。

「すーぴー、」

暴君が目指す方向とは逆を見る少女は、暴君の首に手を回すように暴君の背の方向へと手を伸ばした。
が、それは空を切った後、暴君の首へと収まる。
そうしてようやく、暴君の足が止まった。

「どうした」
「すぴるべ、ひとりじゃない………」

人見知りの気があるのか、きゅう、と暴君に抱き付いた少女は、困ったように眉を寄せ、しゅん、と俯いた。

「跳ね馬だな」
「だあれ、それ」
「知らなくていい」
「………はあい」

素直な返答に、暴君は満足そうに口端を吊り上げた。
暴君の右斜め後ろを歩いていたレヴィにその表情は見えなかったが、暴君は少女が関わると機嫌が良いことが多い。
再び動き出した歩みが軽そうに見えるから、きっとそうなのだろう。
レヴィはふ、と静かに笑ってその後に続いていく。
屋上に着けば、少女は空を仰ぎ見た。
少女の絶対唯一である『空』を思わせる穏やかで清々しい青空。

「ざんざすさん、お昼はー」
「ああ」

適当な場所に腰を下ろし、少女の身体をくるりと反転させた。
ぽす、と鍛えられた暴君の腹に背を預けた少女はレヴィへと手を伸ばし、弁当を預かり、その包みを開く。
見えた漆塗りの重に、暴君は眉を寄せた。

「なんで和食なんだ」
「だってあめがわしょく好きだから………。ざんざすさんはきらい?」
「………………」
「じゃあ、なし!」

暴君の無言の訴えに重を包んでいた風呂敷を改めて結ぼうとする。
その小さな手に手を重ねて少女の動きを止め、重の蓋を開けた。
俵型に握られたおむすびから始まり、出汁巻き玉子、筑前煮、足がぴょんと跳ねたタコウインナー。一口大にまで切られたフルーツまで入っているのを見、どう考えても、少女のために作られた三段重の弁当であると結論付けた暴君は、大小二つある箸入れに手を伸ばす。
大きい方は自らに、小さい方は少女に手渡し、蓋をスライドさせた。

「ざんざすさん、たべる?」
「ああ」
「………へへ」

伺うように呟かれた言葉に短く鋭く返し、出汁巻き玉子に箸を伸ばした。
それを見た少女は、ふにゃん、と柔らかい笑みを浮かべ、小さな手でしっかりと箸を握り締め、逆の手で俵型のおむすびに手を伸ばす。
小さい子供も握りやすいように作られているそれを見て、ここで少女が昼に同行するのは九代目とその守護者達の中では決定事項だったようだ。
口の端に米粒を付けてもぐもぐと美味しそうに咀嚼する少女を上から覗きこみ、暴君はその米粒をそっと親指で拭う。
その親指を少女の口元に持って行けば、少女は素直にぱくりとその指に食らいついた。

「んっ」
「旨いか」
「おいしいですよぅ。………はい」

食べかけのおむすびを暴君へと差し出す。
中身のおかかがひょこりと顔を露わにして、危うく落ちそうなぐらいだ。
それでも慌てず緩慢な動作で少女の指ごとぱくりと食らいつき、最後にぺろりと少女の指の腹を舐める。
ぴゃ、と小さく鳴いた少女にくつりと笑った暴君は、そのまま大きな手をふりかけをまぶしたおむすびへと伸ばした。

「ザンザスさん、おいし?」
「あぁ」
「レビたんもたべ、うっ」

フェンスに背を預ける暴君の傍にそっと控えるレヴィに声を掛けた少女の声を遮るように、おむすびを口元に添える。
それを見て、レヴィはそっと口端を緩めた。
今日もどうやら、暴君は小さな雪姫のおかげでその形を潜めているようだ。

つまりはまぁ、平和なのである。












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幼少IFでザンザスさん中心ほのぼのが何故かおむすびもぐもぐになりました。
お名前だけですが、スペルビとディーノさんが居ました。出したら変に長くなりそうだったので無しにさせて頂きました。
リクエスト、ありがとうございました!



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