身に纏う黒

※ 未来編後ぐらいからお付き合いしてます
※ 継承式が終わった後ぐらい?




どうしよう、どうしよう、どうしよう!
手の内にやってきたヒバードをつつきながら気を紛らわす。
それでもヒバードを直視出来なくて、そっと出入り口の方へと視線を追いやった。
ヒバードを見ても思い出し、最終的には風紀委員の格好を見てアレを思い出すのだから、本当はしばらくの間、応接室には来ない方が良いのかもしれない。
でも、会わないのはちょっと………。
そこまで考えて、思わず頬を赤くする。
こんな反応、恥ずかしい。
応接室のソファーに縮こまるように座って、恥ずかしさを誤魔化すようにスカートをきゅ、と握り締めた。

「柚木? スカートが皺だらけになるよ」
「っ、」
「風紀委員長としては見過ごせないな」

身嗜みもしっかりしなよ、と書類を片付ける雲雀先輩から声が飛んで、思わずそちらを見てしまった。
綺麗な黒髪。肩に掛けられる学ランは今、椅子の背もたれに乗っている。
それらを見た瞬間、かっと身体中を熱が走った。

「柚木?」
「………」
「至門の島から帰ってきてからずっとそうだね。どうしたの?」
「う、あの、」
「うん」
「『形態変化』した時の、」

椅子から離れて私の隣に座った雲雀先輩がスカートを握り締めている手に手を重ね、やんわりと解いていく。
そうして、指の一本一本を絡めるようにして手を握られた。
そっ、そういうコトされると恥ずかしくって、思わず目を伏せる。

「で?」
「えっ、」
「『形態変化』がどうかしたの?」

言葉を止めてしまった私を咎めるように、雲雀先輩が問い掛けてきた。
あ、え。
改めて聞き返されると、自分が余りにも恥ずかしいことを言おうとしていたことに気が付いて、頬が熱くなる。
でもいつまでもこのままでは居られないので慌てて顔を上げた。

「先輩のっ、長ラン姿が格好良かったんです………!」

言った。
言い切った。
やだ、もう、恥ずかしい………!

「そう、」
「………っ」
「だったら、」

かちゃり、左手首に付けられたらボンゴレギアが音を立てる。
雲雀先輩の左手は私の右手を掴んでいるから、ロールが少し動いたんだと気が付いた。
私の視線がボンゴレギアに集中している間にそろりと右手が伸びて私の左手を掴み、そっとボンゴレギアに重ねる。

「してあげようか?」
「え?」
「『形態変化』。君、気に入ったんでしょ?」
「いっ、いえいえっ。そんな、体力使わないで下さい」

『形態変化』にどれだけ体力を使うかは一応わかってるつもりだ。
そ、そりゃあ、あの姿の雲雀先輩がいくら格好良くても、必要のない『形態変化』はやることない。
そう? からかいを含んだ言い方に、そうですっ、と言えば雲雀先輩は同じ言葉を繰り返して納得した。

「僕から逃げて、草壁から逃げて、風紀委員から逃げて、あぁ、この子からも逃げたらしいね」
「っ、なんでっ、」

この子、とは雲雀先輩の肩に止まったヒバードのこと。
それにしても、なんで私が風紀委員全体を避けてたこと知ってるのかな?!

「僕を誰だと思ってるの」

天下無敵の並盛の秩序です。

「わかってるじゃない」
「はぁ、」
「それにしても君は、相変わらず妙なところで恥ずかしがるよね」
「べ、べつに妙じゃないと思います」
「妙だよ」

ぱっと手を離され、思わずその手を追った。
するとその腕をぐい、引かれて身体が傾げる。
あ、と思ったら身体が浮いて雲雀先輩の膝の上。
するりと頬を撫でられて後頭部へと手が回る。

「ん、」

そうして頭を引かれて触れるだけのキス。
雲雀先輩が離れると、なんだか寒く感じるから堪らない。
先輩の胸元のベストを握り締めて今度は私から口付ける。
雲雀先輩が口角を吊り上げたので、何だろうと思いつつも、ゆっくりと離れていった。

「ほら、こういう事は恥じらいないじゃない」
「えっ」
「まぁ、いいけど」

ぷちん、とワイシャツのボタンが外される。
入ってきた空気が冷たい。
ひゃ、とふるりと身体を震わせる。するとすぐさま雲雀先輩の唇が鎖骨に触れた。
ちゅう、と吸い付いて、それからぴちゃりと舐める。
そしてまた吸い付いて、最後にかぷり。

「ふぁっ」
「痛い?」
「平気、ですっ」
「ふうん」

甘く笑った雲雀先輩はそのままその背をソファーに倒した。
雲雀先輩の厚くはない胸元にもたれ掛かるようになって、思わず退こうとすると、するりと腰を撫でられ、変な声が漏れる。

「ねぇ、」
「はあい?」
「帰りはバイクで。いいね?」
「はあい」

意志を持って動く雲雀先輩に目を閉じる。
雲雀先輩の温もりが好きで好きで仕方ないのは、今に始まった事じゃない。




☆ ☆ ☆ ☆




ほんの少し痛む腰にそっと手をやると、ふぁさ、と肩に何か掛けられた。
ふぇ、と妙な声を出しながらそれが何か確かめれば、風紀、の二文字の腕章が掛けられた学ランだった。

「雲雀先輩?」
「それ、あげる」
「え?」
「君、学ランが好きなんじゃないの?」
「えぇ?!」
「違うの?」

違う、と言いかけ、思わず口を閉じる。
厳密に言えば、違う。
違うけど、学ラン=雲雀先輩、っていう端的な考えが、ないわけじゃないから、学ランは嫌いじゃない。
ただ、雲雀先輩が身に纏うものだから、好きなのだ。
でも、これを伝えるのは恥ずかしい。

「雲雀先輩、ありがとうございます」
「それ来て学校来ても良いんだよ?」
「や、風紀委員じゃないのでそれは遠慮します」
「それは残念」

くす、と笑った雲雀先輩がボタンを一つ一つ掛けていく。
されるがままでいたら、大きめの学ランにすっぽりと身を包んだ私が出来上がっていた。

「帰ろうか」
「はいっ」

差し出された手に、手を重ねてソファーから立ち上がった。
………家に帰って、姉にからかわれたのは言うまでもない。












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雲雀先輩の長ラン姿は美しすぎると思った結果の作品でした。
微裏、と言うより微々裏になりました。
リクエスト、ありがとうございました!



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